24 ウン十年ぶりの受験でしたー実技編ー
実技は円状の闘技場で行われる。
受験生はいくつかのグループに分けられ並ばされた。グルリと周りは観客席で囲まれており、付き添いの保護者は家族が見えやすい場所を選び腰掛けている。
馴染みのルーの気配を探ると……いた!一番上だ。おばあさまとエンリケの影でなんか食べてる!おばあさまは3分に一度のタイミングで自身に浄化の魔法をかけてるようだ。どれだけ尊敬している存在のものでも、食べカスヨダレは無理みたいね。
っておい!私を応援するんじゃないんかーい!ピクニックにしか見えんぞ!殺気全開で睨みつけてやったら、慌てて二人とも手を振り上げて合図した。二人とも口にクリームついてるから!
さて、私の装いはさっきの白シャツに、ルーのブルーのパンツ、黒のロングブーツ。参考にしたのはオ○カル様!の普段着のバージョン!赤い軍服は流石にないない!宝塚じゃあるまいし。赤い彗星でもあるまいし。髪の毛は引っ張られないようにカッチリ編みこんできた。
もちろん忍装束ではありません。あれは本気モードの実践用。あれから改良に改良を重ねてこんなとこで晒していい代物ではなくなった。地下足袋も秘密扱い。
他の皆さんは男性の平民は普段着、貴族は武術の鍛錬着のようなものを着てて、女性は兄弟の服を借りてきたって感じ。
で、武器は片手剣、そして、左太腿のホルダーにナイフ。片手剣のほうがポイント高いってだけで短剣禁止というわけではないので、いよいよ片手剣でケリがつかないときはナイフで二刀流する予定。
ルールは簡単。受験者二人が戦って、ギブアップするか試験官が止めたら終了。制限時間は5分。当然寸止め。
◇◇◇
「53番、125番、前へ!」
やっとだ……寝そうだった。もう待ちくたびれて緊張感も何もない。
私は地面から立ち上がり、試験官に一礼して相手と対峙した。
私よりも頭一つ大きい男子、無駄に剣の柄にジャラジャラ光り物が付いてる。間違いなく貴族。ってことはお兄様のように幼少より家庭教師がついてキッチリ基本から仕込まれてるよね。気を抜けないわ!
「これは受験、女性だからと言って手加減しないから。嫌だったら棄権して?」
唐突に話しかけられた。おおう、紳士の気遣い?スバラシイ!自信があるんだー、私も頑張らなきゃ!
でも引きこもりの私にエールの送り合いなんて高等技術はないわけで、時間もないし、私はとりあえずニコっと笑っておいた。
あれ、顔急に赤くなってる、熱射病?
「はじめ!」
「う、うおーーーー!」
え、うそ、剣振り上げたまま真っ直ぐ突っ込んできた?
私はとりあえず横にズレた。彼は私を勢いのまま通り過ぎ……睨まれた。あれ?避けるの禁止?わ、また真っ直ぐだ。今度は足をちょっと出してみた。ズコッ!コケた。また睨まれた。
「ひ、卑怯だぞ!ちゃんと戦え!」
え、卑怯だった?試験官を見ると苦笑いしてる。この苦笑いの意味わからん。打ち合ったほうがいいの?
「うおー!」
相手の剣の位置が高いから私は軽くジャンプして自分の剣で右に叩いた。そのあとは相手の懐に潜り込んでエルボーして……ってあれ?
金ピカ剣が遙か彼方に突き刺さってる。それを走って取りに行く少年。
飛ばされるくらい軽く握ってたらダメだよ?そんなに私舐められてんの?
「125番、一旦下がって。また相手を代えて試験させてもらうから」
「はあ」
少年はまだ金ピカ剣にたどり着いていない…………
私は別グループに移された。ありゃ?なんだか、皆さんの動きがとってもキビキビしてる……そっか、体格や情報や先入観で強さ別にグループ分けされてたってことね。はあ、見くびられてる。私はおばあさまを見上げた。扇子で口元隠してるけど、絶対爆笑してるね、アレ。
「125番、376番前へ!」
私は大人しく一礼して入場する。今度は平民の男子。剣は刃こぼれしてるけど眼はギラギラしてる。そっか、未来がかかってるんだ。でもそれ私も同じ。
「はじめ!」
一気に距離を詰めて私の顔目掛けて剣を振り下ろしてきた。女相手だからこそ。容赦ない。
カンッ!バスッ!
私は剣を払ったあとミゾオチに横蹴りした。相手はからだをくの字に折りながらもサッと距離を取り、冷静に次の手を考えている。ジリジリと右回りで間合いを詰めてくる。
彼の横に闘技場の壁が来た時、助走をつけて壁に駆け上がり、私の真上に飛んだ!そして太陽を背にして私に上空から剣を振り上げ襲いかかった。逆光狙いだったんだ!これがストリートの戦いかあ……面白い。
私は左手でナイフを抜き彼に向けて抜身を晒した。
「うわっ!」
ナイフに反射した太陽が彼の目を直撃する。彼が戸惑った一瞬を見逃さず、私は一歩後ろに下がって跳躍、彼の背後に飛び剣の背で首の根をコンっと叩いた。峰打ちじゃなかったら……首が落ちるとこを。
少年は呆然と……膝をついた。
「終了、両者待機。」
◇◇◇
落ちてたら恥ずかしいので、私は一人で合格発表を迎えた。実技試験から2時間ほど経ち、正面玄関に貼り出された。
125、125、125…………あったあ!!!!
「ルーーーー!おばあさまー!エンリケー!あったあー!合格したあー!」
私は泣きながら門の外で待ってくれていたおばあさまとルーにダッシュし飛びついた!
「おめでとう、セレフィオーネ!あなたの努力の賜物よ!」
おばあさま、少し涙ぐんでいる。
『セレ!おめでとう!おめでとう!おめでとう!』
ルーが私の肩に戻り、ほっぺをペロペロ舐める。
嬉しい!また一歩、前世から遠のき、夢に近づいた!涙が止まらない。
目を真っ赤にしたエンリケからハンカチを受け取る。
「ルー、おばあさま、エンリケ、ありがとう!私、これ……」
「大佐ーーーーー!!!」
突然野太い声が響きわたり、私の声を遮った。声のするほうに振り向くと勲章だらけの軍服を着た偉そうなハゲのオッサンが私達目掛けて土ぼこりあげて駆けてきた。そして私達の前に着くやいなや、パシーンと踵を揃え、敬礼した。
「大佐、お久しぶりでございます!」
あ、おばあさま目当てか!おばあさま?
おばあさま、目が!目が逆三角になってます!!!
「テメエ、私とセレフィオーネの感動の瞬間を邪魔しやがって!昔から空気読めって言ってっだろがあー!!!」
おばあさまの鉄扇が綺麗に弧を描いた。
パシーン!
おっさん、20メートルほど吹っ飛んで、玄関にぶつかって……失神してる?
ナ、ナイススイング!!!




