16 思い出すと苦しくなりました
お兄様は相変わらず、学院の話はめんどくさがって話さないけれど、おばあさまが面白い情報を手に入れてスキップでグランゼウス伯爵邸を訪れた。
「ラルーザ、今度の学院の全学年魔法トーナメント大会への出場、選ばれたんですって?一年時での出場はラルーザ一人と聞いたわよ!」
おばあさまの諜報活動に死角なし!
「?おっしゃる通りですが、それが何か?」
「…………」
「おほん、ラルーザ、素晴らしいじゃないか!おめでとう!私は学院時代、二年生からしか出場できなかったよ!」
「何かを成し遂げて選ばれたわけではないのです。先週担任から出るように言われただけで」
相変わらずの我が家以外359度無関心アニキ。自慢も名誉もどこ吹く風。
「大会って?」
「セレフィー、魔法学院は13歳で入学し、一学年から五学年の18歳まで在籍しているんだ。日々その学年に沿ったカリキュラムを学んでいるわけだけど、年に一度開かれる魔法大会は学年関係なく実力者のみエントリーされてその年一番強い学生を選ぶんだ」
「わあ!お兄様すごい!私応援しております!」
小説にそんなイベントあったっけ?私の世代では隣国ときな臭くなってたから端折られたのかな。
「ありがとう、セレフィオーネ。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、〈学院レベル〉に揃えるってのは結構面倒でね。まあ単独魔法力押しでもどうとでもなるんだけど、今後のこと考えると悪目立ちするのもね」
まあ一年生で最上級生ぶっ飛ばしたりしたら、残りの学院生活、確かに生きづらいかも?って、ん?アニキそういうの気にするキャラじゃないよね。
「私は淡々と静かに過ごしたいだけなんだ。学院の書庫の蔵書、全制覇するまでは」
ふんふん、上級生の圧力なんか問題でもないけど、周りでピーチクパーチクされたくないのか。イケメンの上、実力を内外に知らしめちゃったら、変な取り巻きとかできて、ウザいってことか。
「ラルーザ、全く、末恐ろしい子!」
おばあさま、にやけてます、にやけてます!
お父様が苦笑した。
「ラルーザの気持ちもわからんではないけど、ラルーザの実力はいつまでも隠し通せるものでもない。私はしっかり戦って、ここらで実力を見せつけて、その上で周りに文句を言わせないほうが得策だと思うよ?そうすることでラルーザはルー様とセレフィオーネの表の盾になり得る。私とおばあさまは影から支えるからね。考えてほしい」
「…………わかりました」
皆さん、手のかかる娘とモフモフですいません。
「はあ、でも家族以外と戦うお兄様、見てみたかったです。いっそ変装して見に行こうかな……」
『認識操作する?セレと俺が記憶に残らないように?』
ルーがカワイイ前脚の肉球を私の膝に乗せて立ち、上目づかいで提案してくれる。
「ん、大丈夫。ワガママだわ。みんなが私を守ろうと尽くしてくれてるのに」
「いや……セレフィー応援に行こうか?そろそろセレフィーを隠しすぎるのも不自然だ。存在をはっきりわからせた上で、ガッチリ我々に守られており、手は出せないと知らしめよう。でも、セレフィー、〈魔力なし〉の娘として嘲る視線を浴びるのは確実だよ?平気かな?」
「まあ!面白い!愚鈍な弱虫を演じてごらんにいれますわ!」
私は女優よー!
「え?嘲る視線なんてありえない。変な虫がブンブン煩わせることになること必至ですよ。セレフィオーネ、できるだけ地味な格好で来るんだよ」
了解!こんな地味子が妹だなんてバレないようにします!お兄様に恥かかせることはいたしません!
「面白い。ワクワクしてきたわねえ。ウフフ」
と言うわけで、一家総出でお兄ちゃん応援ツアーに行くことになった。
◇◇◇
王都の中心から南に外れたところに魔法学院はあった。
お父様に支えられて馬車を降り、堂々とした門扉を見て…………不覚にも涙が滲んだ。懐かしいから?違うよ!悔しいからだよ!
あと数年後に始まる隣国との戦いに飲み込まれたあと、小説の私は王子の婚約者として惜しみなく力を奮い働いた。でもポッとでのヒロインに王子も友人も……兄上も全て傾いた。
「戦いでは解決しない!話し合うのよ!」
「みんなが傷つけあわないですむ、そういう世界をあなたなら作れるわ!」
口から出る言葉は砂糖のように甘い綺麗事ばかり。確かにヒロインマリベルのいうことは正しい。当時小説もすんなり読めた。
でもこの世界がリアルとなり、中身アラサーで悪役令嬢の立ち位置になった私はもう同調できない。
話しあうのは外務大臣と官僚の仕事。小娘が国の行政に口挟むんじゃねえ!
特に戦時では、頭脳と兵隊は完全に切り離していないと作戦は遂行できない。兵隊がイチイチ何故?どうして?って疑問を挟んでいては戦局は動かない。外交も幕僚も兵隊もそれぞれの役割を果たさなければならないのだ。
そして、当時の魔法学院の生徒の役割は兵隊、駒。私は自分に与えられた役割を真摯に果たしただけだった。
なのに浴びせられる罵声、
「そんなに簡単に人を殺して、心が痛まないの?」
「あなたは冷え切っている」
「君は王家にふさわしくない」
はあ?あんたの国王に殲滅命令されたんだけど?
心?あんた達の心ない言葉のせいで、血まみれだったわ!
だから私は…………隣国にこの身を売った…………
「……せ……セレフ……セレフィオーネ?ぼんやりしてどうした?」
「あ……なんでもありませんわ」
自分でも驚くほどに小説の私に感情移入してしまった。まるでその人生をホントに歩いたかのように。転生とはこういうものなんだろうか?
現世の私、前世の私、小説の私 。頭の中は整理できていたり、混じり合ったり。
ぼーっとしてちゃダメ。飲み込まれちゃダメ。ここはアウェー。油断してはダメだ。
『セレ?』
「ごめん、ルー。大丈夫よ」
私は今世で初めて複雑な思いのある学院に足を踏み入れた。




