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転生令嬢は冒険者を志す  作者: 小田 ヒロ
後日談 今度こそ冒険者を志す!
161/173

161 【3巻発売記念!】建国祭③ 殿下は奥の手?を持ってました

愛するギレンの弟ということで、一応敬意を持って接してきたわけだけど、一気に気持ちが氷点下に冷え込む。


「それだけのものを陛下に差し出させるとして、ダレル殿下は国にどんな貢献が出来ると?」

「無礼な!私はガレの皇子だぞ!ガレの資産を全て受け取る資格があるのだ!産まれる時期を間違わなければ、私こそが皇帝になったものを!」


ギレンは何も受け取っていない。奪われる日々が去った今は、与える一方だ。


「つまりダレル殿下は要望が通らぬ場合、陛下を倒すとおっしゃるの?大人になったからそれが出来ると?何とまあ……」


見たところ、身体も鍛えられておず、魔力も表層に現れてもいない。何をもってここまで自信たっぷりなのだろうか?思わずルーと視線を交わす。ルーも不愉快そうに眉間にシワを寄せる。


「陛下は恐れ多くも、ガレの守護神、霊山ベルーガの霊鳥様を使役されていらっしゃるのよ?そんな陛下に勝機があると?」


すると何故かダレル殿下は愉快そうに笑った。


「私にはこれがあるのだ!」


横のテーブルに置いてあった、赤地に金の豪奢な刺繍をしてある袋から、くすんだ黒い組紐を自慢げに取り出した。


3メートルほどの距離でじっくり観察したが、何の気配もなくさっぱりわからない。ピンとこない私がバカなのかしら?


「えーと、薄汚いですね」


「ふん、これだから物の価値のわからぬ輩は困るのだ。これは初代皇帝エイベルが霊鳥を使役した綱だ!」


「『……へ?』」


「これさえあれば、霊鳥は私の意のまま。ギレン兄上は霊鳥をかさに権力を握っているに過ぎん。霊鳥さえ私のものになれば、全ての貴族たちは私に傅くであろう!」


想定外すぎて、しばらく反応できなかった。

「……わお。あんな小汚い紐で、アスをいいように扱えるの?アス、案外やっすいなあ」

『……んなわけあるか。ったく、あいつの悪ふざけだ。おおかたギレン同様、そういうルールで使役されてやってたんだろうよ。全くあいつの楽しみはねじ曲がっている!』


そもそもたった今、ルーが見えない時点で、聖獣を語る資格などない。

「はあ……だよねえ。じゃ」

私は人差し指から炎を飛ばし、一瞬で皇子の手の聖獣使役紐?をジュッと燃やした!火の鳥アスの愛し子になって?、私の炎のコントロールは格段にアップした。


「うわわわわ!熱いっ!はああ?キ、キサマ、何てことをーー!!」


残骸すら残っていない己の手のひらを見つめ、ワナワナと震えるダレル皇子。


もう遊びはここまでだ。私はいつものように先程火を繰り出した人差し指から風を出して、殿下と従者に〈金縛り〉をかける。

「う、動かない?……」

従者が呆然と私を見る。

「キサマ、よくも!無礼であるぞ!」

殿下は私を憎しげに睨みつける。


「私の術に太刀打ちできないクセに、ギレンに勝てると思ってるなんて……」


……ほんっとにふざけんな!ギレンのように己の手を血で汚したこともない、傷一つないつるんつるんのハート持ちのお前ごときに何ができる!

ギレンがどれほどの苦痛に耐えて、警戒しながらも自室のベッドで眠ることができる今日(こんにち)を手に入れたと思ってるの!?

と、一瞬頭に血が上ったけど、バカにいうのもシンドイだけなので止めた。深呼吸する。


『セレ、こいつらどうすんだ』

「私は裁く権限など持たないもの。正規のルートで正規の罰を受けるでしょ。ガレはもう戦時中ではなくて、とっくに平時の法治国家なのだから」


ギレンが恐れられ憎まれて、魂から血を流して、ようやく今のガレを作った。


前触れもなく、ドオーンと壁が崩された。私とルーはピョンっと飛び退き距離をとる。

ガレキと砂埃の向こうに右手を突き出して立っていたのはリグイド。と、その部下。


『へー……セレ、コイツを呼んだのか?』

ルーが意外そうにつぶやく。

私はこの部屋に入った瞬間、小さな水色の蝶をリグイドに飛ばしたのだ。

「こーいうことはリグイドの管轄だと思って。大事な式典前にギレンを煩わせたくなかったし」


結果的に正解だった。

いかに疎遠であっても弟。またしても家族のことで悲しい思いなどさせたくないもの……


リグイドがコメカミをピクピク痙攣らせながら、私の足元に膝をついた。

「我々の未来の至高の皇妃、セレフィオーネ姫。このような煩わしいことに付き合わせて誠に申し訳ありませんでした」

リグイド、こういう顔もするのか。自分の失敗が許せないってところかな。

「後はあなたに任せるけれど、日を改めて説明してください。今日は慶事。ギレンの耳には入れないようにして」


私はリグイドに手を差し出して立ち上がらせる。リグイドはさも不愉快そうに自国の皇子を睨みつける。


「幼いからと、見逃してやったというのに……私の監督不行届きです。皇帝陛下はダレル皇子と会った記憶すらないと思います。戦時中は側妃様と疎開されておりましたし、側妃様は皇子の安全を最優先されてましたので。前王と第一皇子以外の皇族の処遇については私が禍根を残さぬよう一任されておりました」


幼い……か。

ギレンは相当幼いときから一人で立ってたわけだけどね。


ダレル皇子には保護者がいたんだ。お母さんにこの従者。

同じ立場だったのに、何でこうも違うの……ってそんなことを今考えても意味などないか。少なくともかつてのギレンの環境はダレル皇子のせいではない。


私がこれからはギレンにピットリひっついている。サカキさんやアーサーも最近ではギレンのそばに競っていてくれてる。それでいいのだ。


「リグイド!何故こんなたかだかジュドールの伯爵令嬢に膝をつく!お前には恥という概念がないのか?兄上に媚び諂って!」


「……何故私が姫に膝をつくのか、それがわからぬ時点であなたは終わっております。おい、殿下とその者を牢に連れて行け!姫、ルー様、時間がありません。表の車寄せに直接お出向きください。くれぐれも真っ直ぐ……ですよ?」


さっきも真っ直ぐ行くつもりだったってば!




◇◇◇





迷路のような隠し通路をリグイドの後をついていき、明るい!と思ったら正面入り口前のパティオだった。せかせかと真ん中を突っ切り、衛兵が両脇に立つ大きな扉を抜けると……、


馬車の前で皇帝自ら腕を組み足を休めにして待ち構えていた。その後ろに真っ青になってるサカキさん!皇帝待たせるとか打首レベル〜!


「セレ、急げ」

ギレンに手を取られ馬車に乗る。ギレンが乗るや否や走り出す。

正面からギレンとアスに見つめられる。アスが長い首を傾ける。


『セレ……何故こんな短時間に面倒を起こす?』

「ぜっったい私のせいじゃないよねっ!アス、わかってて言ってるよね?」

『我があのような小者を認識するはずなかろう。とりあえずセレ、災難だったな』

アスがギレンから私の肩に飛び乗り、チョイチョイと私の髪の乱れをなおす。おかしいよね?これも?


「……つまり、我が(わが)ガレが何かセレに面倒をかけたということだな?」

ギレンに隠し通せないことくらいわかってる。でも耳に入るのは遅いほうがいい。


せっかく一緒にいられる時間だもの。


「そうね〜そういえば、ガレに面倒かけられるって初めてかも?」

『そだな。いっつもセレが一方的にギレンに面倒をかけているのだ。たまにはよかろう。ギレン、この話は一連の儀式の後だ』

私が話題を軽いものにすると、ルーも正確に読み取り乗ってくれた。


「いや、セレ、すまない」

ギレンが静かに頭を下げる。ギレンは乗っかってくれなかった。

ギレンは何一つ悪くないと言いたいけれど……ガレで起こる全てはある意味ギレンに責任があるのだ。

胸が詰まる。ついギレンの心中を思って顔を歪めそうになる。でも、私はこんなことで、ギレンに悲しみや同情心を見せる柔な女じゃないのだ。だから私はツーンと澄ました態度を取る。


「陛下、お詫びの印に一角パイソンのステーキを要求します」

「……わかった。待ってろ」

ギレンが少し目を見開いたあと、困ったように笑った。


『肉な!ギレンにケーキは無理だしな!確かにあれは凶暴でレアだ!最近食べていない!ギレン、ちゃちゃっと狩ってこい!鮮度大事!』

「やっぱお詫びと言えば肉でしょ⁉︎ねー!」

私とルーはイシシと笑う。


『ふふふ、やはり……セレしかおらぬ……』

肩のアスに、頬擦りされた。



観閲パレードの中心である、ガレアのメインストリートのど真ん中に出来た、階段状の桟敷席の前で、ギレンにエスコートされて馬車を降りる。

とたんに熱狂に包まれる!


「ギレン陛下、バンザーイ!」

「きゃあああ!皇妃様の手を取ってる〜う!」

「なんて穏やかなお顔!」

「やっぱりあれフィクションじゃないんだわ!」

「リアルよリアル!くぅうう!」


皇妃呼びはフライングだろ?と思いながらも私は笑顔を貼り付け、ギレンの肘に手を添えて誘導どおりに歩きつつ、

「何故これほど女性の支持が増えたの?」

ちょっと前までギレンは完全に畏怖の対象で、女子どもは時には身を隠すほどだった。


「本だよ」

ギレンが当たり前のように言った。

「…………」


私は緋色の皇族の区画に連れられて、ギレンと二人、座らされる。たった二脚なのに間隔が遠い。

「よっこらしょ!」

私は一旦立ち上がり、自分の椅子をギレンの椅子にピッタリ寄せて置き直す。無意味に重厚感出した椅子で重い!こんなときはパイプ椅子でよかろうに。ふう、と一息ついた。


「セレ?」

「だって観閲なんて初めてだから、ギレンにイチイチ説明してもらわないとわからないでしょ?遠いと聞きづらい」

今だって歓声やらあらゆる音で、声が通らない。


「姫!姫の疑問は私がすぐ後ろから……」

「サカキ、下がっていい。そうだな、疑問に思うことは何でも聞いてくれ」

二人で仲良く腰を下ろす。ギレンは、私側の肘掛を使い、私に耳を傾ける。準備バッチリだ。


「ギレン、あのさあ、右の部隊と左の部隊、どうしてスカーフの色が違うの?」

「職種が違う。白いほうは……」

「ねえ、パレードの順番はどうやって決めるの?」

「順番に優劣はない。ただ国境を守る部隊が最も危険を伴い……」






◇◇◇





ギレンの右隣にアスが、セレフィオーネの左にはルーがどっかと陣取る。

少数精鋭の付き人は静かに後ろに配置される。


セレフィオーネはキラキラと目を輝かせ、正面に居並ぶ兵士たちを見つめ、無邪気に手を振りながらギレンの耳元で何か囁き、ギレンもあちこち指差しながら、穏やかな表情でセレフィオーネに答えている。


国内外から集まった賓客や観衆は続々と入場する兵士たちに歓声を上げながらも……高い場所にいる皇帝とその婚約者が気になって仕方がない。

チラチラ見ては……あの本どおり、皇帝陛下は実は情にあついのだ、と頷きあう。そしてそんな二人の強者が統治するこの国の未来に安堵する。


「リグイド閣下の思惑どおりになってるじゃねえか」

サカキはニンマリ微笑んだ。

「アス様見たさに皆研鑽を積み、魔力が向上しているから、四天様がたを見えてる奴もいるだろうし……神に守られ、君主は妃と仲睦まじい。ガレは盤石だな」


この現状をお膳立てした宰相を首を伸ばして探すと……リグイドは……静かに激怒していた。


「……やべえ。フィオから目を離した俺のせいか?」




昨年の今日、一巻が発売されました。あれから一年……(感無量)

三巻、明日発売日ですが地域によってはご購入いただいたかたもいるようです。

ありがとうございますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、サカキさんのせいじゃないと思う。 ちなみにリグイドが怒ってるのは、たぶん普段やらない失態をやらかして、ギレンとセレを煩わせたからだと思うな。…超恥ずかしいんだよ。 完璧主義者でしょ…
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