27 トランドルギルドに加入しました
「お嬢さん、このギルドではまず名乗らず、ギルドの指定した者と戦って実力を示してもらう。いいね?」
おじいさん改めジークギルド長が人差し指を立てて、シーっと口に当てた。ギルド長は私の正体に気づいたようだ。
そうだね。名前が先だと先入観も入るし、手心を加えられたと疑われる可能性がある。よくよく考えると私は領主の孫なのだ。コネでプレート取ったと思われるなんて私のプライドが許さない。
私は黙って頷いて、ギルド長達について建物の奥のドアに続いた。そこは小学校の体育館のような建物だった。どうやらここで私の力が試されるようだ。
私の目の前に酒場にいた赤髪の頰に傷のある男がやってくる。私を上から見下ろし、じっくり品定めする。
「我がギルドのB級プレート保有者であるコダックが君の相手だ。全力を尽しなさい。立会いはギルド長である私、C級であるマット、A級であるギルバートだ」
冒険者のランクは下はEから始まりD→C→B→A→Sまで。トランドルのランクは他のギルドに比べて選定が厳しい。コダックさんは他所のギルドであればA級ランカーだ。侮れない。スキンヘッドはマットさん。隻眼はギルバートさんというのか。A級、ってことはS級、スゴイ!あれ、片目しか見えないけど……とても切なそうに私を見てる。弱いと思って憐れまれた?
「時間は無制限だよ。準備はいいかな?」
コダックさんは両手剣を構えた。重そうだ。
私はマントを脱いで傍に置き、右手にナイフを握る。
「ルー、行くよ!」
『セレ、最初の一歩だ。行け!』
「はじめ!」
コダックさんはいきなりジャンプして両手剣を振り下ろす。私はナイフで受け止め脇に力を流す。重いわ、やっぱり。左足を回して空いている左脇の急所を踵で打ち付けようとするが一歩後退して躱される。うーん身長差が恨めしい。でも身長差を活かすか?ナイフを素早くホルダーに戻す。
私は頭上高くジャンプして両手首に隠している手裏剣を5枚ずつ、計10枚コダックさんの頭部目掛けて投げつけ、コダックさんがそれを剣でバシバシ弾く間に上から後ろを取る。弾き終わったコダックさんが振り向きざまに袈裟斬りをかけたとき、私はコダックさんの脚の間を潜り抜け、前から喉元と心臓に既に片手ずつ握りしめた短剣を突きつけた。
「やめ!」
ギルド長の声が響く。
「お前も〈手裏剣〉使いかよ……」
コダックさんがどかっとお尻から座り込み、ウンザリした顔で私を眺めた。手裏剣に反応するってことはおばあさまかアニキと接点があるのね。
ギルド長がマットさんとギルバートさんに問いかける。
「今の試合、挑戦者勝利でよいな」
「異議なし!」
「異議なし!」
「今の試合、不正は行われておらんな?」
「不正なし!」
「不正なし!」
「よろしい。私は挑戦者に条件付きC級のランクがふさわしいとみなす」
「私はB級のコダックに勝ったのですからB級がふさわしいかと」
「私は条件付きC級とみなす」
「よって、この度の挑戦者を条件付きC級ランクと認定する。おめでとう。姫さま」
「やったーーあ!C級ゲットー!」
『セレ、おめでと!おめでと!』
私がぴょんぴょん飛び跳ねているとムサイおっさん達に胴上げされた!わっしょい!
◇◇◇
私たちは受付の奥のギルド長の部屋に移った。私と、ギルド長が正面に座り、他の面々は壁に寄りかかったり酒場から椅子を持ち込んだりしている。受付嬢……ララさんがお茶を出してくれたが手元がブルブル震え、お茶がビチャビチャと溢れまくる。
「ララさん、先程は荒っぽいことしてすいません」
私はテーブルの申請書がこれ以上濡れないようにどかしながら、謝った。
「い、いえ、私の大失態です。歴代の受付担当者からキチンと申し送りされてるのに……〈黒眼の妖精〉が現れたらどんなにお可愛らしい容姿でも黙って審査を受けさせろと。気づかなかった私が受付失格なんです。グスっ……」
『黒眼の妖精だってさ!セレ』
「…………」
仮にも聖獣なんだから悪い顔してニヒヒ笑いすんなって!フラグっぽい二つ名、悪い予感しかしない。
「さて、では新しき冒険者よ、自己紹介願えますかな?」
「はい。セレフィオーネ.グランゼウスと申します。お見知りおきくださいませ」
「くわー!やっぱりグランゼウスかよ!お前、ラルーザとどういう関係だ?」
「ラルーザは兄です」
「やっぱり……手裏剣マジ相性悪い。ああ、顔も似てるわ。なんで気づかなかったんだ、オレ」
コダックさんがボヤく。
「セレフィオーネは……やはりリルフィオーネの娘なのか?」
「はい、ギルバートさん。私の母です。私には記憶はないのですが」
「どうりで似ている……顔も剣筋も……」
そうか……ギルバートさんは私を通してお母様を見ているんだ。おばあさまもたまに同じような切ない視線で私を見つめることがある。やめて!私はお母様じゃない!私を見て!!!
なーんて言うわけない。中身アラフォーとなった今、他人様の人生を思いやれるくらいの度量は身につけました。減るもんじゃなしドンドン見てちょうだい!……そしてできればお父様のように昇華してほしい。お母様の人生は確かに短くはあったけど……十分幸せだったはずだから。
と、こ、ろ、で、
「あのー黒眼の妖精って何のことでしょう?」
私は一番マトモなジークさんに尋ねた。
「姫さま、そうですね、ここトランドルギルドにはだいたい二十年に一度の割合で黒目の妖精のような可愛らしい子供が現れます。その子達は容姿に反して桁違いに強く、今後ともその傾向は続くので、しのごの言わず速やかに審査するように……とギルドに代々伝わっているという話です」
ねえ、ジークじい、そういやさっきから姫って何だ?ちょっとそこに引っかかりつつ、
「つまり……前回は、お母様だったってこと?」
ギルバートさんに尋ねると静かに頷いた。
「このギルドに来る黒眼……それはトランドル直系。トランドルの若か姫が生まれて数年すると力試しに訪れる。そういうことだ」
「つ、つまり、このお嬢ちゃんは?」
マットくんがブルブル震える手で私を指差す。
ジークじいが朗らかに笑った。
「領主、エルザ.トランドル様の孫、トランドルの漆黒の瞳を継承する正当なトランドルの唯一の後継者。エルザ様自ら鍛え上げられた武の姫、我々の未来の領主、セレフィオーネ姫だよ。ガインツ前領主そしてリルフィオーネ姫が身罷られ十余年……姫さま、お待ち申しておりました」
ジークさんは晴れやかな笑顔のまま……ポロリと涙を流した。
き、き、聞いてないけどーーーーー!




