38 13歳になりました
ようやく、ようやくこの日が来たーーーーあ!
私、満13歳になりまして、とうとう本日、騎士学校入学式当日です。
「次は新入生代表挨拶、セレフィオーネ.グランゼウス。」
「ハイ!」
私、代表でした。入試、ぶっちぎり一位でした。落ち着いた足取りでステージに向かう。騎士学校の制服は濃紺の詰襟。女子もスカートではなくパンツスタイル。動きやすさ重視の簡素なものだが規律を重んじており着崩すことは許されない。
私はこの制服制度にホッとした。これからは寮で一人暮らし(もちろんルーはいるんだけどね)。毎日自分でドレス選ぶとかめんどくさいし、オシャレに着崩すテクもない。四角四面バッチコイだ!軍隊式バンザイ!
女子は髪の毛も邪魔にならないようにとする校則もある。私はギルドに赴き、最近スキンヘッドから乱れのないモヒカンに生まれ変わったマットくんに、ザックリショートヘアーにして!と腕を見込んでお願いしたら、泣いて止められた。オレを殺す気か!?と。何故に?
誰にハサミを向けてもみんな頭をブンブン振り怯えるばかりで引き受けてくれない。魔王が……とか血の手裏剣が降る……とか意味不明なことを呟いて全力で逃げていく。
しょうがなくララさんに武術の授業でも乱れない流行りの編み込みを何種類か教えてもらい練習した。自力で編み込みマジ手が攣る。切ったほうが絶対ラクなのに。
壇上に立つと後方でパパンとその膝のルーが小さく手を振っているのが見えてニコッと笑った。来賓席に眼を移すと号泣するアベンジャー将軍閣下……の横におばあさまオスマシ顔で座ってるのを発見……
本日の入学式、保護者席は一人分だったのでお父様とおばあさま揉めるかもっと思ってたらおばあさまやけにあっさり引き下がって……こういうことだったんかい!武のトランドル、強権発動したんだ……まあおばあさまは来賓に適した肩書き、腐るほど持ってるよ。もう職員一同私のバックに誰がついてるか知らしめちゃったってことね……
緊張?するわけない。アラフォーよアラフォー!ここでスピーチしくじったって会社クビになるわけでも、死ぬ訳でもない。うちのギルドの最狂顔集団に比べたら、どんな偉そうなおっさんたちも可愛く見えちゃうくらい。
「……………たゆまぬ努力を続けることを誓います。新入生代表、1年1組 セレフィオーネ.グランゼウス。」
はい、いっちょあがり!
式が終わると保護者は帰る。今日から寮生活なわけだけど、魔法学院ほど休暇は厳しくない。騎士学校は平民が半数いて、それぞれ商売や農業など家業を手伝わなければいけないのだ。だから私も毎週末自宅に戻り、自領やギルドにも顔を出して、腕を磨くつもり。だからあっさりバイバーイとお父様おばあさまと別れた。ルーは学内探検に行ってしまった。お腹すいたら寮の私室に戻ってくるでしょ。
パラパラと新入生は教室に向かう。一年生は50名、それを二クラスに分けて25名ずつ。私は1組。前世知り合わなかった人々だらけの部屋に足を踏み入れる。ドキドキだ。
開いていた後ろのドアから教室に入ると、ザワっと空気が変わった。今日入学したばかりというのにもうなんとなくグループ出来てる!合格発表のときにみんなツバつけといたの?ヤバイ、出遅れた……とりあえず入り口近くにいた集団に声をかけてみた。
「あのー席は決まってるのでしょうか?」
「…………」
無視された。うーんどうしたもんか?
「お、おまえ、小さいんだから一番前に行けよ、黒板見えないだろ?はははっ!」
別の男子グループの一人が唐突に声を張り上げた。
……まあその通りだね。私は彼らを通り過ぎ、窓際の一番前に座った。
外を見るとルーが楽しそうに小鳥を追いかけている。ルーも気が抜けたのかな。
のどかだ……
ルーと私、騎士学校に入るイコール予言の書から大きくはみ出すってことで必死に頑張ってきた。騎士学校に一旦入学した今、鬼門である魔法学院に中途で入学する羽目になるなんてことはほぼありえない。
魔法学院の新学期も時同じくして始まった。『野ばキミ』の時間がスタートした。お父様情報によると、マリベルはめでたく魔法学院に特待生として入学したそうだ。トランドルであんな酷いことやらかしておいて!あの魔法師たちはきっと……。
ハラワタ煮えくりかえる思いもするけれど、気持ちを切り替える。とりあえず、私とマリベルの人生が交差する機会が遠のいた。
結局のところ、私が騎士学校にがむしゃらに入学したのは、1番マリベルから遠く、愛する家族と離れずに過ごせるため。これからの人生で、マリベルと次に出会う時、私はその瞬間に国を出る。海を渡り遠くへ遠くへ。私とルーとお父様の中の決定事項。誰も私を知らない土地で冒険者として一人で生きていく。生きていれば、お父様とルーと……お兄様おばあさまと会える日がいつか来る。
私は片肘をついて、ルーが戯れるのを見守る……あくびをかみ殺す……眠い……
「…!……!おいっ!」
はっ!ヤバイ!瞬間寝てた!私は声をかけられた隣を慌てて見る。ヨダレ出てないかチェックしながら。
そこには同い年にしてはかなり大きい、日に焼けて短くオレンジの髪を刈り上げた男子が立っており、目を合わせると茶色の目をまん丸にした。
「ちょっ、おまえ、泣いてたのか?」
「いいえ?」
「くそ……おい!おまえらあ!」
少年は突然クラス中に響く大声をあげた。
「やっかみかよ、おまえら!もしコイツに文句あるやつは、オレが相手になるから。オレを倒してからコイツんとこ行け。わかった?」
そう言い放つとドンっと私の横の席に座った。えーと、なんとなく庇われた?
「えっと、ありがとう。でも私、ほっといてくれて大丈夫だよ?自分で何とかできます」
「おまえが強えのは身に染みてるっつーの。段違いに強いから、負けたオレでも合格できたんだし。でも腕が立つのと……それとこれは別だろ?現に涙ぐんでるし」
いや……アクビなんだけど……ん?
「…………」
私は無言でジッと見つめた。少年はポッと顔を赤らめる。
「いくら強くても……お、女だからな」
負けたオレって言った?負けた?私が勝った?合格?ああ!
「あなた、実技試験の!太陽しょった人!」
ゴンと少年は頭を机で打ちつけた。
「太陽しょってない!でも……自分がどんだけ卑怯な真似したかわかってる。入学したらおまえに一番に謝りたかった。オレはニコラス、ニックって呼んでくれ。女の子の……顔狙ってゴメン。合格した後、試験の内容説明したら工場の親方にボコボコに殴られた」
はあ?あの程度で卑怯?あんなのうちでは幼稚園レベルです。この子いい奴だわー!
「本当に気にしないでいいよ。私はセレフィオーネ。長いからセレフィーあたりで切っちゃって?」
「おまえ、貴族だろ?平民のオレが名前切って呼ぶとかありえねえ」
「え、フツーにギルドでは呼ばれてるけど?」
「おまえ、もうギルド登録してんのか」
「うん。現金がいるの!」
「げ、現金……そうだな貧乏貴族って言葉もあるくらいだしな……王都のどこのギルド?」
「あ、王都じゃない。ちょっと離れてるけどトランドル」
ざわざわざわ!!!
皆さん聞き耳立ててたんだ。ほうほう、学生でもトランドルがなんたるかわかってるみたいね。
「と、トランドルかあ。そりゃあそこでは肩書き無意味だよな。貴賎に関係なく剛の者同士は呼び捨てかあ……。憧れるな、そういうの。オレもじゃあセレフィーって呼ぶわ。いつかその輪に入れるように」
「?よくわかんないけどオッケー!よろしくね!ニック!」
セレフィオーネはニックと友達になった!
頭の中でくす玉が割れ、某国民的RPGゲームの仲間ゲットしたときのメロディーが流れた。




