146 ようやくルーと旅に出ました
間に合った!
「うーみーはーあおいーなーでっかーいーなー♪」
『セレ、前にのりだすな!危ない!』
と左肩のモフサイズのルー。
『そうだよ。凪にしてるけど、ここホントは大渦がいくつもあるんだよっ!』
と右肩のポケットサイズのミユ、カッコ東海王者。
ジュドールとマルシュやレーガン島への定期船がようやく復活した。私たちは最初のお客さんとなり、今海の上。新生トランドル国?代表として各地に赴き国交を樹立するのだ!
と言っても、下準備はアニキがぜーんぶ済ませてくれていて、私はハンコを押すだけなんざます。実務は兄、実権は祖母、格好ばかりのトランドルの主セレフィオーネ17歳。
「フィオ、メシの時間だ。きっちり三食食べないと陛下にチクるぞ!」
「…………」
お目付け役はサカキさん。過保護なギレンに付けられた。
まあ最終目的地がマルシュのトウクンだから理解できる。頼りにしてます。
「フィオ?担いでつれてくぞ?」
自分でも全盛期の三割程度の体力だって自覚はある。
「はーいわかりましたー!」
で、最初の訪問地、レーガン島到着!
船室からトボス港を眺めるとあれ?たくさんの人が桟橋に集まってる。
「誰か有名人の出待ちかな?」
『役者がこんな小さな島に来るか?』
『でも、エリスちゃんが訪れた島ってことで、聖女マニアが巡礼してるって!』
「さすが島神様ミユたん!詳しいねっ!」
スゴイぞエリス姉さん!スーパー過疎地のレーガン島に経済効果をもたらした!!!
「とりあえず聖女まんじゅうかなんか売り出してみようか?」
常に儲けるネタを考えるのは、上に立つものの宿命よ!
「はあ……わかってねえなあ……」
サカキさんが荷物を担ぎながらため息をついた。
私が船室から甲板に出て、両腕を空に突き出しううーーんと伸びをした瞬間、港の喧騒が止んだ。
なんだ?と思ったものの、そう気にせずに、ミユとルーの幻術のかかり具合を確認したのち、サカキさんと桟橋に向かう。
「あ、町長!」
相変わらず立派な白い髭の町長始め沢山の町民が両脇に待ち構えていて、どんだけ大物がこの船に乗ってたんだ?と不思議に思ったとき、バッチリ町長と目があった!
「町長……え?」
引き潮のように、その場にいたトボスの町民が膝をつき、深く頭を下げた!
えええー!
ルーもミユも見えてないはず、後ろを振り向くと、
「あ、サカキさんかあ!!」
「ちがーーう!!!もうっ!」
何故かサカキさんはぷりぷりして、町長を立ち上がらせて、私の前に引っ張ってきた。
「こんにちは、町長、お久しぶりです!」
「トランドル王、セレフィオーネ様、このレーガン島へのご訪問、誠にありがたく……」
はにゃ?
◇◇◇
港の人々は、なんと私の出迎えだった……
私、いつのまにか身バレしてた。
とりあえず解散してもらい、ギルドの応接室に場所を移す。
久々のガンちゃんも同席。ちょっと丸くなった?幸せ太りだな?
「えーと、どゆこと?今回に限ってこんな大歓待なんて?」
「ゴールド姉さんがトランドルの跡取りだなんて知らないから!いや、知らなかったとしても大恩人に変わりないんだけど、でも、でも……」
ああ〜っ!と頭をガシガシ搔くガンさん。
「あなた様の身分があまりにも高く、権力は大きすぎて、これまでの我々の態度や仕打ちに厳しく対処されるのではないかと……打ち震えております」
町長が憔悴した顔でそう言った。
私に無礼打ちされないかってこと?心外だわ〜!
「でも前回はトランドルのゴールドでしかなかった。それは隠してなかったし、待遇なんてあんなもんじゃないの?」
私はとりあえずサカキさんを見上げる。
「姫はこの通り何とも思われていない。もし後ろめたい思いがあるのなら、これから便宜をはかればいい。さあ、新生トランドルと国交を結ぶか?」
「もちろんです!」
「それは良かった。姫はトランドルだけではなく、我が国の皇帝陛下にとっても唯一の花。煩わせなかったこと、必ず報告しておくとしよう」
「「ひっ!」」
サクッと調印できました。これでレーガン島の質のいい真珠を大陸で独占的に販売しちゃうぞ!ああ、おばあさまの高笑いが聞こえる……
和やかに歓談していると、町長が、
「ところで宵闇の暴風……ごほんごほん。セレフィオーネ様のお耳に入れておきたいことが」
急に小声でどうしたの?
「マルシュの旧王族が不穏な動きをしている、という噂がこの片田舎にも入ってきております」
「具体的には?」
「タブチ首相を拉致し、政権を奪い返そうと目論んでいるとか」
「バカなの?」
『バカだな』
『バカすぎる』
「サカキさん知ってた?」
「いや、あほらし過ぎてチェックがかからなかった恐れがある」
スパイサカキさんの可愛いカエルの伝達魔法がピョンと跳ねて消えた。仕事早いな。
「マルシュは既にガレのものだってわかってないの?冷酷非道、氷の魔帝と呼ばれてるギレンを敵に回す勇気があるの?逆にあっぱれよ?」
「それが最近の皇帝陛下は『最愛の皇妃を守るため、あらゆる苦難に立ち向かう』にあるように婚約者様にうつつをぬかしているので、隙があり勝機は十分にあるとか言っておるようで……」
「…………」
『あのイチャイチャ本、海を渡ってるのか?』
『わあスゴイ!繁殖してるねえ。あ、でも属国だもの、ガレと流通速度は一緒なのかあ』
もう一匹カエルがぴょんと跳ねて消えた。
はい、ギレンの耳に入りましたよー!マルシュの旧王族方ー逃げてー!
◇◇◇
その後、皆で砂浜に行き、アポ無しでガンさんの昇格審査を決行した。レーガン島にはガンちゃん以上のランカーいないからねえ。
サカキさんを対戦相手に魔法無しで必死に持ちこたえた。サカキさんはガレアギルドのS、勝てなくともぼろぼろでも膝を付かなかっただけで十分。Cから一気にA級冒険者に昇格させた。この飛び級裁定、トランドルのプラチナであるセレフィオーネ・Gが責任取れますが何か?
「もうガンさんがゴールド兄さんだね」
「ああ……プラチナ姉さん、ありがとう!オレら面倒見てもらってばっかだな」
そんなことない。レーガン島は私が改めて運命に立ち向かうことを決意した大事な島だ。そして麗しのキラマ様と出会った島。東の四天、私のミユの神殿がある聖地。
「ガンさんがこの地を守ってくれている。それだけで十分うれしい。感謝しています」
「はい!」
何でも屋のスパイ、サカキさんがギルドの引き出しを漁ってゴールドプレート作ってくれた。私は丁寧にガンさんの名前と、外部の承認者としてトランドルギルドのマークと私のイニシャルを彫る……
「ごめん!二枚とも歪んだあ!」
私のチートや神々の加護、こういう手作業には全く発揮せず!ガックリ。
『セレ、相変わらず残念なほど不器用だな……』
「いいえ!いいえ!姉さんがくださるものなら何でも……宝です!世界でこの一組だけなのでしょう?」
ガンさんの首にかけると涙ぐんで笑った。
「……トランドルの主の手彫りのプレート。これでここトボスのギルド長も流れの冒険者にバカにされることなどなくなるだろう」
サカキさんが、にっこり笑った。
『ガンちゃんみたいな真っ直ぐな人が、報われる世界でなくっちゃね!ありがとセレちゃま』
私の思惑、バレてたか。
ジュリアさんの心づくしのおもてなしを受けた私たちは、翌日、ミユの神殿に向かった。
神殿の主と一緒だから岩戸も自動ドアのようにするりと開いた。
『ルー様、セレフィオーネ様、よくぞご無事で!!!』
涙目のレンザ君に迎えられる。掃除をしようと思ったら、ガンさん夫妻が常にピカピカに磨いてくれていて必要なかった。ここにたどり着くとはジュリアさんもやるなあ。
私はマジックルームから色とりどりの花を取り出し、捧げる。まあ捧げる相手は私のポケットにいるわけなんだけど。
ひとしきりお祈りした後、
「あれ、レンザ君大きくなったね」
『ミユ様に負けていられませんので!』
ミユを微笑ましく見つめるレンザ君。
「女神の庭でキラマ様にお会いしたよ」
『なんと……セレフィオーネ様、人の身であの地へ?……ああ、確かに主人の魔力だ……』
それを聞き、私はレンザ君に抱きついた。少しでもキラマ様を感じられるように。
『よかった……無事に女神の元に辿り着かれていて……セレフィオーネ様……ご無事でよかった……』
レンザ君の涙がとうとう私の肩に落ちる。
「心配かけてごめんね。これからもミユと私をよろしくね」
『レンザ、もうセレちゃまに危険ないから、安心していいよ!』
『心配で心配で修行に身が入らなかったのはミユ様ではありませんかっ!』
『ば、バラさないでよ!ばかあ!』
「仲良いね」
『いいコンビだ』
不在の間の務めが溜まっているミユたんは、レンザ君に首を咥えられて神殿奥に連れて行かれた。一旦お別れ。
私とルーとサカキさんで、不穏だという噂のマルシュに入りまーす!いざ!
三月九日、サンキューの日ですね。
お読みくださる全ての皆様に、感謝 (〃ω〃)




