5 お兄様と和解しました
私とルーは床に突っ伏しワンワン泣く兄に合わせて、ペタリと床に座り込んだ。
「い、いつ、セレフィオーネの部屋から悲鳴が聞こえるか、ハラハラしてた。私は弱虫だ。恐ろしくてセレフィオーネの部屋を開けられなかった。 セレフィオーネが母上のように冷たくなっているのではと思うと、私は私は………」
そうだよ……どんなにカッコよかろうが、しっかりしてようがラルーザはたった10歳。前世でいえば四年生?怖くて怯えてパニくってあんな恐ろしいしかめっ面になってたんだ。
「うっうっ……恐る恐る、夕食に出ると……セレフィオーネは健やかで、でも聖獣さまがご一緒で……セレフィオーネの代わりに聖獣さまが大怪我をされたと聞いて……」
私の代わりではないぞ?お兄ちゃん。ルーだけが雪に浮かれて跳ねまわってたのだぞ?
「聖獣さま、全てお見通しだぞって瞳で私に伝えてきて……でも私のことを父上に告げることもなくて……私の勇気を試されているんだと……」
私は薄ーい目でルーを見た。ルーは挙動不審に視線を泳がせてる。
「結局、こんな遅い時間になるまで謝ることもできず、私は私は……」
お兄ちゃんのキレイなエメラルドの瞳が涙と一緒に溢れ落ちそうだ。いかん!私、子供をここまで泣かせて何してんの?
私はラルーザに飛びついて顔を覆う手を退けさせて、柔らかいパジャマの袖で優しく優しくラルーザの真っ赤な目の周りを拭いた。
「おにいさま、なかないで?お目目がおっこちてしまうわ」
「セレフィオーネ……」
「おにいさま、とってもこわいおかおだったから、わたくしのこときらいになったのかとおもいました」
「セレフィオーネのことを嫌いになるなんて絶対ない!可愛い可愛い私の妹だ!」
ああ、嫌われてなかった。よかった。顔面不器用なだけなんだ。でも絶対嫌いにならないってのはどうだろう?シナリオが進めば…………今考えなくてもいっか。
「おにいさま、セレフィオーネもおにいさまがだいすきです」
ラルーザが真っ赤になり、涙が止まった。
「セレフィオーネ……」
「ルーもおこってないよね?ルーもおにいさますきだよね?」
居心地悪そーにソワソワしていたルーは私に睨み付けられて慌ててコクコク頷いてくれた。
ラルーザは下唇を噛みしめると…………ガバッと私とルーを抱きしめた!
「私も、私もセレフィオーネとルーさま大好きだ!」
ああ……おにいさま……
私も兄にギュっと抱きついた。ルーはもそもそと私達の隙間から顔を出してラルーザの頰をペロリと舐めた。
「ふふふ、ルーさま、くすぐったい」
お兄ちゃんは年相応に泣き笑いした。
「ラルーザ」
その声にハッとして二人と1モフは顔を上げた。すぐ頭上にお父様がいて手を広げ私たち全員を包み込んだ。
そりゃ気づくよね。こんだけ大騒ぎしていたら。お父様は兄と私の頭を交互に優しく撫でる。
「ち、父上、先程真実を言うことができず……申し訳、ありませんっ!」
ラルーザが再び泣き出して、私とルーはオロオロする。パパンは緩く微笑んだ。
「ルー様が許してくださったのならもうよい。でもこれに懲りて危険な行動は慎みなさい。行動に移す前によくよく考えること。いいね」
「は、はい!」
◇◇◇
その日、私たちは初めてお父様のベッドで一緒に寝た。私が真ん中、右にパパン左にお兄ちゃん、上にモフモフ。両手に花とはこのこと。我が人生悔い無し!
「おとうさま、おねがいがあるのです」
「なんだい?珍しい、セレフィー?」
「おにいさまがまほうがくいんにいくのなら、わたしはきしがっこうにいきます。だからいまからきそをまなびたいのです」
「セレフィオーネ!どうして?」
兄の声が驚きのあまり上ずる。
「どうせとしがはなれているから、おにいさまとかよえません。それよりきしになってグランゼウスのりょうりんのひとつになります」
「しかし、セレフィーは聖獣様に認められた魔力持ちだろう?」
「まほうはルーがおしえてくれるそうです。だからわたしはぶじゅつをまなび、しょうらいルーとたびするやくそくをしました。ねールー?」
ルーは片目をピクリと開けたが再び寝た。
「聖獣様に随行を求められたということなのか……まあ暖かくなったら少しずつ体力をつけることから始めるといい」
「はい、おとうさま。おにいさま、ごしどうくださいませ」
「もう!鍛えずともセレフィオーネは私が守るのに……」
ありがと、お兄ちゃん!気持ちだけ受け取っとくね。よーし、一応話は通した!騎士、そしてその先の冒険者に向かって頑張るけーん!
二人に腕を回されて、ふかふかのしっぽで首の洋服で隠れていないところをくるまれて、外の吹雪が嘘のように暖かい。
「あ……ふ……おやすみなさい…………」
「おやすみセレフィオーネ」
「おやすみ私のセレフィー」
『セレ〜おやすみ〜!』
ああ、幸せ。お願い!私をずっと嫌いにならないで…………