25 軍人の上下関係は永遠でした
「申し訳ありませんでした!」
ハゲのおっさん改めアベンジャー将軍閣下がおばあさまに土下座の勢いで謝っている。殴られた方なのに何故謝る?
合格発表の後、校舎に引き返し応接室の三人がけのソファーにおばあさまと二人座っている。正面のソファーに座り、おばあさまの顔色を伺う閣下になだめすかされ連れてこられた。右頬がドンドン青くなってる。早く冷やしたほうがいいんじゃ?
「中尉、用があるなら早く言いなさい。この子が誰の娘かわかってるでしょ?軍が足止めしてたなんてバレたら、どうなるか知らないわよ?」
私の頭の上のモフモフも早く帰りたくてイライラしてますよ!コラ、突っつくな!
「はっ!グランゼウス財務相!そ、それは大佐がなんとかとりなしてくださればと……」
「無理ねえ、ほら早く本題に入って!」
冷や汗ダラダラの閣下、実はこの国の軍トップ。ジュラール王国に将軍は一人しかいない。魔法師団は団長がトップだし。
アベンジャー閣下の前の前の将軍が私の亡くなったトランドルのお爺様。で、おばあさまも現役バリバリの頃アベンジャー閣下は駆け出しの若手幹部だったらしい。おばあさまに対するこの怯えっぷり、一体当時どんな指導をしたと…………。
「あのその……私は本日、騎士学校の顧問として入試を見学しておりまして……とても異質な受験生がいると聞き、様子を……」
「異質ぅ!?」
「い、いえ、素晴らしくスバラシイ受験生がいるということで、会いに参りましたら、なんとエルザ大佐がいらして、ああ、さもありなん、と。」
「……ええ、セレフィオーネは私の、トランドル純正の孫。はい、じゃあ帰らせてもらうわよ!」
「お待ちください!た、単刀直入にお聞きします。お孫様は、魔力がおありですね。」
「……『魔力なし』ゆえにここにいるんでしょ。」
「大佐の魔力は覚えております。それ以外の莫大な魔力がお孫様から放たれております。」
閣下、ルーに気づいたんだ。スゴイ!幻術なしだったらこの人きっと見えてる。この状況をどう切り抜けるか考えつつも、私はニンマリしてしまった。軍のトップがキチンと能力のある人間で安心した。逆にこの人が気づかなかったら、この国のレベルどうなの?って本気で心配になる。
「中尉、気のせいよ。この子は〈魔力なし〉だからこそ、私の地獄の特訓に耐えて今ここにいるの。」
おばあさま、地獄の特訓っていう自覚あったんだ……。
閣下は私を見て、切ない笑みを浮かべた。私は黙って頷いた。私たちは……同士だ!
「お孫様と私、気が合いそうです。それはさておき、お孫様に魔力は確実にあります。敵の魔力を的確に探知することで私はこの地位に登りつめたのです。何故このようなことを!」
「あなたはここの顧問と言ったわね。ということは一端の教育者。ここで学びたいと切に願う優秀な合格者が目の前にいるのに、合格者一人一人の瑣末な事情を掘り下げて、若い芽を摘むことが教育者のあるべき姿かしら?」
おばあさま、私の魔力有無から、閣下の教育者としての資質に問題点をすり替えた!
「決してそのような訳では!」
「では、お黙んなさい」
閣下は私のほうを向いた。
「セレフィオーネ君、君は後天なのですか?」
「私は……騎士になりたくてなりたくて、幼き頃より父と兄、基礎が出来てからはおばあさまに師事し、必死に鍛えて参りました。この想いに嘘はありません」
明言は避けます。でも否定もしません。在学中どこでボロが出るかわからんし。
「ふう。あなたのような優秀な生徒、もちろん歓迎いたします。ひょっとして今後魔力が発現したら、力になります。教えてください。私は……いつの日か魔法剣士を育てるのが夢なのです」
「魔法剣士?」
「ああ、この国は子供の頃に魔力持ちは魔法師たちが囲ってしまう。魔力と武術同等に学び、融合させうる子供を育てることができないんだ。私は騎士学校時代に魔力が後天発現してね。といっても随分と弱い力だったから、魔法学院に連れていかれずすんだんだが、もし私のような立場の子供が出てくればと軍務の合間に研究してきた。魔法剣士が育てられれば、少ない兵力で戦え、兵も民も犠牲が少なくて済む。死ぬまでに一人でいいから私の研究を実践してくれる弟子がいれば、思い残すことはないのだがね。」
「…………乗った!」
「は?」
「セレフィーちゃん?」
「閣下の夢、私が叶えます」
私はパチンと指を鳴らし、一瞬で将軍閣下の頰の名誉の負傷を一気に冷やした。
おばあさま、見切り発車すいません!ちょっと面白そうだし、閣下の思いにちょっとキュンとしてしまったのです。取り込むなら偉い人に越したことないし、学校サイドに理解者が一人いれば何か困難な事件が発生したときサポートしてくれるはず。ルーのことは気づかれてない。ルーの魔力も私のものと思ってくれてるからいいよね。
「あーんもう、セレフィーちゃんってば、お人好し!」
「なんと……素晴らしい……」
「ちっ、アベンジャー中尉、いいこと?セレフィオーネの能力については他言禁止、詮索禁止、そして卒業後、軍に縛りつけることも禁止。その約束が出来ないのであれば……今すぐあなたの記憶を封じるわ。できないと思う?出来るのよ。グランゼウスは。返事は?」
「了解であります!」
「中途で裏切ったり……セレフィオーネの行く手を遮ったら、全力で潰す!」
「了解であります!」
「中尉、久々に我々も旧交を温めて行きましょう……ね?」
監視するぜってことだよね。あれ、またアベンジャー閣下ダラダラと汗かいてる。風魔法入れましょうか?冷風がいいかな?温風がいいかな?お好みは?
とりあえず、おばあさまの下僕、軍のトップ、ゲットだぜ!
アベンジャー将軍は軍人最高位ですが、中尉当時、エルザが大佐でエルザはそのまま退役。お互い当時の階級でしか呼び合うことができないガッチガチの軍人気質です。階級入り乱れてすいません。
アベンジャー将軍はじめ、新しい登場人物がドンドン増えます……あ、オッサンばっかり。子供とオッサンとモフモフ、ますます地味展開ですが、ブクマ500になってました。お読みくださる皆様ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。