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134 マリベルは魅了しました

私は後ろを振り返り、お父様を見上げた。


お父様は観客席の最前列に駆け寄り、真っ青な顔をしてアニキの名を叫んでいた。お父様の手には、私のあげたアニキの瑠璃のネックレスが握りしめられていて、日の光で反射している。


『魔除けが外れたか……』

ルーが顔をしかめる。


……シュナイダーの氷の攻撃がかすめた?アニキの防御は完璧だから、怪我など負っていないけど、きっとチェーンを傷つけて……ちぎれた。

そして、間の悪いことに、マリベルが目を覚まし、アニキを見つけた……ってとこだろうか……。

ははは、私が気休めに作ったネックレス。効果あったんだ。こんな形で知りたくなかった……


私は恐る恐る、お兄様に視線を戻した。


お兄様にしがみつきマリベルが立ち上がる。顔だけでなく見える素肌全てが黒ずんで、全身に先程までエリスさんを包んでいたような黒いモヤを纏っている。


「やっと、やっとラルーザ出てきた!遅いよお!今までどこにいたっていうの?」

「…………」

「ぜーんぶラルーザ、あなたの妹の悪役令嬢が悪いんだからね!ストーリーめちゃくちゃ!責任とってよ!早く、あの女潰して!」


『セレ!危ない!!!』

ルーが駆け寄り私を突き飛ばした!


ズンッ!

私のいた場所に、3メートルはある雷の槍が突き刺さり……バチバチと放電する。


ノーモーションで攻撃された。お兄様に……


『鑑定!』

ミユが叫んだ。


青く光る。


ラルーザ・グランゼウス(次期伯爵、S級冒険者、神童→賢者、ルーダリルフェナの加護、ミユ・ゲルドの加護)

状態 : 魅了

スキル : 短剣、手裏剣、片手剣、四魔法、新作魔法、司書、探検家、蒐集家


魅了、出てる……


『セレ!ボーッとするな!ラルーザに干渉しろ!!!!』


「お、お兄様!お兄様!お兄様!お兄様!おにいさまーーあ!!!」

私は精一杯声を張り上げる。お兄様の胸に届くように!


ミユがピカッと目を光らせ私の前に水の壁を張る!


ズンッ!


また雷の槍が落ちた。私目がけて。ジワジワと槍が水に沈む。




瞬時に時が巻き戻る。

あの日も魔法学院、この場だった。


ガードナー、セシル、カイン、ハリー、友人皆が唾を飛ばしながら私を指差し糾弾する。

そしてその後ろで怯えるマリベルを優しく抱いて……慰めて……ガラスのような緑の瞳で、私に向けて穢れた生き物のようにさげずむ視線を黙って送り続けたお兄様。


「一緒だ……」

「ようやく一緒だわー!」


図らずも、マリベルの弾んだ声と重なる。


セシルに踏みつけられ、気を失う寸前に、顔を上げると、蕩けるような微笑みをマリベルに注ぎ、私は潰された虫ケラのごとく、既にお兄様の頭から消えていて……


アニキはそういう人だ。自分の愛する対象以外にはとことん無関心。これまでアニキの腕の中で愛情一杯育てられたのは私だったけれど……マリベルにすげ変わった。一瞬で。


お兄様が、()()、私を、裏切る……


『セレ!!!見誤るな!!!ラルーザの意思ではない!!持ち直せ!!』


「ラルーザあ!目を覚ませー!」


お父様が顔を歪ませ右手を上に突き出し、渦巻く地獄の業火を呼び寄せ、兄に投げつけた!

「お父様!ダメーーーー!!!」


業火は周りの空気を巻き込みながら、お兄様にたどり着く!直撃する!

「お兄さまーーー!」

私のマントでマリベルを包み、彼女を守るお兄様に炎が届くその時……


シュン……


火が消失した。お父様を見ると、膝をつき、振り上げた手を下ろしていた。

お父様……


『セレ!』

ハッと視線を戻すと、アニキが雷の槍を投げた!私の頭上を通り過ぎた。狙いはお父様!

今のお兄様は……お父様のようにわざと外すわけがない!


「お父様!」


呆然と自分に向かってくる息子の槍を見つめるお父様……もう避けられない!あああ!!!


ブワッ!!!


既で(すんでで)大竜巻が槍にぶつかり弾かれる!ジークじい!


「このバカ婿!腑抜けるなーー!!!ラルーザあ、目を覚まさんかあ!エルザに滅多打ちにされるぞっ!」

ジークじいがお父様の背中をバシッと叩き喝を入れる!


お父様がハッと息を飲み、ジークじいに頭を下げる。そして、跳躍し一瞬で私の隣に来た。

「セレフィオーネ、すまない……」

私は首を横に振る。お父様に落ち度などどこにもない。


「私が責任もって、ラルーザをセレフィーの優しい兄に戻すからね」

そう言ったお父様の目に涙が光った。お父様が日頃「無」に抑え込んでいる覇気を全開にする!これがお父様の全力……これが魔のグランゼウス当主の威力。確かに魔王だ。力でお兄様を……ねじ伏せる気だ。


お父様がとてつもなく強いことはよくわかった。でもお父様はきっと、寸止めだ。私たちへの愛情で心も体も出来ているお父様が、お兄様に傷をつけることなどできるわけないもの。

でも、今のお兄様には関係ない。無情にカウンターされる。

そんなの、見ていられるわけがない。

私が……やはり私が……お兄様の憎しみを受けるのだ…………前世のように。


タンッ!

お父様をも上回る、馴染みの魔力を引き連れて、ギレンが私とお父様の間に着地した。そしてお父様の手首を軽く捻った。何かの術が霧散した。

「ギレン陛下……」


「……血縁で戦ってはならん」


私はハッと息を飲む。ギレンが言うからこそ重い言葉。

「私の出番だな。下がっていろ、お義父上?」

「陛下……」


実際お兄様に攻撃することなどできなかったお父様、情けなさそうに自分を笑い、ギレンに小さく頭を下げて数歩後ろに下がった。


私はギレンを見上げた。

私の……家族の戦いに、ギレンを巻き込んでいいの?

「セレ、心配するな。ラルーザを殺さず落として終わらせる」


私とお父様のために矢面に立つというギレン。全力よりも難しい、相手を生け捕りにする戦いをすると言うギレン。

間違ってる。やはり私が出るべきだ。


でも、私もお兄様を攻撃するなどできない。憎みあった兄妹じゃないもの!生まれたときからずっと愛されて愛してきたの。

汚れ仕事を、ギレンに頼む私。ギレンから申し出てくれてどこかホッとする私。

私は卑怯だ。身体がブルブルと、震える。歯がカチカチと鳴る。


ギレンがアニキから視線を外さず、私の腰を引き寄せる。

「あ……」


「ようやくセレに頼られた。来た甲斐があった」

私の頭に頰を乗せる。


「愛するもののために戦うなど、ロマンチックだな。初めてだ」

そのままそっと私の額にキスをする。


「別の世から跨ぐ憂い、今日ここで断つ」


私の瞳を覗きこみ、約束だとばかりに、一つ頷いた。







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