47 秘密の特訓?に呼ばれました
午前中の座学が終わり、さあ、お昼御飯!ってときに紅葉の舞う窓の外がピカリと光った。
伝達魔法。紙飛行機の形をしてる。エンリケは蝶だからグランゼウスからのものではない。でも伝達魔法は受取手に魔力がないと気づかないし、開かない。
やっぱり、私宛だよね。
さりげなく窓の外に手を出しそれを掴む。魔力を流し、膝の上で開く。
『放課後、武道場に来られたし』
お呼び出しだ!
来たあああ!
憧れのシチュエーションだわ。体育館の裏で不良に「最近生意気なんじゃないのー」って締められるのか?いや、ひょっとしたら「せ、セレフィオーネさん!ず、ずっと好きでした!付き合ってください!」って告られるんじゃないのー!
キャー!二度目の人生にしてようやく…………よよよ。
「セレフィー、ニヤケてて気持ち悪い。食堂先にいくよ」
「ま、待ってアルマちゃん!」
◇◇◇
「セレフィオーネくん!待ちかねたぞ!」
私は肩をガックリ落とす。またもオッサンかいっ!
お呼び出しはアベンジャー将軍閣下でしたー!相変わらず、威光と……頭が……眩しい……。
『残念だ、セレ』
ルー、頭の上でプルプル震えないでくれる?笑ってるのモロバレだから。
閣下は本日は軍服ではなく、白シャツにカーキ色のズボン。あれこれ肩の凝る肩書きが取れた姿は案外若い。
「入学して早いものでもう半年、いや八か月か?学校は慣れたかな?お友達はできたかい?専攻は何にしたの?今日は付き添いいないよね?」
「おかげさまで慣れました。スイートハートな友達と太陽しょった友達ができました。専攻は弓です。短剣と片手剣は見学に行った日に免許皆伝もらいました。おばあさまは今日は来ていません」
絶対最後の質問だけが重要だったよね。
「そうかい、よかった……」
ほら、気の抜き方がハンパない。
「では、セレフィオーネくんはどの魔法を使えるのかな?」
「基本の4つと生活魔法は父に教わっております」
後天の魔力持ちという設定ではあるけど、私は魔力のグランゼウスの娘。全く鍛えていないというのは嘘っぽい。そして、さりげなく、父の存在を匂わせるのも忘れない。そして、さりげなく、建物周辺に魔法の網を張る。誰か近づいたら即座に気づくように。
「そ、そうか。では魔法はある程度、使える状態と思って、進めていいんだね」
「はい!」
「素晴らしい!では早速魔法剣士の話に入ろう」
ドキドキワクワク!
「私の考える魔法剣士とは、このような片手剣に魔力を纏わせて、威力を増し、その剣を振るうことで魔法を発生させ、相手を攻撃する、というものだ」
「え?」
「イメージが湧かないのも無理はない。実際にしてみよう。行くよ!それ!」
閣下が自身の片手剣に魔法をかけた。水だ。剣が若干青みがかり、ポヨンっと潤う。
「この剣を振るうと、それ!」
閣下が素振りをする。キンっと剣が鳴り、ピチョリと水しぶきが舞った。
「どうだい、美しいだろう?これがもっと魔力を持つ魔法師の術であれば、剣を振るった瞬間波が敵を襲い押し流すだろう。たった一人の兵士で100人分の働きができるようになる。」
『「…………」』
「水魔法を発展させると雷が起こせるらしい。雷の魔法剣は夢だね。一瞬で数キロ先の敵まで感電させて気絶させられるだろう。敵も味方も血を流さず、命を奪わず勝利することができるんだ!はあ、命あるうちにその域まで到達したいものだ」
アベンジャー将軍閣下の瞳は少年のようにキラキラしてる。
『セレ……もう教えてやれ。いたたまれない』
ルーが辛そうに天井を見上げる。
私はひっそりとため息をつき、顔を上げた。
「閣下」
「ん?少しは伝わったかな?」
「大変、申し上げにくいのですが」
「なになに?」
「すでに数年前に実用化しています。それ」
「へ?」
「詳しくは、〈第19話 準決勝に進出しました〉をご覧ください」
「ほ、ほんとだ……」
アベンジャー閣下ががくりと膝をついた。
「あの試合は秘密でもなんでもなく、大勢の観客の前で行われました。だから剣に雷魔法を纏わせる発想は既に熟知されてるかと。まあでも見るものがみなければわからない可能性もありますが……」
「し、しかし、魔法剣は魔法を使えるだけではダメだ!卓越した剣技を持っていなければ!」
「それは言えてます。ですが学院にも武術の才能を持つものもいるのです」
「いるのおー?」
「……うちの兄、誰の孫かわかってますか?」
「……エルザ大佐」
アベンジャー閣下が泣きそうだ。
「当時のあの魔法大会で言えば、ベスト4の皆さんであれば、魔法剣使っているでしょうね。学院と新しい技術の共有とかないんですか?」
「ははは、ないね。どちらかというと秘匿される。同じ国防を担っているというのに……君たち若い世代に恥ずかしいよ」
ちょっと閣下かわいそうになった。
「とりあえず、閣下の夢、叶えてあげるから!元気出して!」
私は太もものホルダーから短剣を取り出し、右上に振り上げて雷魔法を纏わせた。
ギュイーン!
黄色の火花が短い刀身を覆い隠す。
「雷だ……」
「行きますよー、そーれ!」
私はサッと剣を振り下ろす。
バチバチバチバチーーーーン!!!
武道場中に雷撃の雨が降り注ぐ……閣下と私とルーのいるところを避けながら。
「う、美しい……」
閣下の瞳からポロリンと涙がこぼれ落ちた。