168 真夜中の男子会2020
セレがガレの建国祭に行っている間のジュドールが舞台です。
夜、ガレの宵宮で、眠るセレフィオーネの足元で丸くなっているルーのもとに、アスが飛んできた。
『ルー、喫茶ポルポルって知っているか?』
『ジュドールの学生街の良心的な喫茶店だ。オススメはレモンムースケーキでバリウマだぞ?アス、ポルポルがどうした?』
『今日の深夜、そこでセレアル会だ』
『なぬ?』
◇◇◇
ワイワイ、ガヤガヤ……
「皆様、静粛に!静粛に!我々ももういい大人なのですから、大騒ぎはいただけません。この夜分に場所を提供してくれた、ポルポルのマスターにご迷惑がかかるでしょうが!ふう……では第111回、平穏を取り戻したセレフィオーネ様と騎士団四姉妹を生涯かけて推していくぜの会を開催いたします!」
パチパチパチパチ!
ピー!ピー!
「司会は文官一年生。ただいまトランドルCランクのエベレストです。よろしくお願いします。なお、我々はあくまで騎士団四姉妹の勝手連であり、有事はひとまず終わりましたので、活動は以前のように秘めやかに行ってまいります。よって、アルマやササラ少尉等、我らの女神をこの場に呼ぶことはありませんので悪しからず」
「えー!ササラ様来ないの〜!ガーン……」
「おい、シルク!最近のササラ様の様子は?」
「はい、国軍に籍はありますが、ほとんどトランドルに出向いています。ジュドールの新体制とのすり合わせに忙しい、前領主エルザ様の護衛が詰まっているらしくて、あまり会えてないです。でも元気にしてると孤児院に手紙が来ていました」
「……え?お前、ほんとに泣き虫シルク?」
「声変わりしちゃったの?にーちゃんたちショックだよ……」
「てか、どこをどうやったらあの華奢な美少年がここまでガチムチに……」
「先輩方?(野太い声)」
「……いや、ササラ様が元気ならいいんだ……」
「うん、ご本人たちがいないほうが、会としては崇めやすいよね……」
「ふむ、シルク、ササラ様の様子を聞かせてくれてありがとう。では……あ、いた!ニックぅ!アルマの様子を教えてください」
「えー? 俺よりも王宮勤務のエベレストのほうが、アルマの働きぶりとか耳に入るだろう?俺はそっちを知りたいけど。あいつは仕事の苦労とか、俺に全然見せないから……」
「おっとぉ!ニック!てめえノロケか?チクショウ!!」
「誠実清楚白百合のごときアルマたんが、よもやニックと恋人同士になるなんて……ワーン!」
「ニック、アルマたんにまさかふ、不埒な真似などしていないだろうな!」
「……黙秘する」
「ニックぅ〜!ま、まさか!チュウとかしてんのか?」
「なんだってえ!」
「アルマたんが!アルマたんが!」
「やかましいわっ!」
「「「「「コダック先生!!」」」」」
「アルマは国王の副官補佐として、歯を食いしばって頑張ってる。それもこれも自分が騎士学校代67期卒業生の代表であり、自分が失態をおかせば、お前らまで不利益や謗りをくらうとわかっているからだ。ニックとイチャイチャする暇なんてねえ!なあニック?」
「え?あ〜まあ〜ゴニョゴニョ……」
「「「「「…………」」」」」
「お、おほん、コダック先生、アルマの近況を教えていただきありがとうございます。ついでにセレフィオーネ様のご様子もお聞きしてもよろしいですか?」
「ん?セレフィオーネは今、ガレの建国祭に行ってるぞ?もう元気だと本人は言ってるが、ひとりだと油断しているとき、鎖骨の傷を押さえて顔をしかめてるからな。エルザ様がしばらくガレに逗留した方がいいと判断した。ガレにはアス……あ〜、治癒魔法が抜きん出てすごいお方がいらっしゃるのだ」
「なんですと〜〜〜〜!!」
「おや、セシル、どうしたんです?床に突っ伏して?」
「ガレにいれば、ギレン陛下に会いにくるセレフィオーネ様と接点が増えると思って、ガードナー殿下の留学にお付き合いしてるのに、フタを開ければ全然いらっしゃらない。留学先が夏休みに入り、猛ダッシュで戻ってきたら、まさかの入れ違い……」
「なんだなんだ!セシルのガレ留学、そんな下心満載だったのか?」
「俺、側近として失意のガードナー殿下をほっとけなかったっていう美談と思ってたんですけどお?」
「もちろんその思いもあるさ!だが、我々セレアル会の優先順位はいついかなる時も、第一がセレフィオーネ様とアルマ!この二人と同期、同窓として生きることができることへの感謝だろう?違うか?」
「「「「「……違わない!!!」」」」」
「すまん、セシル。俺が初心を忘れていた」
「ああ、セシルがセレフィオーネ様最優先であることは当然であり義務だ」
「ありがとう、わかってくれて」
「パンパン、はい、握手して分かり合えてよかったですね。ちなみに私はセレフィオーネ様にお会いしたいときは伝達魔法で連絡し、トランドルのギルドでお会いしてます。そのほうが確実ですし、都合が悪い時も、可愛らしい字で書かれた「ゴメンね」というお手紙を頂くことができます」
「「「「「はあ!?」」」」」
「エベ、エベレスト!お前、セレフィオーネ様と直接、文通だと?」
「う、裏切りもの〜!」
「直接ぶつかってよかったのか?」
「じゃ、じゃあ俺だって!今夜早速、この熱いパッションを!」
「やかましいわっ!」
「「「「「コダック先生!」」」」」
「いいか?セレフィオーネは超多忙だ。エベレストの手紙がセレフィオーネの元に通過しているとしたら、おそらく有用で邪な意図がないと許可が出ているからだ。妙な手紙送ったら、魔王から返事が来ると覚悟しろ」
「「「「「魔王!!」」」」」
「……魔王、すこぶる機嫌悪いらしいよね」
「娘が怪我して、その原因の王家を大臣としてサポートしないといけない立場になったらそうもなるか」
「でも魔王も卒パのダンスは、温情で許してくれてたんだよな」
「うん、でも、先生とニックと踊ったあと、セレフィオーネ様が体力続かなくなって……夢に終わった」
「夢は夢のままの方がいいのさ、きっと……」
「まあ、夢と言わず、一度お手紙を出されてみてはいかがでしょうか?騎士学校卒といえど、伝達魔法くらい使えたほうが、どの職であっても便利ですよ。ご相談があれば、会の終了後私まで来てくださいね。私やニック、トランドルギルド所属のものが、誰にでも備わってる微量の魔力をお引き出ししますので」
「「「「「な、なんだってえ!」」」」」
◇◇◇
「おっと、もう日が変わりますので、最後の連絡をお願いします」
「はい!」
「あ、先日の『無欲の聖者セレフィオーネ、その愛と奇跡』で、世界ペンクラブ大賞を最年少受賞したマードック。よく国内にいましたねえ。どうぞ!」
「セレアル会あってこその今日の僕です!ちゃんとわかってるよ!ということで、今回、ペンクラブ大賞の賞金で、『受賞記念図書館』を建設することにいたしました」
「「「「「おお〜!」」」」」
「世界で一番の蔵書数を目指し、騎士団四姉妹の資料室も一部屋作り、地下はこの……『セレアル会』だけの特別な会員制クラブを作ろうと思ってます」
「「「「「おおおおお〜!!」」」」」
「ですが、皆さんご存知の通り、私は書くことしか脳のない男で……皆さん、それぞれの分野でご活躍されています。お手伝いしていただけないでしょうか?」
「ただで働かせる気か?マードック?」
「コダック先生!……騎士団四姉妹に恥じぬ建物を作るには、賞金だけではどうしても足りなくて……お手伝いいただけた皆様には、壁面のプレートに名前を載せて、ネルソン先輩の四姉妹と四天の聖獣様が、いざ戦いに出られる構図の、100枚限定のリトグラフを進呈……」
「トランドルの材木を普段の半値で流そう!」
「先生ずり〜!Sランク割引ここで使うのか〜!」
「ふむ、では私は煩雑な、役所関係の書類手続きを一手に引き受けましょう」
「エベレスト!」
「お、俺はガレの前衛的な本や資料を、なんとか許可をもらって寄贈する!」
「セシル!」
「俺、何か役に立つかな……あ、建物全体に定期的に防御魔法張ろうか?」
「ニック!」
「僕は商家だから、お買い得な、椅子やテーブルを優先的に卸すね」
「我が子爵家は船舶会社をもっているので、定期船でよければ無償で集めた荷を運びましょう」
「うわーん!俺なんにも貢献できないー!」
「俺も〜!でも四人と聖獣勢揃いのリトグラフなんて借金してでもほしいよ〜!」
「決めた!おれ、軍を辞めて大工王になる!」
「大工王?」
「俺も!マードック!俺の体を使ってくれ!」
「いや、俺の体の方が!」
「おい、もう体は定員に達した!」
「…………!!」
「…………」
「……?」
◇◇◇
『……はあ、帰るか』
『……今夜も安定のセレアル会だったな。愉快』
『ルー様もアス様も、こーんな面白い行事、もっと早く教えてくださいよお!ぷんぷん!』
三柱は静かにささやきながら、とりあえずセレの眠るガレに戻っていった。
久しぶりの男子会でした。書いていて楽しかったです。
今後とも男子会もセレアルも来月発売の弱気MAXも
どうぞよろしくお願いします(*^▽^*)




