148 トモエ姫と再会しました
タブチさんの家から出ると、リグイドの伝達にあった敵?のアジトに向かって真っ暗な街道をサカキさんとルーと突っ走る。
サカキさんの馬のペースに合わせて3時間、日付がとっくに変わった丑三つ時に私達はイワマ領の目的地に到着した。
「拍子抜けするほどに、何の動の気配もないな……」
サカキさんが黒衣で囁く。確かにサカキさんスパイだ!初めて納得した。
『まあ、動の気配はな……』
私は真っ直ぐに玄関に向かう。室内側で木をつっかえ棒しているだけの扉。防音を施した後、ドアを蹴り破った!
「フィオ、確かに本調子じゃないな。ドンマイ」
私をどんな化け物と思っているのかね、サカキくん。まあ一割方のパワーだったけど。
屋敷の中は中流の貴族のものといった感じ。今のマルシュには少し贅沢。
『下に八人、上に四人だな。皆寝ている』
サカキさんに一階を任せ、私は二階に足を向けた。
◇◇◇
夜が明けた。
私とルーとサカキさんは手足を拘束し、床に転がしている12人がゆっくりと目を覚ます様子を、豪奢なソファーに座って眺めていた。
「え、な、何で!」
「お、おい!起きろ!」
「だ、誰だ!お前らは!」
「おい!ふざけるな!ロープを解け!」
「トモエ姫、起きてください!!!」
「ヤジマ王子!」
そう、二階で寝ていたのは、懐かしのトモエ姫だった。そしてもう一人は身なりからトモエ姫のおそらく兄弟。後の二人は側仕え。
私は座ったまま、覇気を三割出して威圧してみる。イメージするのは魔王と言われるお父様!
ドン!
「「「「う……」」」」
『へー、セレ、器用にできたな』
「えげつないなあ、この夫婦……」
まだ夫婦じゃないけどー?
「皆様、おはようございます。私が誰かわかりますか?」
「その声……セレフィオーネ!!!」
「トモエ姫、お久しぶりです」
トモエ姫はスラリと背が高く、綺麗になってて……やっぱり私よりデカかった。14歳になったはず。
「あなたのせいで……マルシュは!マルシュは崩壊してしまった!」
「ギルドを蔑ろにしたためあなたが崩壊させたのです。自分の無知を私になすりつけるのはやめてください」
「セレフィオーネ……まさかトランドルの?」
中年の護衛が私を呆然と見る。
「?何を言っているの?この女はグランゼウスよ?金の亡者の!今回はどんな依頼を受けたというの?お金のためならば平気で人の道を外れるいやらしい女!!!」
「「「ひっ!!!」」」
護衛らしき男ども、全て息を飲む。
「なんとも……ここまで成長していらっしゃらないとは……」
サカキさんが首を振る。
私も無駄な時間など1分もない。全員に金縛りをかける。あっさりネタばらしする。
「我が名はセレフィオーネ・グランゼウス。ジュドール王国より独立したトランドルの主。同盟国であるマルシュの首相タブチがうまく機能していないのでこの地に乗り込めば、娘と孫を人質に取られ、身動き取れずにいた。すぐさま人質解放に向かわせると……この策の首謀者のアジトを吐いた。そして私はここにいる」
全員が聞いているのを確かめて、言葉を続ける。
「タブチは寝食を忘れ報酬抜きで働き、過労死寸前にまでなりながらも、国の復興と民の生活水準の向上のため働いてきた。それをつぶさに見てきたからこそ同盟を結び手を貸してきた。タブチに感謝こそすれ陥れるものがまさか国民の中にいようなど、思いもよらなかった。あなた方が何で稼いで生活しているか知らないが、この国の首相であるタブチはここにいる誰よりも粗末ななりをしている」
「まあ、セレフィオーネ様も着るものに拘りませんよね」
私が今着ているのは、綿の打ち合わせで濃緑単色のマルシュの普段着。郷にいれば郷に従え、だ。確かにここにいる護衛のほうがいい身なりしている。
「この国は多額の資金援助の見返りにガレの傘下に入っている。つまりガレの法はここでも有効。ガレの刑法では未成年の誘拐および監禁は死罪。あなたたちもきっと自分の信念に基づいて行動したのでしょうから、覚悟などとうにできているわよね」
「まあ、ガレにたてついたんだ。始めっから死ぬつもりだったんだよな。そうじゃなきゃ、バカだ」
サカキさんがシラけた目で一人一人の顔を眺める。それぞれを覚えようとしているのか?もしくは前体制の時の顔見知りなのか……。
「私の力は今、身をもって痛感しているはずよね?きゃんきゃん喚かないと約束するならば、発言を許すけど?」
ほぼ全員の護衛騎士が手をあげる。王族二人と……騎士でない二人の初老の男は呆然とするのみ。
「あ、事前に言っとくけど、私、聖女エリス様に〈ウソを見破る術〉を頂戴してるから」
おっさん連中の手が一旦下がる。まあよく考えたまえ。私は一番年若い護衛を指指して、金縛りを解いた。
「はっ、あの私は、左にいる上官の命令で姫と王子の護衛をしていただけです。誓って誘拐など知りませんでしたし、加担しておりません」
「彼と同じ意見だという人、手を上げて」
もう二人手を上げた。彼らの術も解く。
「王政は終わったというのに王族の護衛など、おかしいと思わなかったの?」
「ですが、命令で……。政権が変わっても王族は警護すべきだと言われ……」
「気の毒だけど、例え知らなくとも誘拐に加担した罪は問われるわ。じゃあこの若い衆に命令したあなた、なぜ王族の護衛を彼らに命令したの?」
「…………」
「あなた、第四王子を誘拐してること、知ってたわね?」
「…………」
「誘拐して、タブチを動けなくして、政権を奪い返そうと思っていた?」
「全ては、トモエ姫とヤジマ王子のために行ったこと」
『こいつはホントにそう思ってるようだ』
たまにいるんだよね、間違ってるとわかっていても融通のきかない、軍人。
「ところで、私のことどの程度知ってる?どうも私が言っても信じてもらえないから、もう一度トモエ姫に教えてあげて?」
「……セレフィオーネ・グランゼウス、伯爵令嬢、宵闇の破壊姫、トランドルの鬼神の秘蔵っ子、先だってトランドルを継承し、ジュドールから独立した…トランドルの王、そして、ガレ皇帝の……全権を分け合うガレ皇妃」
トモエ姫が目を見開く!
まだ婚約者なんだけど……やっぱあの本のせいだ!
「そう、その、正当に同盟関係にある私とギレン皇帝陛下が、タブチの能力を認め、彼に政権運営を任せている。もしタブチが役にたたないのなら、もっと頭の切れる人間を探し出し、首をすげ替えるのみ。まあでも給与も碌に払えないこの国を治めようと思う志しのあるものなど、なかなか見つかりそうにないけれど」
一番歳のいった、金のかかった衣装でそれなりの権力のありそうな……下を向いている男の前まで歩き、アゴをつかんで無理矢理視線を合わせる。
「あなたたちのしていること、時代錯誤もいいところだわ。皆、ずんずん先に進んでいる。今更後ろ向いて元に戻ることなど、ありえっこないでしょう?」
彼の、金縛りを解く。
「さあ、正直に、あなたの企んでいたこと、教えて?」
「……私はそこにいる、王族お二方に、もう一度王族がマルシュの実権を握れるようにせよ、と命令されただけです」
『偽るなと警告したというのに、よくもまあ……』
「押し通すしかないんでしょ?」
私は王族二人の金縛りを解いた。
「サトウ!あなた達がそうしろって言ったんじゃない!!!」
途端にトモエ姫が喚く!私がひと睨みすると、トーンを下げる。
「あなた方は、マルシュを取り返したいと、本当にそう思ってるの?」
「だって、それが正しいって……」
「マルシュを取り返すこと、ホントにできると思っているの?」
「だって、隠れている王族派がまとまれば直ぐにもできるって……」
「仮にマルシュをもう一度、手に入れたら、あなたはどのような政治を行うの?どのような施策で民を潤すの?」
「わ、私にばかり訊いて卑怯よ!セレフィオーネは国のために何をした!どんな施策を持っているのよ」
「私は……賢くないから施策なんて思いつかないわ」
っていうか、周りが優秀過ぎるから私なんてお呼びじゃないんだけどね。
「ほらご覧なさい!」
トモエ姫が一矢報いたとばかり、鼻をツンと上げる。
「でも、大事な民を守れるように、必死に強くなってる。先頭に立って戦ってる。情報に置いていかれないようにしてる。冒険者として依頼を受け、害獣を排除し、お金を稼ぎ、我が国に還元している。戦争孤児に職業訓練してる。若輩だけど、出来ること、実践してる」
「…………」
「トモエ姫、あなたは王族には矜持があるとかつて言っていた。今こそ矜恃を示してください」




