45 トランドルギルドを紹介しました
騎士学校生活も順風満帆……とはいかないけれど、少しずつ慣れてきた。ボチボチ現金収入倍増計画を再開します!
ってことでやってきましたトランドルギルド!私とルーとニューカマー!
「たのもー!ほら言って!」
「ま、マジかよ、た、たのも……ひいぃ!」
私がドアを開くや否や、殺気立つ酒場のオッサン達。ん?今日はみんな稼ぎが悪いのか?
「セレフィー、誰だそいつは?」
「うん。学校の友達」
ザワッ!
「お嬢の……友達?」
「うん。ホレ!」
「は、はじめまして!オレ、ニコラスって言います!ギルド登録してもらいに来ま、来ました」
ニックはペコリと頭を下げた。
ギルさんがニックをギラギラと睨む。スゲー!片目しかないのに100人分の威圧だよ。
「お前……セレフィーのただの友達だろうな?」
「ひっ!ただの友達ですう!」
「それ以上でもそれ以下でもないんだな」
「ち、誓ってそれ以上でもっ、それ以下でもっ、ありません!」
あれ、急に空気がぬるくなった。
ララさんがパンパンと手を叩く。
「ハイハイ、ようこそトランドルギルドへ。セレフィオーネちゃんの紹介なら将来有望ね!大歓迎よ!セレフィオーネちゃん、規則だからこれ以上彼の情報話しちゃダメ!はい、彼氏、裏の道場にレッツゴー!」
「彼氏だあ!?」
また空気が殺気立つ。
「あーもう便宜上言っただけでしょ?うっさいなあ。マット、ギルド長とあと二人連れといで!セレフィオーネちゃんは知り合いだからここで待機。依頼でも眺めて待っといて。あ、ギルド長!大型新人でーす!」
『相変わらず、ここは騒がしいな』
「みんな酔いが回ってんじゃない?」
◇◇◇
ニックは顔中腫れ上がっていたけれど、D級、スチールプレートをゲットした。トランドルのD級は他所ではC級レベル。相当な実力者と見なされる。目の周りも腫れてるからわかりづらいけれど、目がキラキラ輝いてる。よかったよかった。
「ニック、武器は何使ったの?」
「オレ武器これしか持ってないよ」
そう言って見せてもらったのは、入試で戦ったあの刃毀れした片手剣。あれから1年以上経ち、ますますボロボロの状態。でも……ニックの相棒だ。軽々しく新しいの買えなんて言えないなあ。とはいえDでもあの剣だと侮られそう。どーしたもんか?うーん……
「オレ、お前の根性気に入ったぜ!」
モヒカンマットくんが凶悪に笑う。必死にすがりついたのかな?あの剣で。
『確かにニックの戦い方は気持ちがいいな』
ルーも微笑ましそうに目を細める。
とりあえずめでたい!胴上げだー!わっしょい!
胴上げでパンチドランカー状態のニックに私はペランと依頼用紙を見せた。
「……なんだこれ?」
「私からのお祝い。一緒に行ってあげる。私と一緒だとBとCの依頼も受けれるから割がいいでしょ?」
「いや……オレ、今日はもう遠慮しようかな……」
「やだー!遠慮なんてニックらしくないじゃん!」
私はニックの背中をバシンと叩く。あれ、何で起き上がらないの?
立て!立つんだニック!
「おい……せっかくお嬢が誘ってくれてんのに、断るつもりか?ああーん?」
「い、行き…ます……」
「じゃあ、はぐれのジャンクベアー討伐にレッツゴー!」
「じゃ、ジャンクベアーぁ!!!」
学校から借りてここまで乗って来た馬に再び乗り、トランドルの森の奥深くに潜りながら説明する。
「あのね、トランドルは生活のためと生態保護のためしか野生動物を狩っちゃダメって決まりなの。で、今回は後者。はぐれのジャンクベアーが入り込んでトランドルのウサギとか鹿を食い散らかしてるんだって」
「セレフィー……それ今日じゃないとダメなのか?」
「そりゃそーよ。早い方が被害が少なくて済むじゃん?」
「はあ」
「あ、足跡発見!この辺だね……ちょっと待ってね」
ピュイ!
私は短く口笛を吹く。
数秒後、白銀の……今では1メートル近い大きさになった……ミユたんが現れた。
「へ、ヘビ!」
「ヤッホー!ミユたん。ジャンクベアーどっち?」
『ルー様、お久しぶりです。セレちゃま、ここから南に5分ほどのところでイタチを嬲ってます。馬は置いていったほうがいいかと』
「サンキュー!これお土産。小龍様と食べてね」
『ありがと、セレちゃま。また呼んでね!ルー様、御機嫌よう』
『うむ』
ミユたんは好物のへびいちごのタルトの入った風呂敷を首に巻いて、スルスルと森奥に消えた。
私はニックにクルッと振り向いて、
「今、聞いた通りよ!」
「聞いてないわ!!!!セレフィーなんでヘビとフツーに話してんだよ!」
「フッ……ニックもこれからイロイロと経験を積めば……きっとわかるよ……」
私はミユたんと出会った運命の日を思い出し、遠い目をした。
「そーなのか?B級になったらヘビと喋れるようになるのか?いや違うだろ…………」
「よっしゃ、準備は整った!ここに馬は繋いでと。ニック、音消してダーーーーシュッ!」
私はのんびりしてるニックの首根っこ掴んで走る!
「うわーーあ!」
「目標発見!私は上から目潰しして攻撃するから、ニックは足を止めて!散!」
「待て!オレにはまだ見えてねえ!」
あらら、このジャンクベアー、これまで見た中で1番デカいよ。3メートルはある。ニックいるから魔法使えんしな……
『バレなきゃいいんじゃね?』
「そだねー」
私はジャンクベアーの正面に回り込み、身体強化して毒を塗りつけた手裏剣を両手で二枚、力いっぱい投げつけた。
ブサッ!
ギャーー!
手裏剣が両目を貫通して後ろの大樹にザクッザクッと刺さる。よっしゃ、脳を破壊した!アレ?
視覚を失ったジャンクベアーはグルグルともがき、なぜかニックに照準を合わせて飛びかかった!
そうか、ニック、血まみれだった!
「ニックー!ごめーん!そっちに行ったーー!」
「うおーーーーっ!」
ニックは間一髪でジャンプし、鋭い爪をかわす。ふう、よかった!
「よくねえよーーーー!!!」
ジャンクベアーはなぜかまだ動く。血の臭いを頼りにニックを追いかけまわす。
『しぶといな』
「どっちが?」
『どっちも』
「ニックー、やっぱ心臓刺さないと無理っぽいーー、正面から刺してみてーー!」
「オレがかあー!?」
そりゃそうよ。ニックがとどめ刺さなきゃ意味ないじゃん。
ニックが覚悟決めて足を止めた。ジャンクベアーの懐に潜り込んだ!今だ!私はニックの死角からジャンクベアーに雷撃を撃ち込んだ。ジャンクベアーの動きが一瞬止まった!
当然それを見逃すニックではない。
ブサア!!!
ニックが相棒の剣で心臓を突き刺した。
◇◇◇
「ただいまー、ララさん!」
「おかえりなさーい。あれ?ニックくん、魂飛ばしてない?」
ララさんがニックに気付け薬嗅がせてる間に、私はマジックルームから討伐ホヤホヤのジャンクベアーを出す。
「これまたデカかったのう」
奥からジークじいが出てきた。
「ニック……よもや認定のあとそのままセレフィオーネに討伐連れていかれたのか?」
「ぎ、ギルド長……」
ニックがジークじいの胸で泣いている。ニック、もうギルド長の懐に入れてもらったの?オッサン受けはイマイチだけど、年寄り受けはいいのね。
「はーい!B級討伐お疲れ様でした!今回は20万ゴールドの報酬だったけど、大物だったから3万ボーナスで計230,000ゴールド!どう分けるの?」
「ララさん、ニック15、私8でお願いします」
「おい、何言ってんだ?」
ニックが目を丸くする。
「トドメ刺した方が二倍って相場が決まってるんだよ!」
「それって……」
だからお祝いって言ったじゃん。私はニカッと笑った。
「セレフィオーネちゃん。このジャンボジャンクベアーは買い取っていいの?」
「はい、そのつもりで持ち帰ってきました。でもそうですね……キバと手のひらはニックにあげて?」
「なんで?」
ニックが不思議そうに尋ねる。
「男の人は討伐したキバを記念にアクセサリーにするの。コダック先生に見せたら喜ぶよ?手のひらは珍味だからお世話になった親方にでも、これまでのお礼かたがた渡したら?」
「セレフィー……」
「なるほど、無茶をすると思えば姫さまも人が悪い。あと血と足の爪もニックに……じゃろう?」
急にニコニコしだすジークじい。は?何のこと?
「ジャンクベアーの血には良質な鉄分が含まれる。刃物をその血に一晩浸けて、その爪で研ぐと、どんなナマクラ刀でも王家の宝剣のごとき切れ味になる」
そう言ってニックの鞘に入った剣をチラリと見た。
「そういう……ことだったのか?オレのために?」
「いや、そこまで……」
「うちのお嬢が素直に認めるわけないだろう?とことん慎ましいんだから!」
いや、マットくん、マジで私知らんかったって!
「はーい、買い取り金額出ましたあ。486,337ゴールドね。毛皮高騰してるからね。ラッキーだったね。これもセレフィオーネちゃん、ニックくんにご祝儀なのね?もー!マジで男前なんだからー!」
ウソ!?買い取りは折半!!!私も現金必要なんだって!!!
「先輩からの祝いじゃ。ありがたく受け取っておくがいい。そして今日の日の恩はいつの日か後輩に返せばよい」
ジークじい!まとめないでぇ〜!
「セレフィー……サンキュー……」
ニックが初報酬を両手に握りしめ……唇を噛み締め……涙ぐむ。
『ドンマイ……セレ……』
私も涙ぐみ……笑った。
だって、笑うしか……ないよね!
5/24 、日刊恋愛異世界転生ランキング1位でした。
お読みくださる全ての皆様、ありがとうございます。
これまでは毎日更新できていましたが、今後、特に6月は不定期更新になるかと思います。
今後ともよろしくお願いします。




