22 11歳になりました
お久しぶりです。よろしくお願いします。
御機嫌よう、皆さま。私セレフィオーネ.グランゼウス、11歳になりましてよ。
あいも変わらず平均より低い身長。おばあさまによる走り込みのせいでたいして増えない体重。黒眼黒髪の小柄な引きこもり……このままこの邸の片隅で、座敷ワラシとして地味に生きていけるんじゃ?冒険行かなくてもよくね?
などと思う一方で、前世と合わせるとアラフォー。そろそろ老後とか年金とか気になります。いよいよ本気で現金貯めんとマズイかも。
お兄様の魔法大会から5年経ち、私達家族の近況はというと、
①お父様、目尻にセクシーな小じわができてイケメンからダンディーに変貌途中。幅広い年代の女性から求婚アピールされるも、兄や私の成長を見るにつけ亡くなったお母様がますます美化され歯牙にもかけない。使用新作魔法ドンドン増加。相変わらずの孤立体制だけど、残念ながら財務大臣返上できず。家族至上主義。
②おばあさま、なぜか年々若くなる美魔女。私の影響でモノトーンの色彩を愛用し、王都のファッション界に革命を起こしてる。手の込んだ髪飾りもドンドン考案中。体力も日々の鍛錬で増加し、私と兄だけでなく、子飼いの草もビシバシ鍛え上げ、トランドルの私兵は国の近衛隊なんて一捻りだと思われ……モフモフ至上主義。
③お兄様、魔法学院を首席卒業。国の中枢、軍、魔法団、あらゆる一流どころから勧誘があったが、アニキの選んだ就職先は〈王立図書館〉。自分に幻術をかけてバリバリ〈禁書〉を読んでいる。魔法学院も蔵書を読むため通ってたようなもんだったからね。そうそう、魔法トーナメント大会は次年時からオール棄権してました。9時から17時までしか勤務しない扱いにくい職員。全部読んだら辞めると公言。残りの時間は全て家族のもの。妹至上主義。
④ルーダリルフェナ、アポなし訪問しかけてくる〈仮〉朱雀のアスにイライラしっぱなし。ケーキ至上主義。
ルーについては今更な発見があった。昨年末、領地で魔法で防ぐことも間に合わない大雪崩が突発した。その時ルーは一瞬で成獣サイズになり私をポイっと背中に乗せて、軽やかに雪崩を蹴り、頂上まで駆け上がったのだ!いつも乗せてるヤツに乗せられる!ちょっと感動したけど、
「ルー、ひょっとして体格自在に変えられるの?」
『うん。でも大きいとかさばるし、効率悪いんだ。小さいほーがみんなケーキくれるしねー』
つまり歩くのめんどいのと、カワイイサイズのほうがお菓子もらえるからか!?聖獣がそんなあざとくていいんかい!でも人目につかない場所であれば、私を乗せて走ってくれるようになった。素材集めにめっちゃ便利!あ、でも、見返りにケーキを要求されるのでマツキさんに負担がかかってます。
で、あざとい聖獣がもう1匹。
『ルー、また美味しげなものを食べてるな』
『アス……もう来るなよ。オヤツ減る!ヘーカに大人しく使役されてろ!』
『ふふふ、ギレンは自分が行けない分、私に様子を見てきてほしいと快く留守を許すぞ?』
『くそ…………』
アスはケーキよりアイスが好きだ。南の四天だからか?
そしてマツキさん目を充血させて必至にアイスのレパートリーを増やしている。またハゲなきゃいいけど。
あの大会の後、正式な外交ルートでギレン陛下は私に婚約を申し込んできた。大騒動になった。なぜ大国の皇子が10も年下の「魔力なし」にこだわるのか?
私のホントの実力と、ルーのことをあっさりバラすのかと思ったが、
「私にこれ以上魔力は必要ない。「魔力なし」ならジュドールも手放しやすかろう?両国の友好のための縁結びだ」
と、我が国の外務担当にのたまったらしい。友好なんて聞いて呆れる。
私の秘密はバラさなかったことで恩を売るつもりだったのかもしれないけど、余計な注目を集めてくれちゃったから、幼児らしくプンプンしてやったもんね!訪問のお伺い、デートのお誘い、ぜーんぶお断り!おばあさま風に言うならば、ワガママは女のスパイスよ!ウフフ!
婚約もお父様が強気でお断りした。愛娘を他国に嫁がせるつもりはありませんって。そのせいで両国から処分されてもグランゼウスは痛くもかゆくもないからね。うちの一家はどこででも生きていけますんで。今の我が家の実力なら領民引き連れての移動も可能ですが何か?
ってわけで一件落着〜!と思ったら、ヘーカ、〈仮〉朱雀、略称アスを送りこんできた。相手は聖獣。我が家の数ある守りもスルリと突破して…………すっかり居着いてます。なんでや?
『理由?オヤツが美味しいからだが?』
やっぱりね。
◇◇◇
陛下の留学が終わるとき、アスが待ち合わせの手紙を携えてきた。関わらない方がいいことはわかっていても最後だからと承諾した。陛下は前世の恩人、やはり甘くなる。深夜0時、我が家の屋根。
「セレフィオーネの強さはわかっているが、夜中にレディを歩かせるつもりはない。部屋に入るのもオヤジがうるさくて時間が無駄になるだろうしな。ギリギリのラインだろ?」
屋根が?でも星は綺麗だ。お忍びのため闇に染まる黒に全身を包んだ陛下と私、モフモフとアスが並んで腰を降ろす。アスもウチではルーとサイズを合わせている。おまいらアザトイ!あざとカワイすぎるぞ!はい、私の負けです。
〈契約者〉は他の聖獣の声も拾える。それは〈使役者〉も同じようだ。陛下は来て早々ルーにちょっかいを出し、何事か話している。勧誘活動?この真面目め!
「嫁に来る気になったか?」
「子供相手に何言ってんですか。」
「最初から俺はお前を子供と思っていない。俺と対等なたった一人の人間。セレフィオーネが欲しい」
「既に十分な力をお持ちでしょう?」
「ルー目当てじゃない。ルーがいたらアスと二匹、見てて退屈しないとは思うがな。俺はたった6歳で俺が皇帝になると言い切ったお前が欲しい。俺自身すらも信じきれていなかった未来をお前は信じてくれた」
信じた訳じゃないんだけどな。知ってただけだ。
「……弱気なんて珍しい」
「ふん、セレフィオーネにウソはつかない。ウソをついたばかりにウソに沿ったお前の意見を聞くなど無意味。俺はセレの真の声に重きをおいているんだ」
為政者は孤独だ。……こんな小娘の大して役に立たない声だけど、私はあなたには誠実であることを誓うから信用していいよ。でもギレン陛下はこれからもっともっと孤独な道を歩むことになる。誰の声も信じることのできない道。
「…………あ」
流れ星だ。
「陛下、流れ星のおまじないは知ってますか?」
「知らん」
「流れる間に三回願い事を唱えれば、それが叶うというものです。陛下は何を願いますか?」
「セレフィオーネが皇妃になること」
「ブブー!それダメ。皇妃なんて命狙われて気苦労多いだけじゃん」
ギレン陛下が噴き出した。
「ははっ。何かセレの気をひく特典を用意しなくてはな」
「他に何かないですか?あ、また来た!陛下、心で祈って!」
天頂から星が流れる。
私は瞬時に陛下の手を握り、陛下の願いが叶いますように、陛下の願いが叶いますように、陛下の願いが叶いますように、と呟いた。
きっと叶う。私はチートだもん。何を願ったの?修羅の道でなければいい。
これで前世の恩返しになるかなあ。完全に自己満足だけど。空から陛下に顔を戻した。
月を背にした陛下の表情は暗くてよく読み取れないけれど、雰囲気はかつてないほど穏やかで、くそー性格はさておきかっこいいなあと思っていたら、大きな身体に軽く抱き込まれ、頭を覆うフードを外され……額にキスされた。
「あ……」
魔力が入ってくる。
陛下の魔力は悲しいほどほろ苦くて……切なくて……前世のコーヒーに似てた。コーヒーは……大好きで……
私は陛下の魔力を受け入れていた。小さな私の身体隅々に行き渡る。
「おやすみ、セレフィオーネ」
ギレン陛下は風とアスを伴って消えた。
あれから数年、陛下は今、ガレでいよいよ皇帝の座を巡る最終決戦、第一皇子との一騎打ちに臨もうとしている。
◇◇◇
シュナイダー殿下とも、あれ以降出くわしてない。ただ病弱設定は今は昔。今では卓越した魔法師である第一王子として認知されている。見目もよく国民からの人気も高い。
隠れて生きるのを完全に止めたようだ。王妃様と革新派の皆様と事を構えても負けない自信がついたってことなんだろうか?
んで、とうとう私、騎士学校の入学試験!うわー緊張するー!助けて天神様!
前回、子供時代が終わった!と後書きで豪語しましたが、11歳スタート……まだ子供でした。大人っぽい展開を予想していた方々、すいません!