162 【3巻発売記念!】建国祭④ 処遇を話し合いました
本日、転生令嬢は冒険者を志す三巻発売日です!
ギレンにあれこれ尋ねながら見るパレードは、知らないことばかりで勉強になったし楽しかった。たまに立ち上がって栄誉礼を受けるときはカッコよくてちょっとキュンとなった。
そして大勢集まった国民のギレンに向ける視線が、思ったよりも温かくて、ちょっと泣きそうになった。
私もギレンも、〈時戻し〉前とは、違うのだ。
その後の祝賀パーティーでは、ギレンの横で挨拶に来る人々を出迎え、無愛想な相方の代わりに頰の筋肉が痙攣するほど愛想笑いした。
マルシュからタブチ宰相の代理でヤマダくんがやってきて、つい先日のタブチさんの娘誘拐事件での互いの活躍を思い出しハイタッチすると、ギレンがグイッと私の腰に回してた腕を引いてきた。いかんいかん、ガレは案外しきたりが厳格なのだから。
その後ギレンとファーストダンスを踊った。くるくる回るとこれまで見えなかった後ろのアスの髪飾りに皆が気づいてしまい、やっぱり悪目立ちした。
それぞれに場が盛り上がったのを確認してようやく席に戻ると、私のテーブルのお菓子はルーが食い散らかした後だった。
「ルー……」
『セレ!ガレの味付けは香辛料がきいててなかなか面白いぞ!』
アスが慌てて口を挟む!
『ルー、毒味せずに食べたのか?さすがに菓子には香辛料など通常入れないぞ?』
『……はいぃ??だって昨日、辛いの好きって……』
結果、毒はなかった。
ガレは本当に……落ち着いたのだ。
私は空きっ腹で最後まで乗りきり、慣れてないことに疲れ果てて、珍しく皇宮の客室にスッキリしない表情のルーと泊まった。
◇◇◇
今日までガレは祝日だ。オカンアスに1日空けておくように言われているけれど、どこに連れていってくれるのだろう?
出された朝ごはんをもりもり食べて(今回はアーサーが毒味した)、出発前にギレンの執務室に挨拶に行くと、ギレンとアスとリグイドとサカキさんが揃っていて、ギレンの表情が険しい。昨日の出来事が伝わったのだと知る。
「皆様、おはようございます」
「「姫、ルー様おはようございます」」
リグイドとサカキさんが立ち上がり頭を下げてくれるのを見ながら私もお辞儀して、同じタイミングで椅子に座る。
ん?全員顔を上げると……サカキさんがげっそりしてる……魔力も体力も限界まで削ぎ落とされた感じ……。
サカキさんを凝視すると、目立たぬように手を横に振っている。触れられたくない話題らしい。
「姫、サカキのことはお気になさず。ちょっとした教育的指導が入っただけです」
「『え?……ふ〜ん……』」
リグイドの言葉に、空気の読める私とルーは口を挟まなかった。とりあえず心で(痛いのや疲労、飛んで行け〜)とおまじないをかけておく。
「セレ、ダレルが迷惑をかけた。申し訳ない」
ギレンが頭を下げた。やっぱり。
「ん〜、ルーも一緒だったし、どうってことない。問題が表面に出てよかったね」
私が肩をすくめてみせるとギレンが苦笑いする。
コホンとリグイドが咳払いして、注目を集める。
「それで、今回の件は私にも責任がありますので、私は今後三ヶ月の給金を全額国庫に返納いたします」
「重すぎない?」
いくらもらってるのか知らないけれど。
「皇妃となられるお方を危険に晒したのです。たまたま姫が常人ではないため大事に至らなかっただけ」
「……常人ですけど?」
失敬な!
「で、せっかく慶事に沸くガレの雰囲気をこの件を表沙汰にして荒立てるのも……ということで、内々に済ませることに決まりました。しかし、罰せられる私がダレル殿下の量刑を決めるのもおかしな話。よって、陛下にお伺いを立てているところです」
公式な裁判にかけず、内々に処理か……
まあわからなくはないけれどね。ガレの庶民は皇族の争いや横暴さに辟易している。せっかくギレンの御代に落ち着いて、彼の人柄がなかなか好感度上がったときに、皇族の不始末が露見すれば、求心力だだ下がりだ。
まあ今回はダレル王子の相手が庶民でなく私だから、私さえ納得すれば表に出さずともいいと言えば……いい。ただ脅すつもりだけのようだったし。
ただ秘密はどうしたって漏れる。漏れたときに皇族だから甘い処分だったと言われないようにしないと。
でも、ギレンにダレル殿下の処罰を決めさせるの?身内を裁かせるの?またもや身内に裏切られたことを全身に染み渡らせて、また心に深い傷を負わせるの?
それは……ダメだ。
「ちょっと待って。被害者は私よ。公開せずに刑を下すのであれば、私が私刑するわ。私には資格、ないかしら?」
「……いえ。セレフィオーネ姫は既に陛下と同等の権限を有すると、閣議で決定しております」
「……セレ、どう裁く?」
ギレンが心配そうな眼差しで私を見やる。
皆が納得するほど過酷な、それでいてギレンを傷つけない刑罰……。例えば私がこれまでで一番重労働だったこと……辛かったこと……。
ん?なんだ、すぐ身近にあるじゃん。
「ふっふっふ!決めた!国外追放よ!そしてトランドルギルドに放り込みます!うちの新人教育、トランドルサーキットは死刑よりもある意味地獄よ!」
『ほ〜、なるほど』
ルーがニヤリと悪く笑った。
「ギルドですか?」
リグイドが不思議そうに聞き返す。
「トランドルギルドで、甘ったれた根性を一回ポッキリ折った後で、叩き直してもらいます。トランドルは王族だろうと次期領主だろうと忖度しません。心身ともに強くなければ発言権もありません」
「……まあ、前領主があの女獅子ですからなあ」
リグイドさん?女獅子とはおばあさまのこと……よね?聞き捨てならないけど、後で詳しく聞くとして、
「おそらくガレの牢にいたほうがマシだったと嘆くことでしょう。まあでもギレンの血縁ならば素材はいいはずなので、改心すれば一年後にはそこそこに仕上がるでしょうね。ガレに戻すかどうかはその時次第ということで」
「随分と自信がおありですね」
「私もそうやって育てられたもの。あの厳しくも温かい場所で矯正されないのであれば……私が責任もって、処罰するわ」
皇妃として、私が手を汚そう。
「「「…………」」」
「ギレン、今は平時、出来るだけ本来の裁判にならって身内は除斥しなければ。その点私はどこまで辿っても他人!」
ギレンがしばらく熟考したのち、頷いた。
「わかった」
「では、そのように。トランドルギルド長に私からの親書と手間賃、殿下の生活費を添えて、お願いに参りましょう」
リグイドがすぐさま話をまとめあげる。
「私からも伝令飛ばしておくわ」
よかった。これで、とりあえず一件落着。ジークじい、またもや変な奴押し付けてごめん!でもセシルをマトモ?にしたジークじいならばきっと……おばあさまもいるしね!
『では行くか?セレ』
アスが翼を広げた。
「あーい。一件落着したってことで、アスとデートしてきまーす!」
私がよっこいしょと立ち上がると、
「……デート?」
ギレンがさっきよりももっと眉間にシワを寄せる。
「姫、どちらへ?」
サカキさん、なぜそんな焦って聞くの?そういえば行き先はまだ聞いてない。アスに視線を送る。
『我の聖地へ』
「霊山ベルーガだって」
「霊山へ……聖地へ招かれるとは流石姫様。陛下もどうぞご一緒に行かれませ。ダレル様の件が片づけば今日は休みです」
リグイドがいつもの調子に戻った。
『ふむ、ギレンも来るがよい』
「……当然だ」
ギレンが立ち上がって私を左手で抱き込み、右手を上げて風の渦を発生させる。うわっ!竜巻の中心ってこうなってるの?いつもこうやってこのコンビは移動してるんだっけ?ギレンの肩のアスを見ればニコリと笑っている。とりあえず振り落とされないようにギレンにしがみつく。
『ま、待て!オレも行くぞ。誘われんが行くぞ?オレとセレは一心同体……ってオイー!置いてくな〜!』
◇◇◇
「サカキ」
「は!」
「ダレル殿下が一年で改心せぬ場合は……病死だ。いいな?」
「……了解しました」
「決して……我らの敬愛する皇妃陛下の手を……血で染めてはならん」
「御意」
書籍化して一年、Webの本編まで収めた三巻を出せましたのは
お読みくださり応援してくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
小田ヒロ




