159 【コミックス一巻発売記念!】ガレの建国祭に行きました①
時系列は149話、マルシュの騒動後となります。
(書籍三巻と繋がる感じになります)
マルシュ大陸全ての国々との調印を果たし、トランドルに戻る。書類に瑕疵がないかチェックを入れてもらい、おばあさまに報告をし、私のミッションはクリア。
グランゼウス領で一月ほど休養し、心配をかけた領民たちに久しぶりに顔を見せて歓待を受け、ルーと野山を駆け巡り、パトロールする。そしてエンリケとマーサに甘えた。
「もうっ、お嬢ちゃまが死にそうになったと聞いて、私は、私はもう……」
「ゴメンね、マーサ」
いつの間にか、私の方がマーサよりも大きくなり、私の胸に小さくなったマーサを包み込む。
『な、何故!マツキはおらんのだ!』
「マツキは王都だよ。お父様もお兄様も今王都に滞在中だもん」
『ガーン!!!』
「おや、ルー様何かご不満ですかな?」
言葉は通じていないのに、そこは付き合いの長いエンリケ、ルーの思考を的確に読む。
『い、いや、これしきのことでオレが落ち込むわけないだろう?』
「ふふふ、ちゃんとマツキはケーキをたっぷり冷凍していってくれていますよ?」
『でかしたマツキーーーー!エンリケ!早く早く解凍するのだっ!!!オレは約二カ月もマルシュ大陸にいたんだぞ!どれだけご無沙汰かわかっているのかっー!』
「余裕がなさすぎだよ、ルー……」
◇◇◇
で、心も身体も充電し、再びトランドルの書類仕事をヒーヒー言いながらこなしたところでガレに行くことになった。ガレ帝国の建国記念祭だ。ギレンのひいひいひいひいじーさん?が散らばる小国を武力でまとめ上げた記念日。
私とルーはひっそり密入国し、こっそり宵宮に入ろうと思っていたんだけれど、次期皇妃が堂々と入らないでどうする!とリグイドの伝達コガネムシにガミッと怒られた。
めんどくさいけれど、おばあさまから馬を借りる。私の頭のうえに乗っかるルーに萎縮しまくり、足元がおぼつかないお馬さん……ゴメンね。なんとか宥めて走ってもらい、ジュドールとガレの国境へ。
「セレフィオーネ様!お帰りなさいませ!」
「アーサー。迎えに来てくれたの?」
「もちろんです!サカキに伝わる前に馳せ参じましたっ!」
「は?」
きちんと紺の軍服に身を包んだアーサーが堅牢な国境のゲート前で待ち構えていて、優雅に膝をつく。
私はギレンの仕立ててくれたパンツルックにギレンの黒マント姿。髪はただのポニーテール。
私が馬から飛び降りると、アーサーが立ち上がって馬の轡を取り、部下に引き渡す。心なしか馬がホッとしている。
プラチナプレートを両国の兵士に見せて、アーサーの先導で歩いて門をくぐり国境を抜けると、100人ほどのガレの兵士が道の両側に剣を掲げて整列していた。マジか。なんて仰々しい。
「……えーと、ひょっとして正装で入国した方が良かったのかな?待ってくれたらさっと着替えて仕切りなおすけど?」
もちろんマジックルームにはおばあさまに持たされたドレスが数着入ってる。
『我がいる。問題ない』
天空から敢えて光を撒き散らしながら、オカンが派手に登場し、私の左肩に舞い降りた。
私の髪もキラリと紅く煌めく。
うわあああああ!!!
兵士と野次馬が一気にどよめいた!
「アス、久しぶり!ゴメン、うるさくて聞こえないけど、なんで問題ないの?」
『はあ……一眼で皇帝のものとわかるマントをまとい、肩にケバケバしい、ワザと幻術もかけていない露出狂の鳥。セレの服装に文句言えるヤツなんてこの世にいないだろ……』
「ルー!おっきい声で言って?アス、眩しい!ちょっと光源抑えて!アーサー、真ん中まっすぐ歩く、でいいの?」
「セレフィオーネ次期皇妃陛下と我等が霊鳥様にーぃ、敬礼!」
兵士達が皆、身体の前で剣を天に向かって垂直に構えた。
これはスゴイ。様式美だ。自由気ままで必要に応じて協力しあうトランドルの真逆。ちょっと緊張する。
「皆さま、ありがとう。これからもよろしくお願い致します」
「さあ、セレフィオーネ様、どうぞ」
私はアーサーを従え、彼らの真ん中を内心ハラハラしながら歩き、礼を受けた。
◇◇◇
背の高い兵士達の林を抜けるとガレの……アスの紋章入りの馬車が待ち構えていて、案内のまま乗り込む。私がきちんと腰掛けたのを確認したアーサーが合図を出し、ゆっくりと走り出す。ガレの馬車は揺れが少ない。サスペンションもどきが入ってるのかな?
正面に座るアーサーに尋ねる。
「今日は一旦ガレアの皇宮に入って、陛下に挨拶をすればいいの?」
「いえ、まっすぐ宵宮に入って、旅の疲れをとるようにとの仰せです」
「えー。そんな大げさな」
『セレ、我の目から見ても傷はまだ完治しておらん。無理は禁物。休めるときは休むのだ』
アスがメッと私を叱り、クチバシで頭を突っつく。心配症のオカンめ!
『もちろん、疲れたセレのためにご馳走を用意してくれているのだろう?』
ルーがアスを睨みつける。
『ん?あらゆる食材を宵宮に運んでおいたぞ?久しぶりにセレの作るマルシュ風魚の煮付けが食べたいなっ!』
私が作るんかーい!
私の体を気遣ってか、ちょこちょこ休憩を挟んだので、ルーに乗って密入国するときの倍の時間をかけて、私のガレのおうちについた。
いつも通り、外見はとってもうらぶれた宵宮だけど、中は簡素で快適で、
「あれ?掃除してくれていたの?」
「もちろんです。姫がいつお戻りになっても気持ちよく過ごしていただけるように、定期的に清掃しています」
よくよく考えれば、トランドルの焼き討ちを聞いて飛んで帰った。恐ろしいほど散らかってたんじゃないだろうか……でも新年に戻ったときは整頓されてて……今更恥ずかしい。
私は持ってきた荷物を片付けたあと、マルシュの醤油もどきでブリ大根もどきを作り、ルーとアスとアーサーと食べて、勧められるまま、早めに寝た。
◇◇◇
喉が渇いて目を覚ますと、窓辺のテーブルでギレンが書類を睨みつけていた。相変わらず仕事を持ち帰っているようだ。私の上に乗って寝ていたルーはいない。
「ギレン?来てたの?」
「セレ」
私がよっこらせと起き上がりベッドのヘッドボードに寄りかかると、ギレンがその横にイスを引き寄せて座った。
「具合はどうだ?」
ギレンが私の寝間着の襟ぐりからのぞく刺し傷に目を留めて、そっと触れた。傷を見せるのは初めてだ。これまでは包帯を巻いていた。ギレンの眉間にギュッとシワがよる。
「ほら、キレイに塞がってるでしょ?アスと父のおかげ。触っても痛くないよ!」
本当は、表面のキズはどうってことないけれど、中の方が神経痛のようにキリキリ痛む。自分からオリハルコンに突っ込んでいったのだから、しょうがない。後悔もない。
「そうか……」
「今、何時ですか?」
「もうすぐ日付が変わる」
「えー、そんな遅いのに仕事してたの⁉︎皇帝だから?だとしたら私、皇妃無理じゃないかな〜?」
「……今、仕事は終わった」
ギレンがおもむろに書類を重ねてテーブルの脇に置いた。
「そーなの?じゃあギレンも明日に備えて寝てください」
「はあ、久しぶりに会えたんだ。そうすぐ追い返すな」
「じゃあ一緒に寝ましょう!ほら、ギレンのおかげでここのベッドこんなに広いし!」
「セレ……婚礼前にそんなことすれば、俺は血まつりにあうぞ?」
祭りだわっしょい
「怪我人を襲う男だなんて父も思ってないですよ。そもそも言わなきゃバレないって!」
「セレ、甘い。翌日にはバレるに一票だ」
「そかな?」
私は再び布団の中に入り、掛け布団の上をパンパンと叩く。
「ギレン、私が寝るまで隣でお話ししてもてなして?ホラ!」
ギレンは肩をすくめてベッドに上り、上掛けの上に靴のまま寝転がった。
「明後日、私の動きは?」
「朝、サカキを迎えにやる。午前中はメインストリートの観覧席で、観閲行進を見る。昼からのパーティーは、まあ、いつも通りだ。俺が挨拶して、懇談、ダンス。セレは俺の横を離れなければそれでいい」
「うん、わかった。地味にしてる。よそ者の私のこと気にくわないって人、多いだろうしね」
「……そうでもないぞ?」
久しぶりにギレン頰の傷に触れる。おまじないをかける。
「傷を見ると、ついつい触りたくなる気持ち、わかったでしょ?」
「ああ、言えてる」
そう言うと、ギレンはクスリと笑って体を起こし、私の鎖骨の傷にそっとキスをした。
「へ?」
「おまじないだ」
こ、こんなこっぱずかしいこと、私は何度も何度も何ども何度もしてたんかーい!
でもギレンがこの傷を、私を心配していることは痛いほどわかってるので、
「うぅ……ありがと。ギレン」
「寝付くまで、ここにいる。おやすみセレ」
「おやすみ、ギレン」
ギレンのコーヒー味に包まれて、秒で寝た。もう少し喋りたかったのに……
「はあ、全く人の気も知らないで……」
本日コミックス一巻が発売されました。わっしょい!
「物理!」石版割りが最高に面白いのです。皆様是非お読みください!
建国祭、次回は8(土)〜10(月)三巻発売日!の三日間全四話の更新予定です!
本編ではないのでのんびりした話ですが、セレとギレンのイチャイチャをお楽しみください。
 




