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14 おばあさまも生まれ変わる

グランゼウスに椅子を勧められ、時系列に説明を受けた。


彼女、セレフィオーネは幼い頃より聡明で美しかったこと。

齢三つで、聖獣、ルー様にその非凡さを見出され、契約をしたこと。

ルー様自ら魔法を指導し、もはやセレフィオーネの魔法は第一級魔法師の上をいっていること。

ルー様の命により、将来巡礼の旅の随行が決まっており、そのために騎士学校に進まねばならないこと。

そのため魔力検査では敢えて「魔力なし」に持ち込んだこと。

ラルーザが魔法学院に入学し、セレフィオーネの武術の指導者がいないこと。

そもそもルー様の存在、契約の事実、セレフィオーネの才能、全て家族以外秘密にしなければならないこと。故に指導者を招き入れようがないこと。


「……何故、このような重大な秘匿を私に晒す」

「セレフィオーネは御母上様の孫です。家族です。私とは絶縁しようとも」

「…………」

「セレフィオーネの現在の武器は短剣。ラルーザに叩き込まれました。ラルーザがリルフィオーネに叩き込まれたように」

私がリルフィオーネに叩き込んだように……か……


「親バカですが、なかなかの腕前。ですが、トランドルの短剣さばきは正攻法ではない。騎士学校の入試では不利ではないかと」


聖獣様がセレフィオーネ……私の孫をお選びになった。私の孫は私の短剣技を身につけている。知らず知らず、身体中に喜びが満ち溢れる。今日会うまでは落胆していたというのに、私はなんと……浅はかで愚かで、俗な女なのだろうか。




トントントン


「入りなさい」

伯爵の返事で、顔見知りの執事長に手を引かれ、少女が部屋に入ってきた。


……息が止まるかと思った。暖かな春の夜闇に明星が輝いたような瞳。漆黒の黒髪は素朴に耳の下で三つ編みで下げられ、バランスの取れた体からは活き活きと生命力が溢れている。動きやすいようにだろうか?淑女としてはあるまじきことだが可愛い足首が見えており、そのくるぶしに恐れ多くも聖獣様の尻尾が巻きついている。聖獣と小さな乙女。聖獣からただならぬ波動が流れ、光の輪となり二人を包み込む。神話そのものの光景。


私は自然と聖獣様の前に歩み寄り、片足をつき、騎士としての従順の姿勢をとった。

「お初にお目にかかります。我はセレフィオーネの母の母。エルザ.トランドルと申します。この度はセレフィオーネが父アイザック.グランゼウスに呼ばれまかりこしました」


聖獣様は私を品定めするようにジッと見つめた。私もこの年まで生きてきた。当然汚いことも、過ちも犯してきた。中でも最大の過ちが……目の前で、目をまん丸にさせて、口を両手で覆い隠している、幼子への対応。穴があったら入りたいとはこのこと。私は更に頭を深く下げた。口の中がカラカラに乾く。


どれだけ時が経ったのだろうか。頭に何か柔らかなものが触れた。視線をあげると聖獣様がポンポンと私の頭を叩いた。そして軽やかに我が……孫の肩に飛び乗った。


私は……許されたの?


「お、お父様?」

「セレフィー、おばあさまだよ」

「あの、おばあさま、ルーがお座りくださいって」

そういうとセレフィオーネは私の手を取り、長椅子に連れていった。


子供の手とはこんなにも小さかったかしら。それにしても……硬い。何度も何度もマメを潰したと思われる、剣を握りこみつけた手のひら。肩に聖獣様を乗せたまま、私の隣に腰掛け、目をキラキラと輝かせて話し出す。


「あの、はじめまして!私、セレフィオーネですわ、おばあさま!」

「…………」

「私、マーサ以外の、女の人とお話しするの、初めてです!」

「…………」

「お兄様がおっしゃるの。女の子は弱いからお兄様が私を守るって」

「…………」

「だから、私はおばあさまを守ります。だって……おばあさま、とっても優しいいい匂い。何?ルー?おばあさま、ルーもこれからよろしくねって」


もう、耐えられない。


私はセレフィオーネを聖獣様ごとガバリと抱き込んだ。セレフィオーネの少し高い体温が私の四肢まで染み渡る。

私は……こんなにも孤独だったの?

味わってしまったこの温もり、もう手放せない。

顔をあげると麗しい聖獣様のどこまでも透明な水色の瞳が、私へ決意を促す。私は静かに頷いた。


「……はじめまして、セレフィオーネ。あなたの祖母ですよ。セレフィーが私を守るように、私も……全力で聖獣ルー様と、セレフィーを守りましょう。ルー様と、契約者セレフィオーネ様に我が忠誠、命、全て捧げます」


トランドル最後の一人である私エルザは、この歳でようやく主君に出会えた。


すっと視線を移すとグランゼウス伯爵が微笑んでいる。かつて国一番の参謀と呼ばれた私をこの男は調略した。

さすが……リルフィオーネの選んだ男。



◇◇◇



「セレフィーちゃん、その短剣の握り方はひとまず忘れなさい。片手剣はこう!肩の関節と筋肉を意識して!」


「はいぃいい!」


「ルー様、そうですわね、10体ばかりに分身してくださいませ。そう、等間隔に並んで、そう!セレフィーちゃん、ルー様の右肩、左胴、脚、タイミングをはかりながら、順に打ち込む!スピード落ちてる!」


「おばあさま、この剣、重い!」

「わざとです!はい次!私の脇腹に裏回しを叩き込んだあと、(つか)で利き手を打ち込み武具を落とさせるのです。大事なのはイメージ!身体が覚えるまで反復始め!」


「やー!!!」

「甘い!!!」


パシーン!


「ゴホっ………」


「せ、セレフィーちゃん!」




◇◇◇




「おばあさま、この櫛、おばあさまの御髪のと色違い?キラキラがいっぱい付いてるわ!、とっても綺麗!」

「ふふふ、セレフィーちゃんのために作らせたのよ。ここをこう捻ると針が出るの。いざという時これがあれば、バカな男から身を守れるわ。毒を仕込んでもいいの。そうね、マレ蜂の毒なら1滴で殺せるわ。お母様も独身のころは身につけていたのよ。これをこうして……ここの髪をうなじでねじって……はい、出来上がり!まあカワイイ!」

「うわあ!おばあさまともお母様ともお揃いなの?嬉しい!おばあさまありがとう!」

「リルフィー……そんなおっかない櫛付けてたのか……………」




いつか、私の主君となった二人が巡礼に赴くとき、供にしていただけるよう、私は再び鍛錬する。


あなた、リルフィオーネ、私は当分あなた達のそばには行かないわ。









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