51 真夜中の男子会
冬の夜、柔らかな月明かりが、セレフィオーネのベッドに落ちる。セレフィオーネは既に夢の中。セレフィオーネの足を枕に寝ていたルーは、外の足音に目を覚ます。
もそりと立ち上がり、窓の外を覗くと、複数の男子学生が講堂に向かって走っていた。ルーには見覚えがあった。あれはセレと同じクラスの童どもだ。
ルーは自身に幻術をかけ、ピョン、と飛んだ。
◇◇◇
「えー、静粛に!静粛に!それではこれより第2回、セレフィオーネ様アルマ様と同級生である喜びを噛み締める会を開催いたします」
ドンドンドンドン!
ピー!ピー!
「では、出席を取ります。……………。一年生48名、全員出席ですね。おや、ダンくんは今日の授業、発熱でお休みでしたよね?ベッドから出て大丈夫ですか?」
「ゼイゼイ……セレアルの総会があるってのに……寝てられっかよ……ゼイゼイ……」
「素晴らしい心がけですね。では本日も司会は1組のエベレストが務めさせてもらいます」
ドンドンドンドン!
ピー!ピー!
「まず、前回の持ち越しの議題、2組発案の『女子が二人とも1組ってズルくね?』から進めてまいりましょう。では2組の代表者、発言お願いします」
「はい!2組の総意ということでこの案件を前回発案したわけですが、約一年過ごしてみて……セレアルを一人づつ分けるという当初の提案は下げることにいたしました。たった二人の女の子をバラバラにしてしまうこと、それは二人を悲しませるだけだとわかりました。二人揃ってこそのセレアルだと」
「おおー!」
「2組、泣かせるー!」
「英断だなー!」
「故に、改めて新提案いたします。『2年次はセレアルお二人とも2組じゃないとズルくね?』です。今年1年は涙を飲んで、セレアルのそばにいる権利を譲りましょう。ですが来年は2組にです。これは譲れません!」
「そうだそうだー!」
「何言ってんだこらあ?セレアルせっかくクラスに慣れて伸び伸びしてんのがわかんねーのか?」
「ふん、2組にセレアルが来たらもっともっと居心地よくさせてあげますよ!」
「んだとー?」
「おい……ちょっといいか?」
「はい、コダック先生、どうぞ」
「盛り上がってるとこ悪いが、来年のクラス分けは成績順って決まってる。上位25名が1組、後が2組だ」
「「「「「な、なんだってえ!」」」」」
「今んとこ、セレフィオーネは1位。アルマは……5位だな。これは学年末まで大きく変わらんだろ。だから二人はほぼ1組決定だ」
「マジかよ……」
「やべえ、オレ、今更二人のいない教室でなんて生きていけない!」
「座学オレ赤点だ!誰かノート見せてくれ!頼む!」
パンパン
「皆さま、静粛に!コダック先生、貴重な情報ありがとうございました。恐らくお二人は来年1組。二人と同じ空気を吸いたくば、学年末の試験で結果出すしかないぜ!ということでこの議案は終了でよろしいですか?」
パチパチパチパチ………
「では次の議題、これまた2組の提案ですね。『学祭は学年合同でしたほうが楽しくね?』です。では2組、発言お願いします」
「……………、…………、………!!!」
「!………!!」
「…………」
「???」
「………」
「では、ここからは自由討議です。意見のある方挙手、ハイ、ジャイロくん」
「先日、ニックが馬でセレフィオーネ様と出かけて行くの見たんですがあ、どこに行ったんですかあ?まさか二人は付き合ってるんですかあ?」
「なにー!」
「ニックお前、何抜け駆けしてんだよ!」
「お前、アルマ様派じゃねえのかよ!」
「静粛に!ニックくん、発言お願いします。包み隠さず、いいですね?」
「はあ……先日、セレフィーと出かけた先は、トランドルギルドだ。セレフィーの昇格審査だった。オレは勉強になると思って見学に行った。それだけだ」
「セレフィオーネ様……昇格ですか?」
「ああ、あいつはゴールドランカーだ。とんでもない……禁じ手で……Sランクに勝ちやがった……」
「トランドルのA……」
「いよいよ手が届かない女神の域に……」
「あの、ニックの表情……一体どんな技を……」
「ニック!なんでこんな重要なこと、報告しなかったのですか!」
「だって、あいつ、そういうの嫌うんだよ。自分の地位とか、強さとか、善行とかひけらかすの」
「そうだった……」
「さすが宵闇の姫神……」
「絶対魔王の妖精……」
「はーい!それと反対に自慢ばっかして、アルマ様をいじめてる人の情報仕入れてきましたー!」
「なにー!」
「あの物静かで激強のアルマたんをーー!」
「誰だそいつは!」
「静粛に!ではライトくん、どうぞ。」
「オレの知り合いが昔、セシルんちの侍女してたっていうから聞いてみたら、家族中でアルマ様を蔑ろにしてたんだって。大貴族様のくせに、アルマ様に教育もドレスも剣もなーんにも与えず、ぜーんぶセシルのお下がり。アルマ様、いっつもベッドで泣いてたけど、慰めたら、首になるから使用人は見て見ぬふりしてたってさ」
「はあ?」
「さいっあく!」
「セシル!テメエどういうことだよ」
「いや、アルマは女だったから、我々男兄弟とは違っ……」
「お前バカ?違うのは当たり前だよ。だからってなんで女だと蔑むわけ?お前、妹がいじめられてるの見て助けようとか思わないの?」
「いや、我が家では女は弱いから……」
「弱けりゃ尚更大事にするんじゃないの?」
「まさか10歳の貴族全員参加の王女様主催のお茶会にも出してやんなかったの?ーひっでえ!」
「女は弱い?アルマ様より弱いくせに何言ってんだ?」
「だからアルマ様、少し陰があるのか……」
「セシルの嘘のせいで、アルマ様、ビンタくらったことあるって!」
「「「「「!」」」」」
「………おい、セシル、表に出ろ!」
「末娘殴る家?最悪……」
「あ、あんなことになるなんて、思わなかったんだ!私だって、ここに来て、反省してるっ!アルマが学校に入るやいなやあんなに可愛くなって、私はなんてことをこれまでしてきたのか……と……。アルマの気がすむのなら、土下座の私を……蹴って踏みつけてほしい……できればセレフィオーネ様にも……」
「「「「「…………」」」」」
「お、おっほん!アルマ様が可愛くなかったとしたら、お前ンチが不幸にしてたからだろ?」
「アルマ様……ドンドン綺麗になるよね……最近固さが取れてふんわり笑う姿とか見ると、切なくて泣くし、オレ!」
「セレフィオーネ様効果だな。休日の双子コーデ姿、悶絶だぞ!」
「朝食にぱじゃま?の女子四人が揃ったのを見たとき、オレは初めて神に感謝した!」
「あの、奇跡回な!」
「まじか?見たい!オレも西寮に移りたい!」
「おい……ちょっといいか?」
「はい、コダック先生、どうぞ」
「お前ら『騎士五訓』の二訓目言ってみろ」
「「「「「一つ、騎士たるもの、自分より弱きものを愛し、敬い、守るべし!」」」」」
「そういうことだ。セシル、もうわかっているな?」
「はい……」
「あのっ、いいですか?」
「おや珍しい!マードックくん、どうぞ!」
「あ、あの、僕たち芸術研究会のメンバーで、『騎士団四姉妹』っていう物語を作りました。長女がしっかりもののエリス様、次女が朗らかなササラ様、三女が物静かなアルマ様、四女が破天荒なセレフィオーネ様で、難事件を解決するお話です。挿絵は画家としても有望な三年のネルソン先輩です。もし興味があればお声がけください」
「おい……ちょっといいか?」
「はい、コダック先生、どうぞ」
「……その本、いくらだ?」
「500、ゴールド、です」
「買った!!!」
「先生、ずり〜!オレもー!」
「わ、私も!」
「オレ2冊!コレクション用と読書用!」
「………………」
「…………!」
「!……!」
「さて、そろそろ寮監の夜の見回りの時間です。最後になりますが、未確認の情報をお知らせしておきます」
「なんだ、なんだ!」
「エベレスト、もったいぶんなよ!」
「今年の四年生の卒業ダンスパーティー、我らのセレアルを担ぎ出そうとする動きがあるようです」
「なんだとー!」
「セレアルと踊る?絶対許さねえ!」
「いやでも、セレフィオーネ様もアルマ様も、四年生のエリス様ササラ様を慕っているから……お二人から頼まれたら否とは言えないかも……」
「そうだ!1年もなんか当日行事ぶつければいいんだ!コダック先生、演習入れよう!演習!」
「はあ?おれがあ?2組のマイヤー先生に頼め!」
「……………!」
「…………」
「………………?」
「!!!」
◇◇◇
『くだらん…………』
ルーが部屋に戻ると、セレフィオーネはさっきと全く同じ姿勢でスヤスヤと寝ている。
ルーはフッと笑い鼻先をセレフィオーネの頰に擦り付け、目を閉じた。
男子会が無事終わったところで?、数日更新お休みします。週末には戻れる予定です。
よろしくお願いしますm(_ _)m
 




