160 【コミックス①小説③発売記念!】建国祭②オカンの特技が増えました
中1日の休養日はひたすらキッチンで働いていた。アスがアーサーを使って準備していた食材をひたすら加工し、凍らせて保存したり、例のモチモチの実を入れて保存がきくようにして、アスとギレンの食事を作りだめする。
「アーサー、これ、甘すぎる?」
「そうですね、このエビ、ニンニクがきいていて非常に美味しいですが、もう少し辛いほうが好みです……はあ、姫の手料理の味見係など、こんな幸福許されるのか?」
アーサーがほっぺに手を当てて涙目になっている。ガレの食事情はそんなにマズイのか?
『おい、それは間違いなくアーサーの好みだぞ?』
「でもアーサーもギレンと同じガレの味覚で育ったんでしょ?たいして変わらないわよ。はい、ルーにはアーサーが持ってきたマドレーヌ!」
『モグモグ……ふむ。子どもらのひたむきさが良く味に出てるな』
ルーが慈悲深い笑みを浮かべた。そうだよ!ルーってば日頃忘れがちだけど聖獣様だった!
「アーサー、ニルバ孤児院に行く時間あるかなぁ?」
「建国祭が終わりましたらいつでも。子どもたち、業務部長のアポなし訪問に緊張するでしょうね」
アーサーも子どもたちと接するようになったからか、優しく笑うようになった。
夕方、少しお疲れのギレンとアスがやってきて、サカキさんも合流し、久しぶりにみんなでご飯を食べた。これが日常だった日々から数ヶ月しか経ってないのに……懐かしい。
明日の準備があるということで、皆早めに引き上げた。私もルーとサッサと寝た。
◇◇◇
今日の衣装はリグイドに手配してもらった。郷にいれば郷に従えという名の丸投げだ。
「ほほーう」
ドレスだった。まあガレの軍人ではないから軍服ではないか。
ガレのドレスはマーカスのものよりもハイウエスト。胸のすぐ下に切り替えがある。私の鎖骨のキズを隠すためかハイネックで長袖。そしてたっぷりの生地がストンと下まで流れている。むむむ、あちこちに隠しポケットや、留め具がある……やるなリグイド!ありがたくナイフや手裏剣を仕込んでいく。
色はアスの赤!
「赤なんて……初めてなんだけど……」
『ふふふ、似合っているぞ?セレ。さあ鏡の前に座れ』
「ん?」
私はアスに促され鏡台の前に座る。
するとアスが背中にまわり椅子の背にとまり、風魔法を展開した。私の髪の毛がフワリと舞い上がり、紅くキラキラと煌く。
「へ?」
そして両方の羽から微風を起こし、私の髪が徐々に頭の高い位置でまとまっていく。
『……嘘だろ?』
鏡越しのルーの目が驚きでまんまるになっている。
「まさか……前回……姫が髪結えるか?って聞いたから、霊鳥様……」
本日の付添、サカキさんが口をあんぐり開けている。
『ふふふ、あのような挑戦を受けて、我がそのままにしておくと思ったか?』
話しているあいだに、髪がクルリとねじられて……これはいわゆる夜会巻き……
私もアゴが外れそうに大きく口を開けているのをよそに、アスは虹色の尾羽をプツッとクチバシで引き抜き、形状安定魔法をかけ、結い髪の後方に突き立てて巻きつけた。
『ふむ。最高傑作だ!』
鏡には赤いドレスに夜会巻きという情熱的な装いに反し、呆気に取られた小娘と駄モフとサカキさん。
「オカン……」
「フィオ……またもや悪目立ち決定だな……」
『アス……おまえ聖獣として……どうなんだ?』
『ふふふ、ルーには出来まい?』
満足いく出来栄えに鼻歌を歌いながら、アスは一足先にギレンの下へ飛んでいった。
とりあえず、風貌に負けないように、真剣に化粧しよう……。
◇◇◇
馬車で皇宮に着く。ガレ入国の際のような仰々しいのは苦手なので、裏口に。
ルーを肩に乗せて宮殿に入ったところで、サカキさんに聞く。
「とりあえず謁見の間に行けばいいの?」
「いや、陛下の執務室に行くように言われている」
「了解。勝手知ったる執務室だから、ルーと二人で行けるわ。サカキさん、用事済ませてきていいよ。この二日宵宮に詰めてくれたから、やる事あるんじゃない?」
「特にはないが……儀礼用の軍服に着替えないとな。フィオ、真っ直ぐ向かえよ?」
「ほーい」
サカキさんと手を振って別れて、執務室に向けて右に曲がった途端、薄暗い空間に引き込まれた。喉に刃物が突き立てられているようだ。
「静かにしろ!」
中年の男の声。
「……誰?」
「いいから騒ぎ立てるなよ!勝手な行動を取ったらおまえの可愛がっている孤児院の子どもたちを皆殺しにする」
「なっ!」
『愚かな……、うん、孤児院にはミユを行かせたぞ!』
私はルーにありがとうと小さく頷いた。
上手いこと私すら気がついてなかった弱点つかれた……許せん!
ここまで来たら黒幕が誰か拝ませてもらおう。
『はあ……たどり着かないセレに、もうギレン怒ってるらしいぞ?さっきのサカキの言葉、フラグじゃね?って思ったんだよな……』
アスとも念話したようだ。ギレンが、怒ってる……やばい……。化粧が剥げる勢いで冷や汗が噴き出す。
「ふ、トランドルだプラチナだと言うからいかほどのものかと思えば……恐怖で震えてるじゃないか!」
うん、ビビりまくってるよ。
◇◇◇
薄暗い隠し通路を通って、地下に下っていく。
やがて灯りのともった空間に出た。空気が淀み、あまり気持ちのいい場所ではない。後ろ暗い歴史を持つ部屋のようだ。男に止まるように指示された。
壁際に身なりのいい若い男が立っていた。私を見て嘲るように笑い、両手を広げる。
「はじめまして。お姉さん」
「……私に兄弟は兄しかいないけど?」
「ギレンと婚約してるのであれば、お姉さんに間違いないよ」
「どちら様?」
「ひどいなあ、ギレン兄さんは、私のこと話題にものぼらせてくれてないの?」
「私と彼は、無駄口たたかないの」
私たちのともにいる時間は……貴重なのだ。
「フン、さすが残虐の限りを尽くしてきた男だよ!はじめまして。私はダレル。前王の第六皇子だ」
「……まあ」
皇帝位を競った長兄と、にっくき第五皇子しか眼中になかった。だって私は私で大変だったもの。
目をすがめて本物かじっくり眺める。髪は確かにギレンと同じ銀髪。でもそれ以外はさして似ていない。まあ母親が違うからそんなものか?私よりも少し年上のようだ。それにしても筋肉がついてない。こんな体でこのガレで生きていけるの?
『嘘はないようだ。一応本物のようだぞ?』
「ルーが見えていないのに?」
『素質はあるようだが、気概がゼロだな』
「はじめましてダレル殿下。この方は殿下の従者ですか?ナイフ下げてほしいのですが。殿下とこの方のためにも」
私はパパン譲りの覇気を全身から放ち、正面から挨拶がわりにぶつける。
「はっ!うっ!……?」
殿下は顔を青くし挙動不審になる。
「お、おい。どうせ何もできない。下がれ!」
ようやく鬱陶しかったナイフが離れた。従者は私をいつでも押さえつけられる?とその人が思っている?場所まで数歩下がった。
「で、殿下。このようなところになぜ私を呼び出したのですか?」
「う、うむ。今、私はガレアから馬車で一週間かかる、辺鄙な田舎の、離宮とは名ばかりの粗末な小屋に住んでいる。皇弟である私が!」
「まあ!田舎でのんびり暮らせるなんて羨ましいです」
まさしく前世今世と働きバチである私の夢だ。私だって老後は絶対……
『うむ、理想だな。でもセレは老後も無理だ。諦めろ』
「黙れ!私は幼かったゆえに皇位継承をめぐる争いに参戦していないんだ。だというのにこの仕打ち!」
仕打ちっていうが、身体は痩せ細っているわけでもなく、どちらかというと弛んでいる。ギレンのように目立つ傷もなく、お肌もプルプルの艶々だ。
「是非お姉様に、私への待遇改善を進言してほしい」
「具体的には?」
「首都ガレア中心にある離宮が欲しい。そして月々の手当も今の十倍は入れてくれなければ、皇弟としてふさわしい生活ができない」
……あらまあ。
誤字報告ありがとうございます!
そしてコミックス、たくさんの読了報告ありがとうございます!
コミックスでアスが器用にスプーンでアイスを食べてるのを見て、
髪も結えるんじゃね?と思った次第です(^ω^)
建国祭、加筆して⑤話になりました。11日の祝日までお楽しみください。
 




