39 お友達ができました
チャイムがなったため皆席に着く。しばらくするとガラッとドアが開いた。担任教師の登場だ。
「え?」
既に見慣れた頰の傷。…赤髪の…三白眼の…呑んだくれが立っていた。その凶悪な顔に生徒たちが青ざめる。
「あの赤髪……ジャンクベアーとの死闘の頰の傷……トランドルの赤鬼かよ!」
ニックはそう言ったあと、ボーゼンと口開いたまんま。
コダックさん、エライ二つ名持ってんのね。赤鬼の前では黒眼の妖精なんて霞んじゃうわー!
「えーーオレがこのクラス担任のコダックだ。これまでは四学年共通のフィールドワーク担当の講師をやっていたんだが、今年は担任業務もやらされる羽目になった。経歴は軍務4年、学校勤務になって6年。プレートはゴールド。なんか質問あっか?」
そう、こないだコダックさんはA級になった!A級の昇格審査は当然A級よりランクが上のものが執り行う。ってことで試験官はS級のジークじいとおばあさま。対戦相手はS級のアニキだった。アニキのエゲツない手裏剣攻撃に、死ななかっただけでジークじいもおばあさまもA判定を出した。
血まみれのコダックさんをみんなで容赦なく胴上げしたよ。祝い事だからね。わっしょい!
私はそのときのことを思い出してニコニコしてコダックセンセにウインクした。センセは真っ赤になって、片手をテーブルにつき、もう片手で顔を覆った。やだー教鞭をとるなんて慣れないことするから緊張しちゃったの?
「知ってるのか?」
「うん、飲み仲間」
私は前世からこっそりお酒を継ぎ足すのが上手いのだ。そうやってコダックさん潰して遊んでたら、くだらないことのために気配消すなってギルさんに怒られた。
「やっぱ……目指すはトランドルだな……」
ニックが何か納得したように頷いている。
「はあ……じゃ、明日からの流れを連絡すっぞ!」
学校は1日6時間の週5日。上級生になれば演習も入りその限りではない。
授業は必修半分選択半分。一般教養と将来軍の幹部になるための運用や企画、教育法を学ぶ座学はほぼ必修でこのクラスでこのメンバーで学ぶ。
武術は自分の特性にあったものを選択し、卒業までにどれか一つ免許皆伝を取らなければならない。
「最後に、ここは甘ったれが暇つぶしにくる学校じゃない。国の金、民の税金でおまえらの生活は賄われているんだ。気に入らないことがあれば陰口叩いてないで、正当に力をつけて捻じ伏せろ!いいな。じゃあ今日は寮の荷物の整理してとっとと寝ろ。終わり!」
おーう。脳筋らしい素晴らしいスピーチありがとうございます!おっしゃる通り、寮をもう少し工夫して住みやすくしよう、そう思いながら立ち上がると、
「セレフィオーネ、アルマ、ちょっと残れ!」
先生からいきなりの居残り命令!ガーン!
ニックに手を振り見送って……教室に残ったのは私とあと一人、この人がアルマさんだろう。
私は……アルマさんを見上げた。デカイ!180センチってとこ?対する私は150センチ……前世で13歳はこんなもんだったよ!
耳を出したショートカットの若草色の髪にキャラメル色の瞳、視線を下に移すと……デカイオッパイ!う、羨ましくなんかないもん!私だって私だって、もうちょっとおっきくなって、寄せてあげれば……え、オッパイ?
「アルマさん、女の子?」
アルマさんは文字通り上から目線で小さく頷いた。
「あーめんどくせぇー。おい、お前らちょっと腕相撲しろ」
腕相撲は酔っ払いのケンカの決着をつける定番だ。
で、なんで?あら?アルマさん私を睨みつけてる。???
「いーな。全力だ。どっちも右手利き腕だな。よし、レディーゴッ!」
ドン!
もちろん瞬殺するよ。
「ちょ、ちょっと、待って……」
あ、初めてアルマさんの声聞いた。13歳だよね?何故にセクシーボイス?
「アルマ、もう一回か?」
「はい」
「セレフィオーネ、もう一回勝負してやれ」
はあ、よーわからん。私は黙って腕を出す。
「レディーゴッ!」
ダン!
また瞬殺ですが、何か?
アルマさんが呆然と私を見つめる。
「わかったな、アルマ。セレフィオーネは不正で入学したわけでも代表に選ばれたわけでもない。男、女、関係なく新入生でブッチギリの強さなんだよ。ちなみにセレフィオーネはトランドルのシルバープレート。トランドルは贔屓しない。現国王がウッドプレートなのがいい例だ」
「…………」
アルマさんが黙り込む。
「逆に言えば、女のお前でも1番になれる可能性があるってことだ。女だからって自分から卑屈になるな!アニキたちをブチのめすつもりで力つけろ!」
アルマさん……涙ぐんでる。
「今年の新入生で女子はお前ら二人だけだ。力合わせて4年間過ごせ!」
大きい大きいたった一人の女の子の同級生は唇を噛み締め一粒だけポロリと涙をこぼして……間違いなく13歳の少女だった。
アラフォーのおばちゃんが黙って見ているわけがない!私はアルマさんの両手を取った。
「アルマちゃん、これからよろしくね!休みの日はせっかく女の子同士、一緒にスイーツ食べ歩きしたり、森でマレ蜂取ったり、カクレオオカミ討伐に行ったりしよう!」
アルマちゃんは目は合わせてくれなかったけど小さくこくんと頷いた。
「お嬢……最後のほうは……全然女の子らしくなかったぞ。ま、いいや。じゃあ女子のトイレやら更衣室に案内するぞ。ついてこーい!」
「はーい!」
「……はい」
◇◇◇
一通り女子に必要な設備の案内をしてもらった後、アルマちゃんはキレイに一礼して走り去った。
「コダックさん。私の担任になったのきっとおばあさまのゴリ押しでしょう?なんだか……すいません」
「お嬢、気にすんな。領主様からの依頼があったのは確かだ。だけど俺ももうすぐ30だから、デスクワークも覚えろってことでもあるんだよ。いつまでも外で自由満喫すんじゃねえってな」
「でも、コダックさんが先生だったっていうの、私納得しました。知り合ってからずっと私の面倒さりげなく見てくれてたもの。今日教室に入ってきたのみて、やられたーって思いました」
「なんだよ、やられたーってのは!」
「で、アルマちゃんの件はどういうこと?」
「察しただろ?男尊女卑の貴族の家柄で育ち、認められようと必死こいて騎士学校に入学したら、いかにもかよわい系コネ合格と思われる女子が余裕ぶっこいて笑ってる。瞬時に目の敵にされたんだ。まあ男子からの扱いも似たようなもんだ。そっちはほっとくとして、女子はたった二人。こじれる前に誤解を解いたほうがいいと判断した」
「か弱い系の女子?私が?アルマちゃんのほうがうんと女の子だったよ!オッパイもドカーンだったし!」
「それは否定できねえ」
ボスッ!
私は先生のスネを蹴った。
「オーウ……まあでも、お嬢は小さいしあくまで魔力のグランゼウスの娘って先入観があるから、か弱く見られてるって認識しとけ。まあ実技がはじまりゃ静かになる」
「はーい」
なんのかんのでコダック先生は寮まで送ってくれた。
「先生ありがとう!明日からよろしくお願いします」
私はそう言ってペコリと頭を下げ、手を振って寮の玄関に走った。
「転職くらい……安いもんだ。我らの姫が生き延びる、ためならば………」
つぶやきは小さすぎて私には届かなかった。
日間異世界転生恋愛部門でランクインしました。
皆さまありがとうございます。