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37 対策会議を開きましたーpart2

おばあさまとギルド長による尋問が終わると速やかに帰宅し、またもや私たちは部屋に引きこもった。

あ、今回は呼ばれたらちゃんと顔出します。オヤツも食べます。


「おばあさまも、ジークさんも至近距離でマリベルに会ったのに……術にかかってない。どーゆうこと……?」

敢えて〈術〉を使う。〈補正〉なんて言葉ルーに通じるわけないもの。


漠然と、私の愛する人は全てマリベルに出会った瞬間から虜になり、私を裏切るように〈補正〉されると思っていた。


距離の問題ではない。ルーはマリベルから十分な距離を取っていた。室内の牢にいるだろうマリベルを眺めていたおばあさまのほうが断然近かったはずだ。


「術をかける相手を選んでる?」


『それはない。オレはあの場面では認識されていなかった』


そうだった。

それに選べるならおばあさまは外せないだろう。過激に強く、私と親しく、裏切ったとき私に最もダメージを与えることのできる私の関係者中の関係者。


「でも聖獣をすごく欲しがってた。聖獣って大きなくくりで術をかけたのかも?」

『そういや……マリベルは聖獣にやけにこだわってたな……エルザも似たような話をしていた。セレ、あの女が他に何を口走っていたのか丁寧に思い出せ!』


そうだ。私はあれから動揺しすぎて何も検証していない。


えっとえっと……一番傷ついた言葉は……


……私にはやがて最強の聖獣が手にはいる……


ルーのことだ。マリベルはルーを知っていて、いずれ手に入れることを知っている。




そしてトランドル領に入ることを危惧する魔法師に、


……殺されるわけないじゃん。私はヒロインよ!……


トランドルの、おばあさまのこの国での立ち位置を理解していない。




……私はヒロインよ!


ヒロインであることを知っている。





「ルー?」

『ん?』

「マリベルも……〈前世持ち〉だったみたい」




◇◇◇





『つまり、あの女も〈前世持ち〉で、例の予言書を読んでいるということだな』

ふぇ?『野ばキミ』いつの間に予言書扱い?

「うん、〈ヒロイン〉って言葉が私の前世の世界の言葉だし、今後のストーリー展開をわかっている口ぶりだった」


『……セレ、予言書にはトランドルやエルザについての記述はあったのか?』

「え?」


考えるまでもない。大した厚みのないファンタジー小説。主人公(マリベル)の背景ならまだしも悪役令嬢の背景まで事細かに書き込まれるわけがない。


「なかった。実際、あのルーと一緒におばあさまに会った日まで私、おばあさまの存在すら知らなかったもの。我が家でお母様の実家について話はタブーな雰囲気だったし。書物ももちろんトランドルのトの字も出てこなかった」


『ではなぜエルザもジークも裏切ると思った?』

「だって、親しい人々ことごとくに裏切られて、私、一人ぼっちになったんだもの!私の周りには誰も残らなかった!」


『でも、予言書にはエルザもジークも出てこないんだろ?』

「うん」

「あらゆる断罪の場に二人は確実にいなかったのだな?」

「……いな……かった」


『そういうことではないのか?予言書に記述されていたことしかマリベルは知らない。知らない相手に術をかけようがない』


「そういう……ことなの?」


『野ばキミ』の影響は限定的と思っていいのだろうか?

あの小説に書いてあったことについてはある程度の矯正力があるけれど、それ以外の人間、その人々の行動については影響を及ぼさないってこと?


そして……小説の世界なんてこの世界の一欠片分の情報、出来事でしかない。

この広い世界に住む大多数の人々は『野ばキミ』と無関係。その無関係の人々は必然的に小説の人々の領域にもズカズカ入り込んでくる。そうなると私を含め登場人物のベクトルも当然ずれていくんじゃないの?物語に出てこない大多数の人間はそれぞれの思惑で好き勝手に踊れるのだから。


現に私もルーもいろいろな小説にない出会いや経験をして、自ら進む道を小説と違えた。


やっぱり100パーセント筋書き通りになんてなりえない。


……だとしても〈補正〉の矯正力は未知。侮れない……


『セレ、予言書を今一度思い出せ。そして記載されていた人物全てを抜き出せ。些細な登場でも全て。固有名詞が出てきたなら必ず。術にハマる可能性のある人間はそいつらだ』


「!はい」


私は文机に向かい、真剣に『野ばらのキミに永遠の愛を』を思いかえした。

名前のある人間から、門番、花屋の娘といった記述まで、出来る限り書きぬいた。書き抜いたあとその横に、その人々の現れるタイミングと、小説の中の背景を箇条書きした。


いずれマリベルが接触するだろうこの人達を徹底的にマークし、彼らのいない空間を選んで、彼らではないたくさんの人々に関わって生活することが……私の穏やかな老後につながると信じたい。


ギレン陛下は……別枠だな。私は〈例外〉という紙をもう一枚作り、ギレン陛下の名を書いた。その横には悩んだ末ー断罪後の恩人ーと記した。






私がその作業に没頭していると、頭上から影が射した。


「アイザック.グランゼウスーーーー私が第二王子ガードナーに婚約破棄されたことに激怒。私を勘当しグランゼウスから追放、二度と顔を見せるなと言い放ち絶縁する、か……」


聞こえてはならない声が頭上から響く。私は両手でメモ書きを今さら隠し、後ろを振り向いた。

今にも泣きそうな顔のお父様がいた。

「お父様……。どうして?」


私はルーをキッと睨んだ。お父様が背後に近づくことを当然止められたはずだ。ルーは静かに私を見返す。

『オレが中に入れた』

「そんな!」


私は立ち上がり、お父様と距離をとり、自分をギュッと抱きしめた。どうすればいいかわからない。お父様の顔なんて見ることができない!どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!


パニックになりそうになったその時、お父様が前に出て自分の胸に私の顔をぎゅーっと押し付けた。


「お、お父様、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「セレフィー、謝ることなど何もしていないだろう?かわいそうに、こんなに苦しんで……。セレフィオーネ、私はルー様に……全て聞いているんだ。大丈夫だよ。私は裏切らない。ルー様が私が裏切る前に止めてくれると約束してくださった」


私は呆然と……顔を上げてお父様を見上げた。涙目のお父様は破壊的にハンサムだった。

「だから、対策会議には私も参加させておくれ?愛するセレフィオーネ」


聖獣は過ちを侵さない。ルーが判断したのなら……きっと正しいのだ。


私は再びお父様の胸にぽすんと顔を埋めた。

お父様が幼い頃と同じように、私の頭をゆっくりと撫でる。


「……予言書の出来事が、今ではその身に起こったことのように感じると聞いたよ。前世での私の行い、許されるものではない。私の裏切りこそが一番前世のセレフィーを傷つけ痛めつけただろう。セレフィオーネ、今世では私が生きている限り、ひとりぼっちになどしない。と言っても信じてもらえないだろうから、目の前のルー様に誓おう」


ルーがグルゥと唸った。


聖獣に直接誓うなんて、自殺行為だと思った。違えたとき、間違いなく天罰が下る。お父様の覚悟を知る。


私はお父様の上着をシワが寄るほど掴み、ホロホロ泣いた。








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