表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢は冒険者を志す  作者: 小田 ヒロ
後日談 今度こそ冒険者を志す!
163/173

163 【3巻発売感謝!】建国祭⑤ ベルーガは最高でした

トン、っとギレンが着地した振動が抱き上げられた体に響く。


「セレ、目を開けていいぞ?」

緩やかな風をまとうなか、見えた景色は森林限界を突破した、火山岩むき出しの山の中腹の平たい地だった。

そっと、地面に下ろされる。と同時に、ルーも現れた。

『オレまで結界で弾くとか、アス、いい根性してるな、おい!』

『ほう、聖地の結界を破ったか?ルーもまあまあやるようになったな』


「へー、ここがベルーガ」

アスの聖地。うん、ミユのレーガン島の祠と同じくらい清浄な空気に満ちている。


「頂上に小さな神殿があり、そこで幼いころアスと出会ったのだ」

そう言ってギレンが山頂を見上げる。しかし、モクモクと吹き出す煙は見えるけれど、全くテッペンはここからじゃ見えない。あと1,000メートルはある?


「まさか登るの?」

『ふふ、セレの体調が全快したら、我の神殿に是非来てほしい。が、今日は少し歩くだけだ』


アスが飛ぶ後ろをついていく。ギレンは私を気遣って手を繋いで私のペースで歩いてくれる。

足場の悪い道なき道を15分ほど歩くと……岩場の窪みからむくむくと水蒸気が上がり、懐かしい硫黄の匂い!

白く濁った10畳ほどの大きな湯だまりが現れた!


「うそ⁉︎温泉?」

『これに浸かればセレの傷の治りも早くなるだろう』


温泉……前世以来だ!

「さ、最高よ最高!うわーい!ありがとう!アス〜」


私はアスをギュッと抱きしめて、勢いよくマントをポーンと脱ぎ捨てた!


『こ、こら!セレ!ちょっと待て!ギレン!水を出して湯の温度を調整しろ!だからセレ、脱ぐな!ルー!お前はセレに恥じらいを教えておらんのか!』


『恥じらい?何で?風呂はヒトの営みの一つ。恥じらうことあるまい?さあセレ!由緑の沼でいつもするように泳ぐぞ!競争だ!』

「うん!」

『いつもぉ⁉︎小龍はなぜ許す!』


オカンが珍しく慌てて我らの前に立ち塞がる。

『待て待て待て待てーい!ギレンが固まってるだろうが!セレ、素っ裸禁止!マジックルームからタオル出してきちんと巻け!ギレン、ちょっとその大岩の陰で待っとけ!』


ギレンが頭を抱えてよろよろと岩陰に消えた。


「えー?でも前世ではタオルは湯船に入れちゃだめなんだよ?」

『どこの世界のルールだ!ここの主は我だ!いい子だから我の言う通りにしなさい!』

「ふあーい」

『口うるさいやつだな』

「ルー、オカンは口うるさいものって決まってるのよ。でもそれはありがたいことだと後で気がつくの」

『ほー、含蓄あるな』

『…………』


私は胸からお尻までキチンと隠し、アスの厳しいチェックを受けて、そっとお湯に足を入れた。

ああ……いいお湯加減……体の芯までジーンと温まる。

ルーもモフ姿のまま飛び込んで、わちゃわちゃ泳ぎ出した。


「幸せ……ギレン〜!ギレンもおいでよ〜!」

「はあ……セレはなぜこうも無防備で……俺を試すのだ」

「ん?」

「俺はいい。俺はいつでも来れるからな」


岩陰から恐る恐る?出てきたギレンは首まで濁ったお湯に浸かった私を見て、はあ……と息を吐き、すぐ側の岩に腰かけた。

「アスは入らないの?」

『我が水浴びするには、ちょっと温度が高いのだ』


私は体に巻いたタオルの上の傷痕に、治れ〜治れ〜と念じながらお湯を擦りつけ、ギレンのすぐ側まで行って、湯船の縁になっている岩に頬杖をつき、同じ景色を見た。


下界を覗くと雲の間から、麓の街、そして海が見える。海の向こうのマルシュ大陸やレーガン島はさすがに見えない。ミユは今頃レンザくんと修行に精を出しているかな……。


「ギレン?」

「何だ?」

景色から私に視線を移す。


「アスが護る山があって、賑わった街がここだけでなくたくさんあって、海があって、資源があって、貿易が出来る。ガレはこれからもっともっといい国になるわ」

「……そうだろうか?」

「絶対そう!」

『温泉もあるしな!』

ルーは仰向けでぷかぷか浮いている。


「セレは……手伝ってくれるのか?」

「もちろん!あ、でも脳筋トランドルの発展も手伝ってね!」


「脳……?まあいい。そうして……ずっとともに生きていければ……いいな」


ギレンはそっと笑って私に手を伸ばして、私の手を握った。




『あつい……』

ルーの呟きにアスは得意げに答える。

『ふふふ、やがて夫婦になるのだ。滅多に会えぬことだし、ちょっと熱いくらいがちょうどよかろう!』

『ちがーう!お湯が熱いんだよ!おい!この風呂ドンドン熱湯、底から湧いてるじゃないか!』


「何?」

ギレンが目を見開き、再び左手から水を湯船に注ぐ!


「おい?セレ?セレ!」

「あちゅい……ギレン……もうダメ……」

「セレ⁉︎しっかりしろ!」

『ギレン!湯あたりだ!いかん!急いで湯から出せ!風を流せ!水を飲ませろ!』

「目が……まわる〜う」

『まわる〜ん。にゃ〜ん……』




◇◇◇




結局、私は温泉でのぼせてギレンに介抱され、素っ裸見られて、着替えさせてもらって、抱っこで皇宮に連れ戻されて、治癒魔法師の世話になり、翌朝までグッタリ寝た。女として終わった……。


「婚姻前に……グランゼウスに殺されるな……いやトランドルか?三人相手では……」


枕元から深ーいため息が聞こえる


「セレといると全く……気が休まらん……ふふ」


さらりと、額を撫でられた。

ひんやりした感触が気持ち良くて、その手に頬をすりつけた。






建国祭はこれで終了です。

次回は明日か明後日(作者が近所の本屋で三巻を確認した日)、更新になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 建国祭編,無事終了しましたね。 早かったです...。・゜・(ノД`)・゜・。 ノベルもコミックも発売されて, ファン一同喜びの舞を踊っております!(笑) 次の更新も楽しみにしております。 繰…
[一言] まぁ、どうせ結婚するんだしイイんじゃない? セレもセレでギレンの前でキャストオフしてんだし。 考えてみれば、ガレは火山があるので温泉町とかありそう。霊山をバックに露天風呂…行ってみたいなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ