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21 再会しました

「殿下、殿下、次の準備がございます。お戻りください!」

術の外から声がかかる。いくら幻術をかけていても、きちんとした目的対象があればどこにいるかくらいはわかるのだ。


私はパチンと指を鳴らし、術を解く。蜃気楼のように術が晴れる中、私はパパンに膝抱っこ。私の席にアニキが腰掛け、隣でおばあさまがお茶を飲む。その前にギレン陛下が静かに佇み、柔らかく微笑む。マーウソくさい!


「〈魔力なし〉のあなたの隣はとても心地がいい。また逢いに参ります」

そう言うと優雅に私の爪の先にキスをし、迎えの従者を従えて大股で歩み去った。


あー周囲の悲鳴が鬱陶しい!

アニキ、私の爪に浄化魔法かけんでいいって!洗えば落ちるから!


「もう……疲れました。お兄様の試合が終わったのならもう帰りませんか?」

「そうね、ちょっとした話し合いが必要だわね。」

「私は今度の帰省のときに加わります。」

「ラルーザ、お疲れ様。よくやった。」


ワー!

歓声が起こる。フィールドを見ると準決勝第二試合の選手が登場してきた。


急にルーの爪が肩に食い込む。地味に痛いよ?ルー?

『セレ……あいつだ』


ルーの真剣な声にルーの視線をたどる。


……ああ、間違いない。魔力研究所の彼だ。背がたった1年で随分と伸びているけど。


「お兄様、あの方です。あの方は誰?」

全てを察した家族が彼を凝視する。パパンが…………フウとため息をつき、諦めた口調で言った。


「あの方は我が国の第一王子、シュナイダー殿下だ」




◇◇◇




私達はアニキと別れ、家族の敗戦に気落ちした(てい)で早々に魔法学院を後にした。シュナイダー殿下に気づかれる前にとっとと姿を隠したかったというのが本音だ。今日はこれ以上の新しい登場人物いらん。既にパニック手前だっつーの。



馬車に揺られながら目をつむり、小説情報を思い出す。

小説では第一王子は名前すら出てこなかった。第一王子は生まれこそ一番目であったものの、側妃の子であることと病弱であるため、次の王座は正妃の子供で才色兼備なガードナー殿下にほぼ決定している……という設定がさらりと説明されてただけだった。完全なるモブ。



帰宅すると、気楽なドレスに着替え、お父様、おばあさまの待つ談話室に赴く。私のグッタリした表情にお茶を運んできたマーサが驚き、しゃがんで私を抱きしめる。マーサの態度は私が生まれたその日から首尾一貫して変わらない。私がただの6歳児に戻れる唯一の心のママ。


「どうされました、お嬢様?悲しいことがあったのですか?」

もう、マーサのほうが悲しい顔してる。ああ……マーサの香りはモフモフ同様私の鎮静剤。

「ううん。疲れただけなの。ルーも。美味しいケーキ食べたいな」

「すぐお出ししますからね」

もう一度私をギュッと抱きしめて、バタバタと厨房に準備しにいってくれた。ありがとうマーサ。

私はこれでほぼほぼ通常運転に戻れた。




「お父様、私何故かあまりシュナイダー様のこと知りませんの。第一王子というのに……病弱だとどこかで聞いたような気もするのですが」


「表向き病弱だ。そのため公の場にはなかなか現れない。まあ……綺麗な言い方をするなら正妃様とガードナー王子のために一歩引いておられるのさ」

汚い言い方をすれば、出すぎると打たれるってことね。おー怖!


「でも、ルーが見えたことからもわかるように、シュナイダー殿下かなりの魔力持ち……前回のやりとりからしてもとても聡明でいらっしゃいました。対してガードナー殿下は聖獣が2体も目の前に降臨しているのに気づかれなかった。目立つことを控えている優秀な第一王子が何故魔法大会など晴れがましい舞台に?」


静かなノックの後にエンリケが入室した。

「エルザ様、文が届きました」

「エンリケ、ありがとう。どれどれ…………シュナイダー殿下は二年生、昨年はおとなしい生活態度で特にめだつこともなく、当然魔法大会にも出なかったけれど、一年ほど前から貪欲に目の色を変えて魔法に打ち込みだしたそうよ。人の目……王妃の目も気にせずね。まあ、今のところ年の差もあって第二王子と優劣を比較しようもないから王妃サイドも静観しているようよ。きっと大きな力にでも遭遇して、生き方を転換したんじゃないかしら?」


この短時間に探らせてたんだ。おばあさまの草、優秀!んでおばあさまも十分怖えー。

にしても、あの時やっぱりフラグ立てちゃったかあ。ガックシ。

王家として、ガードナーの兄として、いずれ私の前に立ちふさがるのかなあ。


私はポイっとルー専用に一口サイズになっているケーキをルーの口に放り込む。ルーもいつもより神妙な顔をしてもしゃもしゃ食べる。


でも、小説でモブでしかなかった第一王子がシュナイダー殿下と名を持って前面に出てきた。小説の内容が乱れてきた証拠でもある。私にとっては歓迎すべきことと思ってもいいのでは?


「とりあえず、相手がわかってよかった。相手がわかれば避けようがある。不自然でない程度にラルーザに王子の動向を探らせて、私達はこれまで同様接触を断つ」


お父様の言葉に私とおばあさまは黙って頷く。


「シュナイダー殿下は私とルーの正体、突き止めていると思いますか?」


「常に最悪の最悪を想定しておくに越した事ないわ。楽観はダメよ?セレフィーちゃん。知られている前提だと、より慎重になれる」


「はい、おばあさま」


「そして……ギレン殿下のふざけたプロポーズ、当然無視でいいね?」

パパン、背中になんか真っ黒なもん背負ってて怖いって!


「お父様、私、とりあえずロリコンには全く興味ありません。でもギレン殿下は聖獣を使役され、私達の秘密を全てご存知の方。無下にはできないかと」


「ろりこん?」


「うふふ、セレフィーちゃん、強気でいきましょうよ?私の秘密をバラしたら二度と会いませんわーくらい言わなきゃ。恋は惚れた方が負けって決まっていてよ?」


いや、おばあさま……仮に恋があったとして、ギレン陛下が惚れてるの私じゃなくてルーだから。あ、でも結果的に一緒か?嫌がらせしたらルーに会わせないって言えばいいのか?


「とりあえず、相手は大国の王族。事を構えることにならないよう注意しつつ、幼児相手に何の冗談?と、とり合わない方向でよろしいのではないかと」


お父様とおばあさまがウンウンと頷く。

「それにしても、セレフィーちゃん、初っ端から大物釣り上げちゃったわねえ?ガレの皇子、最後はセレフィーちゃんにメロメロだったじゃないの?おばあさま、鼻が高いわ!」


メロメロ?いやギラギラして一歩引いたけど?おばあさま幻術かかってたんじゃないの?


「御母上様、そういう冗談、全く笑えません!」

「あらあら」

「お父様、ご安心ください。私とルーは冒険者になるのです。いつもここか領地の屋敷からスタートして、必ずお父様のもとに戻ります。旅に出る身で結婚などありえないのです。ねールー?」

『おー!俺もセレがあいつと結婚してアスと一緒に暮らすとか絶対やだよ!』

「せ、セレフィオーネ!!!」


ガシッ!

私とお父様は固く固く抱擁した。








ようやくこれにて子供時代の第1章が終わりです。

ブクマ400!セレとルーが飛んだり跳ねたりしてるチビッコ時代を辛抱強く読んでくださった皆様、どうもありがとうございます。


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