36 事情聴取を受けました
目が覚めると、目の前にいつものモフモフサイズのルーが腹を出して寝てた。外を眺めると曇り空だったけど、私の心は思った以上に晴れやかだ。ルーにもらった魔力のせいか、いっぱいいっぱい泣いたからか……
『おはよう、セレ』
「おはよう、ルー」
私たちのいつもの1日が始まった。
「おはようございます。お父様」
「おはよう、セレフィー」
朝食のテーブルにつき、お父様に挨拶すると……パパンの顔色が悪い。
「お父様、なんだかお疲れみたい」
パパンが整い過ぎた顔で苦笑する。
「家に帰ったらルー様が怪我してて、セレフィーが必死に看病してると聞けば、そりゃあ心配でやつれもするよ」
私は急いでお父様に駆け寄る。
「お父様、ごめんなさい」
パパンが久しぶりに私を膝に抱き上げギュッと抱きしめる。
「セレフィー、お願いだ。部屋に閉じこもるのはやめてくれ。心臓がもたない」
朝からダンディー大臣に抱きしめられて、心臓が持たないのはこっちだっつーの。お父様の目の下に隈を見つけ、両目にチュッチュとキスをする。疲れを吸い取るおまじない。私のために出来た隈、私が引き受けます。
「……本当に、セレフィオーネの魔力は……優しいのだな……」
あれ、吸い取る系のおまじないなのに魔力渡っちゃった?よーわからん。
「お嬢さまー!ルー様ー!お腹すいたでしょう?マツキがたっくさんパンケーキ作ってくれましたよー!」
「マーサ、おはよう!いただきまーす!」
『セレ、クリームたっぷりで!』
「らじゃ!」
朝食が済むと、仕事に行くお父様と一緒に家を出て、ルーに飛び乗った。昨日の報告をギルドにしなければならない。
◇◇◇
「…………というわけで、ララさん、大蛇は体調が悪くて暴れてしまったようです。大蛇からお詫びにこれもらってきました。財布に入れると金運アップします。これで猟師さんたちにご勘弁願えないでしょうか?あ、それと、ヒエールの実ヒエールの実……あった!ヒエールの実!はい!」
私はララさんの前に10,000回脱皮記念の、防火訓練のシューターのごときスペシャルなヘビの抜け殻とヒエールの実をゴロンゴロンと取り出した。
「セレフィオーネちゃん……規格外だわ……うん、猟師さんには一応確認しとくけど、まず問題ないはずよ。ギルド的には依頼完了!お疲れ様でした!」
ララさんはそう言うと規定の報酬を私に丁寧に差し出した。私はサインして、受け取った。
私の手のひらで8枚のゴールドがキラキラ輝く。うわーーーーーあ!
「ルー、初給料だよ!」
『初給料はお世話になったオレに振る舞うと相場が決まってるぞ?』
「ハイハイ。帰りは街によってみんなにお土産買おっか?ね?」
「お嬢ー!よかったなー!」
朝から酒飲んでる酔っ払いコダックさんがグラスを持ち上げてる。
私はカウンターからお茶をもらい、コダックさんの隣に座り、カチーンとコップを合わせる。
「コダックさん!無事終わったよー!ありがとう!」
私はお酒を飲んだ真似をして、プハーと息を吐きニンマリした。
え、コダックさん急にそっぽ向いて……鼻血?飲み過ぎだっつの!
「セレフィオーネ、ちょっとこっちに来んかい?」
奥からニコニコしたジークさんが顔を出し、ちょいちょいと手招きする。
私はララさんにコダックさんを託してギルド長室に入った。
前回、ジークギルド長が座っていたソファーに……シックなドレスを着て険しい顔のおばあさまが隙のない姿勢で座っていた。パタンと部屋のドアが閉まるとジークさんからも穏やかな表情が消える。私は促されおばあさまの正面に座り、ジークさんはデスクに寄りかかった。
「姫さま、早速ですが昨日の詳細を領主様と私に報告願えますかな」
尋問タイムでーす。まあ覚悟していたけれどね。
「おばあさま、まずはおばあさまの私兵を呼びつけるかたちになり、申し訳ありません」
「その行動の是非については、話を聞き終わってからでないと判断できないわ。最初から教えて」
「はい。ギルドの依頼で由緑の沼に参りましたら、あの地一帯を守護する大蛇が雷魔法を撃ち込まれて瀕死で倒れておりました。急ぎ治癒し、仔細を聞きますと王領からの侵略者にやられたと。現場の状況から再び現れる可能性が大だと考え、しばらく様子を見ておりましたら国定魔法師3人と一人の少女が現れました。どうやら主が目当てであったようです。少女が何度も何度も領境を跨いで傷つけた挙句、弱った頃を見計らい回収にきたのが昨日。トランドル領に足を踏み入れた瞬間、おばあさまの兵を呼びました。ちなみに大蛇様は私の目の前で10000回目の再生を果たし、銀の小龍様になられました。今後、小龍様に何かあってはならないと思い、ささやかなものですが魔法の鎧をかけさせていただきました」
ルーの存在を消して話す。
「姫さま治癒魔法も使いなさるか?」
「ジーク!全てここだけの話よ。それで、うちのものの話だと、セレフィオーネ、あなた血まみれだったとか?」
「おばあさま、全て返り血です。私は……無傷です」
傷を負ったのはルーだ。おそらくおばあさまは騙せないけど、ジークさんにはパパ龍の返り血と思わせたい。
「そう……」
おばあさまはルーの怪我を大事にしないわけがない。
「セレフィオーネ、単刀直入に聞くわ。あなたが狙われたともいえるのではなくて?」
マリベルはあくまでついでのようだったが、今後の手駒として聖獣を欲しがり小龍を傷つけた。マリベルが最終的に欲しいのは最強の聖獣の一体であるルー。そのルーは私と一心同体。
私はちらりと肩のルーに視線を流したあと、おばあさまの目を見た。
「そうかも知れません」
おばあさまから一気に殺気が噴き出した!え、殺気もう一丁?じ、ジークさん?いつも優しく微笑んでいるジークさんまで鬼の形相になってるうぅ!背中に竜巻うずまいてますよぉ!
「おいエルザ、殺していいな?」
「……まだ生かしておきなさい。今、魔法師団に問い合わせ中よ。役にたってからじゃないと死なせないわ」
「あ、あの、昨日の四人はまだここに?」
「姫、申し訳ありません。姫を狙ったとは思い至らず、まだ生かしております」
「あ、あの、お二人ともお会いになったの?」
「うむ、エルザ様の私兵が尋問するのを後ろから眺めておりました」
「あの、差し支えなければ、四人の言い分を教えていただけますか?」
ジークさんがフンと鼻を鳴らした。
「あの子供が最近魔力を発現し、とんでもない才能だったから、王領で基礎を教え試し打ちしてただけだとよ。たまたまトランドルに迷い込んだだけだと。あれだけの足跡をつけておいてよくもそんなこと言える。そもそもトランドルに向かって攻撃魔法打った時点で戦争だ。子供は子供であの大蛇は自分のものだ。自分のものを取りに来て何が悪いとほざく。王都の魔力持ちってのはバカ揃いか?」
「セレフィオーネ、トランドルは断りなく領地に入ったものは切り捨てると200年以上前に宣言を出しています。ちゃんと公正証書にもなっているの。そもそも他所の人間が危ない目にあわないように知らしめているというのに……命知らずなこと」
トントンと窓枠が叩かれた。おばあさまが立ち上がり、外から手紙を受け取る。
「まあ……恐ろしい。命乞いはあの子供の分だけよ。付き添いの魔法師は大人なのだから、責任取らせろっですって。戦争ふっかけておいて、あいつら何の賠償もするつもりないみたいね……」
殺すと宣言しておいて見逃せば、トランドルが今後軽んじられ付け入る隙を与えてしまう。おばあさまは底冷えする顔をしている。おばあさまのように覚悟を決めていない私に……意見などできるわけがない。
「おばあさま」
おばあさまが無言で私を見る。
「一つだけお聞きしてよろしいですか?」
「何?」
「あの少女……どう思われました?」
「そうね……空っぽな子供ね。どこで仕入れた知識か知らないけど、聖獣聖獣わめいて。自分の仕出かしたことの影響もわからず、私は悪くない、だってだってとうるさいこと。付き添いの魔法師よりも魔力は確かに多いから魔法師団は手放せないってところかしら?」
「あの、おばあさま……惹きつけられませんでしたか?」
「……どこに惹きつけられる要素があるの?」
「……自由と奔放さ?」
「自由は義務を果たす者のみに得られる権利よ。そうでしょう?」
ごもっとも過ぎて……涙が滲む。
「セ、セレフィーちゃん?」
『……よかったな、セレ』
ルーが私に頰を擦り付ける。
おばあさまは…………魅了されなかったのだ。
ブクマ1000件超えてました。
恋愛数値0でおっさんばっかり増殖中の話なのに……あ、おっさん流行ってると小耳に挟みました!だからか!?
お読み頂いている全ての皆様、ありがとうございます!