31 動物のお医者さんになりました
赤ちゃんヘビの後を追い、沼の周りを半周し、木々の間を蔓が覆い尽くす隙間を膝をついてハイハイして進む……意図したことではなかったけど、全身覆う忍び装束ピッタリ役にたってます。棘や尖った小枝で傷だらけになるところだった。
急に6畳間ほどの空間に出た。
「ひっ!」
一番奥の杉の木の根元に……直径30センチはありそうな大蛇がとぐろ巻いて……でも頭をがっくり地面につけて倒れ込んでいた。…………このお方が今回の依頼の対象で間違いなさそう。
赤ちゃんヘビがスルスルとパパ大蛇の側に行き、チロチロと細い舌でパパの顔を舐める。うっすらと目に光が入り、ルーの姿が目に入ったのか、身体を持ち上げようとするも、バタンと崩れ落ちる。
『よい、安静にしておれ。何があった?』
『……、…………、……』
ルーが事情聴取する間、パパ大蛇を観察する。……身体の3分の2の皮がズル剥けているようだ。そしてあちこちにギザギザの深い傷……これ雷系の魔法浴びた傷だわ。まあテッパンだしね、私も使おうと思ってた。
『セレ、説明は後だ。まずはこいつを癒してやって』
「はーい!」
この大蛇に討伐依頼があろうと関係ない。ルーの言葉には全面的に従う。ルーは過ちを犯さない。私は意図的に魔力をMAXに引き上げる。痛みが長引かないように。
「痛いの痛いの飛んでけー!パパ大蛇から飛んでけー!」
私の両手から真っ白な光が流れ出し、大蛇の身体中を覆う。大蛇そのものから発光しているかのような現象は……5分ほどでゆっくりと光が薄くなり……落ち着いた。
「どう?」
私はパパ大蛇に声をかける。
『……すばらしい。いたみがない!うまれかわったようだ』
「…………」
えーと、今私、ヘビの声聞こえなかった?なんか前世、ヘビの声が聞こえるばっかりにエライ目にあう魔法映画の主人公いたような……
私が頭を抱えていると、
『セレ!セレの魔力が流れたから意思疎通できるようになったんだ』
「そーなの?おまじない魔法はダイレクトに魔力を渡しちゃうってこと?」
『おまじない魔法はセレの想いそのもの。通常魔法のように魔力を使って発動するのではなく、魔力を流して願いを叶えているんだ』
そういう違いがあったんだ。私、知らず知らず魔力譲渡してたんだ。魔力譲渡なんて安易にやっちゃダメ!でもおまじない魔法は今回を除くと自分とルー以外にかけてないと思うから……まあ問題ないよね。今後、他人にかけるときは要注意ってことで。
「では、パパさん、どうして雷撃魔法浴びる羽目になったか教えてくれますか?」
『われは このちで ながきにわたり いちぞくとしずかにくらしてきた。このもりの ほかのなかまとも にんげんとも うまくきょうぞんしてきた つもりだ』
「はい」
『すうじつまえ、にしのほとりのむこうがさわがしくなり、こうべをあげてのぞきみると とつぜん、らいげきがわれをおそった。 なんはつも』
「王領から?」
沼そのものが領境。沼の西向こうは王領だ。
『にんげんどもの かんせいがきこえた。 われはなんとかここまでにげた。 ぬまのこちらがわの にんげんは われらに むたい しない。しかし 、すいぶんもぬけて もうながくはいきられないと かくごしていた。せいじゅうさまと けいやくしゃが きてくれるとは……いのちびろいいたしました』
当然だ。おばあさまのルー信仰はそのへんの新興宗教の何百倍も厚い。ルーが生きるため以外の森の動物の殺生を禁じた今、トランドルに動物を脅かすものはいない。
王領側からトランドル領に攻撃魔法をぶっ放し……おそらくこの沼とこの森周辺を守護してくれている主を攻撃してくれるなど……随分と舐めた真似をしてくれる。きっと今後もある……どうしてくれようか。
にしても何の害も侵してない蛇にイタズラすると……呪われるって言われない?これは前世の言い伝えだっけ?よーやるわ……
『蛇よ、トランドルの猟師がお前に襲われたと訴えたので我々はここに来たのだが?』
『せいじゅうさま、 ちかってにんげんをおそってなどおりません。しかし、あのこうげきをうけたあと あまりのいたみに あばれながら ここまで たどりついた じかくはあります。 まきこんでしまった のかもしれません』
『セレ、だそうだ。どうする?』
「ルー、ちょっと待って!……できた!!!赤ちゃん、パパの身体に乗って?そう!行くよ!パッリーン!」
私は両手で平たく四角をイメージして陣を切った。親子の蛇の前にガラスが現れ、ガラスは七色に輝き鏡に変化。そして2匹の体内に吸収された。
『へー、跳ね返すのか?』
「そ、名付けて反射魔法。今度雷仕掛けてきたら、跳ね返して術者に三倍返し!そしてちょっと言い伝えも念じてみた。おまじないじゃないからどのくらい魔法に乗っかるか未知だけど。ニヒヒ!」
『お主も悪よのう』
「お代官さまこそ、ニヒヒ!」
さて、沼地の守りはこれでいいとして、怪我をした猟師をどうなだめるかだなあ。パパ大蛇を差し出すつもりはないし。
大蛇の身体に視線を走らせると、傷は癒せたが傷跡はシッカリと残り、その周りの鱗が剥がれかけていた。大蛇ともなると鱗があるんだ。
「傷跡残っちゃってごめんね。厚かましいんだけど、剥がれそうな鱗もらっていい?それ持ち帰ってミッションクリアの証拠にするよ。」
『うろこ?もちろんかまわぬが そうじゃな 。きずが いえたせいで からだが むずむず する。 ちょっと まっておれ』
パパ大蛇はそう言うと急に伸び上がり、側の大樹にスルスルと登り巻きついた。ヤバイ、10メートルはある!そして、
ザバリッ!!!ドサッ!!!
一気に頭の先から皮が抜け落ちた。
「脱皮ぃーーーー!」
目の前には傷だらけの白いパパ大蛇の抜け殻……鯉のぼり10匹分かしら…………
『それを持ち帰るがよい』
前世ではヘビの抜け殻お財布にいれるとお金がたまるっておまじないがあったっけ?私のおまじないを軽く付与して猟師さんに渡せばいいか?でも軽く1000人分は取れるよね。これって稼げるんじゃ?
んん?なんか、パパ大蛇の声が聞き取りやすくなったぞ?
私は視線を抜け殻から本体に移した。
「うそ…………?」
大樹には先ほどまでの血まみれ膿まみれの青緑色ではなくて、堂々とした銀の鱗をもつ大蛇が絡まっていた。
『へえ、今回が10000回目の脱皮だったんだ。銀の衣は善良な生き方をしたもののみ女神より与えられる。おめでとう。お主はもう蛇の生は終わった。今日より小龍だ』
『聖獣様、契約者どの、今日という日を迎えられたのも、聖獣様のご加護と契約者どのの優しい魔力あったからこそ。我と娘、今後はお二方を主人とし、生涯お仕えすることを誓います』
赤ちゃん蛇、女の子だったんだ……あ、赤ちゃんの肌もシルバーに変わってる!ってそこじゃない!問題は!
『セレ、よかったな。蛇たちはどこにでも潜り込める。間者にピッタリだ!』
ルー、私、間者募集してないし!
『セレちゃま?わたち ミユ。がんばる!』
ミユちゃんって言うのー?パパのレベルアップで喋れるようになっちゃったのー?声かわゆいねー!くう〜!