154 【2巻発売記念!】セレとルーの肝試し!
書籍2巻の内容に合わせ、84話の後の話になります。
ルーと再会し、マルシュにて冒険者稼業に精を出すセレフィオーネの話です。
「…………いちまーい、にまーい、さんまーい……」
「「「「「ギャーーーー!!!」」」」」
◇◇◇
「緊急〈要請〉なんて珍しいね」
私は下宿の椅子をヤマダくんに勧めながらそう言った。
「フィオの耳にはまだ入ってない?最近、ここトウクンで幽霊騒ぎが起きてるんだけど」
「『幽霊騒ぎ?』」
私とルーは首を傾げた。
「うん、この50年空き家になってる屋敷でね、夜な夜な怪しい声がするんだって。タブチ宰相もはじめは全く気にされてなかったんだけど、民の声がだんだん大きくなってね。早めに対処しようってことになった」
「ふーん」
そう言って足元を見るとルーが小刻みに……震えている?
「で、出来るだけ早めに現場の状況を確認してきてほしい。依頼料は前金でも構わないよ」
「タブチさんのことは信頼してるし、危険度わからないから後でいいよ」
『セレ!う、受けるのか?』
どったのルー?
◇◇◇
午前零時、我が家からそう遠くない朽ちかけた二階建ての木造の屋敷にやってきた。
先程まで煌々と辺りを照らしていた月に雲がかかり、一気に闇に包まれる。
『セ、セレ。オレはやっぱり、セレの部屋で待っとこうかな……うん、それがいい』
「何言ってんの?本当に妖系であれば、ルーの聖なる力で根こそぎ祓ってもらうしかないじゃん?」
聖獣だろうがあ!
『あ、妖などこの世におらん!臆病な人間が作り出した幻想だ!だから帰る!』
「……ねえ、まさか怖いの?」
『わ、我は四天の一獣ぞ!こ、怖いなどあるわけない!』
「そーよねー!じゃあレッツゴー!」
『れっつごー……』
ルー、右右、左左、無駄に揃った足運びはどーしたことだ?
よし、ではお行儀良く玄関から……あら、スルッと開いたわ。
「お邪魔しまーす」
『せ、セレ、明かり!明かりを灯せ!』
「へいへい」
私はランプに火を付けた。ポッと明るくなり、屋敷の中が見渡せるようになった。目の前に二階への階段がある。
「上から順にチェックしようか?」
『なぬ!二階に上って、ガラガラガッシャーンと階段が腐れ落ちて、降りてこられなくなったらどーする!』
「ジャンプして降りればいいじゃん。行くよ!」
『な、なるほど。待て!いやん、セレ、待ってぇぇぇぇぇ〜!』
ルーは定位置の私の肩でなく、私の服の胸元に自分の体をグイグイねじ込んできた。
『これで文字通りオレはセレと一心同体……置いていかれることはない……』
階段を上ると背後から生温い風が頰をかすめた。
『にゃにゃ!にゃーんだあ?』
「どっかから隙間風入ってるみたいねえ」
私は胸元のプルプルした振動を無視して二階の廊下を進み、順に扉を開けていく。中は大抵家具もなくがらんどうだ。
「そりゃそうか。売れるものは既に泥棒が持ち去ってるよね……ってルー!私の胸に顔押し付けて全然周り見てないじゃん!怪しいやつ探してよ!」
『そ、そんなことないっ!うわっぷ!!!ネバがー!ネバが来たー!』
顔を上げたとたん蜘蛛の巣に当たったようだ。
『セレ!浄化!クリーン!早く!はやくーーーん!』
私はポケットからハンカチを取り出し、ルーの顔をざざっと拭いた。
「はい二階の見回り終了!一階に降りまーす!」
『扱い雑‼︎』
一階も端からチェックしていく。キッチンの勝手口を開けると飛び石が敷かれ裏庭の離れにつながっていた。明かりが灯り……何かの気配がする。
「ルー。どうやらココみたいね」
私は太もものホルダーからクナイを取り出す。
『セレ!今夜はこれで十分だ!朝、明るくなってから友達百人連れて出直そう!な?な?』
「現行犯じゃなきゃ意味なし!行くよ!」
『うわーーーん!』
ルーは完全に私の服の中に消えた。
離れに近づくにつれ……
……一ま〜い、二ま〜い……やっぱり足りな〜い……
と、胸がつぶれるような悲しい声が聞こえ、
『ぶはー、ぶはー』
ルーの息も荒くなってきた。目も充血してる。めんどくさいなあ!
「ルー、もういいや。帰って寝てな?」
『セ、セレが行くのに、オレが行かないわけないだろう?い、今更怖くて一人で寝られんわー!』
怖い言ったな、ルーよ……私はルーの頭をナデナデした後……思いっきり扉を蹴破った!
ガシャーン!
「動くな!お前たちこの廃墟で何をしている!!!……ってあれ?」
『セレ〜!早いわ〜!心の準備が〜!うぎゃー!オバケぇぇぇ!……ん?こいつら……』
「「え?フィオちゃん?」」
「……本屋のアキモトさんと公園でいつもスケッチしてるノダさん?」
ルーもそろ〜っと私の懐から顔を出した。
『ひ、ヒト?足ある?足あるーーーーぅ!」
「自費出版本の出荷の準備、ですか?」
「うん。巻を重ねるごとに思った以上に人気が出てね、自宅に置いていたら何度も盗まれてさ」
「今日も作業してたら特典のブロマイド、三枚無くなってるの発見して……ガッカリだ」
ブロマイドやら本を数えている声だったんかーい!
「こんな廃墟なら誰も来ないと、盗まれるわけがないとここで作業していたんだけど……」
「でも、立派な不法侵入ですよ?」
「はい……申し訳ありません」
『お、驚かせおって!プンプン!』
「ところで、盗まれるほどのブロマイドやその小説?興味あります。見せてくださいっ!」
「えええっ!フィオちゃんの常夏ウサミミ水着姿……ヤバイだろ……」
「ん?」
「フィオちゃん!購入した人以外に見せるのはルール違反なんだ!」
「じゃあ、買う!」
「う、売り切れです!ごめんね!」
「ちぇっ!」
◇◇◇
翌日、私はヤマダくんに詳細を報告すると、ヤマダくんがアキモトさんとノダさんをタブチさんの元に連れていった。
でも世間を騒がせ、A級冒険者に〈要請〉かけた割に、何故かみんなアキモトさんたちに同情的で、タブチさんも二人を厳重注意するに留めた。情状酌量の余地がある、らしい???
「いや〜出遅れて予約できなかったが、思いがけなく手に入ったな〜!それも二冊も献本してくれるとは!前回は生き別れの家族を探すフィオが兄上とようやく再会できたと思ったら人違いだったところで終わって……年甲斐もなく枕を濡らした…ふふふ、サカキに自慢しよう!」
「え?タブチさん、何か手に入ったんですか?」
「お、おや?セレフィオーネ様、まだいらしたんですか?!えっと……あ、依頼料だね?依頼料依頼料……」
タブチさんはなぜかご機嫌で依頼料を奮発してくれた!マルシュに平和が戻った。
ルーも安心して腹出して寝られるようになった。
そしてルーの駄モフレベルが一気に上がった。タララッラッタラッタ〜♪
『手ごわい戦いだったな!セレ!』
「…………」
『暑いな!こんな日はバニラのアイス食べたい!なぬ、マルシュにはバニラの材料がない?……ぐぬぬぬ。ではブドウでいい!セレも好きだろ?』
「…………」
ルーの〈契約者〉として随分と長い時間を共有しているが、聖獣とは謎多きものだと、人間ごときにはわかりえないことばかりだと、改めて痛感した……。
いよいよ8月!二巻発売まで秒読みです。ということで番外編です。
次回は発売日当日、8/9更新します。
猛暑の最中です。皆さまくれぐれも体調お気をつけください。




