42 食堂に行きました
今日の格闘は思いの外時間がかかり、皆、一戦しかできずに1日が終わった。アルマちゃんは昨日私に威嚇してきただけに強く、敏捷な男子を安定した延髄斬りで一発KOした。ただ動きが直線的すぎるかな?バリバリ伸びしろあるから、この学校の4年間で変身するだろう。
ニックも相変わらずの強さ。三分間相手の攻撃をステップのみでかわし、ヘロヘロになったとこで、右ストレート顎に叩き込んで終了。
「マトモ過ぎてつまんないんだけど?」
「マトモなこともできるって見せときたかったの!」
とりあえず、私とアルマちゃんとニックは格闘という武の序列で2分の1の勝ち組となった。私たちの周りは静かになった…………
はずだった!
◇◇◇
ザワワッ!
夕食時、私とアルマちゃんが寮の食堂に入ると、場がどよめいた。ルーは部屋で親のカタキのようにケーキを食べている。
「はあ……」
「どしたのアルマちゃん?」
「何でもない。セレフィー今日は魚の香味焼きか肉のグリルだって。どっちにする?」
「うわー。どっちも美味しそうで選べない。どーしよー!」
「ふふ、半分こしようか?」
「うわーあ!アルマちゃん!嬉しい!半分こ!初めて!ありがとう!」
生まれて初めての「お友達と半分こ」!私は今日の日を忘れない!
ザワザワザワ!
「せ、セレフィー!声デカイよ!大げさねえ」
「ご、ゴメン」
皆さまお食事中すいません。お騒がせしました。
食堂のおばちゃんから料理の載ったお盆を受け取ると窓際の席にニックを見つけ、問答無用で相席する。
「ニックー!いいだろー!アルマちゃんと半分こなのー!どっちも食べれるー!やったー!」
あーこの半分こ記念のプレート、できることなら写メで残したかった!
「オレもどっちも食べてるけどな」
見ればニックはお肉もお魚も一皿ずつ、ようは二人前取っていた。
「くー!その手があったかあ……」
「お前、半分こ喜ぶとか……案外苦労してんだな」
ニックが私の頭をヨシヨシする。
ざわわわわわ!
「っち!なんだよ、うぜーな。セレフィーお前がいるとゆっくり食べれねえ。あっち行け!しっしっ!」
ガーン!
「な、なんで?私、なんかした?」
「アルマ、お前がちゃんと躾けろよ。この無自覚女!」
「……はあ、セレフィー、あのね、一言でいうとセレフィーすんごく目立ってるの」
「強いから?」
自覚しとりますので謙遜もしません。
「まあ、それもある。けど、女の子っぽいから」
「ぽいって何?正真正銘女だよ!」
「違う違う、格好とか……仕草とかがね」
「はあ?だって昨日アルマちゃん達に教えてもらったから、部屋着じゃなくて制服のまんまじゃん。詰襟脱いだらちょっと肌寒いからカーディガン羽織ってるだけで!このカーディガンだってたいそうなもんじゃないよ?アニキの捕獲した数百匹の紅サソリの毒を1匹1匹手作業で抜いた後、残った殻を有効活用しようと白のカーディガン染めてみたら、あーら不思議こんな優しいピンクに……」
「だーーーー!もういい!もう喋るな!いいからサッサと食え!」
「ニック、大きな声出して行儀悪いよ?あれ?食欲無くなった?」
「…………」
「……ドンマイ、ニック」
「……サンキュー、アルマ」
お、二人が仲良くなってる?良きかな良きかな。
私がニックの分もお肉もらってウマウマ食べていると、不意にテーブルに影がさした。
一瞬で……鳥肌が立つ。もう私の前に立つ度胸、潰したつもりだったのに。気分は急降下。
「何か用?セシル」
アルマちゃんが温度のない声で出迎える。
私の脇に立ったセシルは腕のいい治癒魔法師に診てもらえたのか見た目はダメージを受けてなかった。
「お前じゃない……グランゼウスに用がある」
カーッ!家名呼び?敢えて学校では誰もしてないのに?特権意識丸出し。私が眉をピクリと上げると、アルマちゃんが向こうを向いて肩を震わせている。怒ってる?あれ、何でこのシチュで笑ってんの?
「私、見ての通り食事中なんですけど、お急ぎの用ですか?」
私はもちろん食べる手を止めない。
「私、セシル・マクレガーは、本日の試合を不服とし、再戦を求める!」
モグモグモグモグ。
全然急ぎの用じゃないじゃん。ニックと目が合う。スッゲー白けた目してる。アルマちゃんとうとう体ごと揺れ出した。案外笑い上戸なのか?
モグモグ。
「おい!」
「…………プハー!ご馳走さまでした」
「お前、聞いてるのか?」
「ハイハイ聞いております。えっと私との試合に不服があり、再戦を要求するでしたっけ?」
「そうだ」
「無理ですね。悪しからず」
「なんだとーーーー!」
セシルがバンと机を叩く。ニックの皿が揺れニックがギラリとセシルを睨む。尋常じゃない気迫にセシル怯む。当たり前だ。貴族は食べ物への平民の執着をわかってない。
「セレフィー、コイツマジでウザい。ちゃんと説明してどっか行ってもらえよ」
「はあ、ゴメン、ニック。セシル・マクレガーさん、あなたは一方的に不服があるようですが、あの試合には全く不正はなかったわけです。先生方が主審副審線審と三人もいらっしゃったのですから。まさか騎士学校の先生方の審判にケチつけるつもりではありませんわよね?」
「そ、そんなつもりはない、ただ、再戦を申し入れているだけだ。私は……不意を突かれたのだ」
「まあ、不意を突かれるなんて、実戦じゃなくてよかったですね。では私に今日の試合を抜きにして対戦を要求する、ということでよろしいかしら?」
「その通りだ!正々堂々と勝負しろ!」
「不可能です」
「……お前、私を侮っているのか?」
「いえ、ただのルールです。ご覧ください」
私は胸元から……今後冒険者として生きていく上で命の次に大事なプレートを取り出した。
「マジか……」
ニックがつぶやく。
「ああ……ホンモノだ……きれい……」
アルマがため息をつく。
「私はトランドルギルドのシルバーランカーです。学校の授業は例外として、ブロンズ以上のランカーに対戦を申し入れるときは最低一つ下位のランカー……つまり私との対戦の場合ブロンズ以上であることが条件。そして正式な中立ギルドの立会いを準備すること、最後に申込金を用意すること……私の場合は100万ゴールドですがそれが規定です。真剣を使いますし命を落とす可能性もありますしね。まあセシル・マクレガーさんでしたらはした金でしょうが」
一気に話して喉が渇いた。温かいお茶を手に取り一口飲む。はーおいしい。
「この条件が満たされましたらお声がけください」
「…………」
これ以降、私の服装に?ケチをつける人はいなくなった。なんで私はどんどん緊張感がなくなり、たまには部屋着で朝食を取り……エリスササラコンビにゲンコツを喰らうようになる。
◇◇◇
そして、
「と、隣いいかな?セレフィオーネ……さん、アルマ」
「せ、セシル?」
私、アルマちゃん、肩乗りルー、目がまん丸になる。スプーンをかちゃんと落とす。
…………私はなぜ若草色の頭に挟まれて朝ごはん食べてるの?
「今日も……いい天気だね」
「…………」
完璧に追い払ったはずだった!完膚なきまでに叩きのめしたよね?身も心も!
「ステキな……食べっぷりだ……」
「…………」
何故に懐かれた!?
「今度その……稽古して……もらえないか…な?今度はぎゅーっと私の頭を君の小さな足で地面に押し付けて……あ、アルマも一緒でいいから……」
Mなのか???




