26 トランドル領に行きましたーpart2
無事騎士学校に合格した私を家族皆大喜びして祝ってくれた。
これから入学する13歳になるまではそれぞれ自主鍛錬して学校に備えることになっている。学校から渡された入学までにやるべきトレーニングモデルを見て……愕然とした。これ、私がアニキに4歳の時にさせられてたことのまんまじゃん……
アニキは騎士学校のことを知るわけがない。アニキはただ自分がお母様に仕込まれたメニューを私に課したまで。そして今はなき母はもちろん騎士学校卒業。元凶はお星様になったママンだった。
ということで、入学までにこれといった宿題はなく、日々の鍛錬と魔法作成に勤しむこれまで同様の毎日。そんな中、騎士学校に通ったらお願い!とお父様とおばあさまと約束していたことが叶えられることになった。
私は今日……冒険者としての一歩を踏み出す……むふ。
セレフィオーネ.グランゼウス、冒険者ギルドの門を叩きます!
この世界の冒険者ギルドの役割は冒険者の旅のサポート、ランク認定、依頼の仲介、素材の売買、怪我などで活動できなくなったときのための互助システム……そんなところだろうか。
冒険者ギルドは世界中どこにでもある。ジュドール王国を例にあげると全ての領と国の直轄地に設置され、人口の多い王都には3カ所もある。冒険者になるにはいずれかのギルドを訪ね、冒険者になり依頼をこなせる程度の実力があるか、テストされる。認定されプレートを発行してもらわなければ、冒険者と認められず、活動できない。
このプレートをどこで発行してもらうか?つまりどこのギルドを原隊にするかが重要だ。もちろん自分の住む土地のギルドに入るのが一番いい。大抵のギルドは素朴で善良だ。
しかしギルドも星の数ほどあり、ギルド自体の運営計画もレベルも様々だ。ギルドによっては貴族の箔付のため求められればお金でプレートの発行やレベルアップを引き受けるところもあるのだ。それは暗黙の了解。王都のギルドがそれが顕著で、よくキラキラの貴族がこれ見よがしに首から下げているプレートに王都の三つのギルドのマークのどれかが付いている。事情を知る者はそのプレートを見て鼻で笑う。
は、恥ずかしい!一生懸命手に入れたプレートが当人の知らないところで笑われることがあるなんて。お金でプレートを買う人間なんて一部だろうに、そこで登録すると一緒くたにされてしまうのだ。知ってよかった裏情報。
そして、その逆をいく……誰もが震え上がるプレートを発行しているのが……はいココ!トランドルギルド!玄関に〈質実剛健〉〈筋力第一〉と何代か前のトランドルのご先祖様の書いた看板がデカデカと飾ってある。やめれ脳筋!
「たのもー!」
『たのもー!って何だそれ?』
重い両開きの木のドアを両手で開けて、大声で入ってみると、それまで賑やかに飲食スペースで酒を飲んでた2メートル越えのおっさん達がポカン口を開けて私達(と言ってもルーは見えてないんだけれど)を凝視する。私も見つめ返す。スゴイ!絵に描いたようなワルの顔ばかり!スキンヘッドに眉無しやら、ワイルドな黒髪の長髪に眼帯やら、頰にギザギザの傷の入った三白眼やら、もうウットリ !是非にお近づきにならなければ!
「こんにちは!はじめまして!」
やっぱ挨拶が肝心だよね!って何でみんな顔真っ赤にして俯いちゃうの?飲み過ぎ?出足悪し。
カウンターの奥からバタバタと慌てて女性が駆けつけてきた。
「お、お嬢ちゃん、なんでこんなムサイとこに!迷子?お父さんかお母さんは?」
お嬢ちゃんなんて恥ずかしい。アラフォーの私からすればあなたこそお嬢ちゃんだよ。受付嬢と思われるお嬢ちゃんは20代前半?金髪をバレッタで留め、茶色の眼はまん丸でとてもカワイイ。
「えっと受付の方ですか?私、冒険者のプレートを求めてまいりました。親はついてきておりませんが」
10歳になった時グランゼウス領とトランドル領に限って私一人でも出歩いていいという許可が出た。まあ必ずルーも一緒だから安心だよね。
「冒険者?お嬢ちゃんが?…………えっと、大志を抱くのはとてもいいことね!うん。でももうちょっと大きくなって来ましょうか?」
また小さいって暗に言われた!ムガー!
「あの、私これでも11歳です。ギルドの最低加入年齢10歳はクリアしております」
「いえ、そーいうことじゃなくてねえ、このギルド、とーっても大きくて強い人と戦わないとプレートもらえないの。だからお嬢ちゃんには無理かなあ?」
私はにっこり笑った。
「ギルドマスター出して?」
責任者出せこらあ〜!
「子供の相手は私で十分よ。さあ、あっちでジュースおごってあげるから、大人になってからおいで!」
ラチあかん。
私は天井近くにかかってる長剣をジャンプして取った。そして手首でクルクルと回して彼女の手にした木のコップ目掛け、軽くスナップを効かせて投げた。
ギュン!
コップは真っ二つになり半分は床に落ち、もう半分を持った受付嬢はヘナヘナとしゃがみこみ、長剣は正面の壁にズッポリ突き刺さった。
「ジ、ジークーーーー!!!」
スキンヘッドが大声で叫んだ。
奥から優しそうな白髪の小柄のおじいさんが出てきた。
「どうした?変な空気になってるな?」
「そこの嬢ちゃんが、ザガートの剣投げやがった!」
ザガートの剣?知らん?
『んーなんとなく魔剣じゃね?』
イヤッ!魔剣って何!?
おじいさんが私のほうを見た。
「!……黒眼の妖精……もうそれほどの時間が経ったか……」
おじいさんはゆっくりと天井を仰ぎ………パチパチと瞬きした。
誰かの息を飲む音が聞こえる。
おじいさんは私に視線を戻し、ニコリと笑った。
「ようこそトランドルギルドへ。冒険者を目指すものよ、己の力を見せるがよい」




