129 副将戦 ヒロインvs聖女
えーっと……会場大騒ぎ……エリス姐さんにダメって言うタイミング、逃した。完全に。
「ルー、どうしよう?」
『……エリスはお前の露払いがしたいんだ。その気持ち受け取ればいい。命が危ないと判断したら、オレたちが割って入ればいいんだ』
シュナイダーを見る。腕を組み、壁に寄りかかっている。傍観の構えだ。
「私がマリベルと戦ってこそ、『野ばキミ』の運命を打ち破ることになる気がするんだけど」
『言葉は悪いがエリスは間違いなくセレの手駒。セレが戦ったことに変わりないさ。エリスの好意だ。存分にマリベルの手の内を拝見しよう。エリスが敗れたらセレが出ればいいだけだ』
ルーがウインクした。
『セレちゃま、エリスちゃんは強いよ!神力がとっても上がってる!大丈夫!』
……ご好意に甘えて……マリベルを観察させてもらおう。情報は大事!
エリスさんの傍らに行き、手をギュッと握る。
「スピード!」
珍しく詠唱した私。ニックの希望で作った新作魔法スピードをエリスさんの体内に流す。短時間、私の声色に乗って動けるようになる。つまり音速。姐さんは騎士だもの。エリスさんの目が面白がっている。
「聖女様、邪魔とは思いますがマントは着たままでお願いいたします」
エリスさんは静かに頷いた。
「ふふふ、動きにくい装束はいつものこと。必ずや勝利を聖者セレフィオーネ様に!」
「悪役令嬢じゃなくて、あんたが私と戦うっていうの!いいわよ、やってやろうじゃん!そもそも聖女って何?そんな役があるならそれは私のはずでしょ?聖女に対するモブの反応こそが、本当はヒロインに向けるもののはずだわ!」
マリベルは腰元から球状の先頭の中がキラキラと輝く金のスティックを取り出した。
「私はジュドールの平和のために戦う!行くわよ!」
審判がバタバタと配置に着く。
ピーッ!
「は、始め!」
マリベルがスティックを両手で握り空に向けた。
「天空の女神よ!我が元へ……」
エリスさんが黒マントをなびかせ、瞬足で切り込む!右腕で剣をマリベルの腹に振り抜く!
ドンッ!
もちろん峰打ちだけど、キレーに入った。
そりゃそうだよ。胴体ガラ空きだもん。
マリベルが一気に吹っ飛び、ダンッと壁にぶちあたる。
エリスさんは、右手で剣を構え、体勢を低くしたまま、防御もとらなかったマリベルの行動を訝しみ、追い討ちをかけず様子を見ている。
「うっ、うっ……痛い……痛いよう!信じらんない……私を……この私を攻撃するなんて……」
エリスさんを忌々しそうに睨む!そしてブツブツと何か呟いた。
そしてスクッと立ち上がり、体に付いた土ぼこりをパンパンとはたく。
『回復したな』
……全くダメージを残してない。治癒魔法威力抜群だ。回復する暇もないほど連打で倒すか?一撃で失神させるか?勝機はそんなとこか?
「もう……許さない。絶対あんた、許さないんだからーーーーー!」
絶叫したあと、キッとシュナイダーを見た。
「タールナイト、出して!」
へ?
「……マリベル、君、タールナイトとの連携なんて確認したことないじゃないか?」
「いいから早く出しなさいよ!聖獣はみーんな私の味方って決まってるんだから!!!」
『タールの真名をこのような衆人の前で叫ぶだと?』
天空のアスの声に苛立ちが混ざる。
「……いいよ。タールナイト行ってあげて?」
一拍後、マリベルの右隣にアイスダストがキラキラと輝き……ギュッと凝縮し、形を成す。
ドンッ!
タール様が改めて、降臨された。
「北の……四天様……」
お兄様の呟きが耳に入る。お兄様が長い間探し求めていた存在。
お父様はじめ、数少ない見える人々がどよめく。
「タールナイト!あの女を叩き潰すわよ!」
マリベルがアゴをあげてエリスさんを睨みつける。
ブワッと、タール様から恐ろしい圧が放たれる!
エリスさんの足元がよろける。信仰心の篤いエリスさんは剣を下ろし、タール様を呆然と見つめている。
……タール様が出た以上、勝算はない。私はエリスさんを下げるべく一歩前に踏み出そうとした。
『……セレちゃま、行かせて』
ミユたんが私の胸からはい出す。ミユたんの声は小さい。でも、静かに怒ってるのがわかる。魔力の花の香が強くなった。
お互いにマリベルとタール様を睨みつけたまま、
「……タール様、強いよ?私を半殺しにしたほどに」
『知ってる。見てた』
「タール様と戦えば……どうなるか、わかってる?」
『わかってる』
「禁忌だよ?」
『私はここでエリスちゃんに手を貸さない、ケチな女じゃないよ?』
……流石ミユたん!
そこまで決意が固いのに、私がとやかく言えるわけがない。
ミユたんは四天なのだから。
「こっそりサポートにする?」
『ド派手に行くに決まってるじゃん!!!』
女優だもんね。
『はあ……もう良い。〈使役〉のタールに〈契約〉の絆を見せつけてこい!』
ルーがミユの幻術を解いた!
ミユが久々に勢いよく水しぶきをあげながら成獣体に変化する。前見た時よりも一回り大きくなり、紺碧の艶やかな身体が眩く輝く。そしてエリスさんの左脇に降りたった。
「ありえない……北と……東の聖獣……二柱が西のこの地に……」
スケサンとカクサンが跪き、両手を組み祈る。
一帯が清浄な空気で包まれる。見えるものはあまりの光景に怯え、見えざるものもビリビリとした空気を肌で感じ、腕をさする。
ミユがエリスさんの体を優しく支え、頭に長い胴体を擦り付ける。
エリスさんはハッと息を飲み、うっすら涙ぐむ。
「ああ……綺麗だね」
シュナイダーが目を輝かせ、純粋に感想を述べる。
『蒼流?……キラマ……デハナイ?』
タール様が後輩を見つめる。
『オッサン、うちのかわいい子たちをいじめてくれて、ホントに許さない!キラマ様も激オコだったんだからね!不甲斐ないって!』
『???』
「ねえ、タール様って男なの?」
基本的に聖獣に雌雄はない。ミユのようにこの地で生を受けて、後に聖獣になった場合は例外。
『性別なぞ知らん。でももし女だったら、オッサン呼び、ただでは済まんぞ?ミユ……』
「龍?龍なの?マジ?さすがファンタジー!さあ、さあ私のとこにおいで!私がマリベルだよ!やっと亀以外の聖獣来た!亀、どーしても地味なんだよねえ」
マリベルがキラキラと目を輝かせてミユに手を差し出す。幻術なければ当然見えるか……
『笑止!我が、ドス黒い呪いにまみれたお前などの手を取ると思うたか!』
クワッとミユが殺気を放つ!
「きゃあ!」
マリベルが弾き飛ばされる。タール様がその後ろに移動し、マリベルの壁への激突を防ぐ。
「ど、どうしてー!聖獣はみんな私の味方なんだよー!わかった!操られてるのね!私が、私がすぐに助けてあげるからね!」
「かみ合わないね」
『我等と契約を交わしていない以上、言葉は通じん』
『やかましいわ!』
女王ミユが水鉄砲を放つ!
マリベルと、タール様はびしょ濡れになった。
『さあ、改めてショーの開幕よ!』
新成人の皆様、おめでとうございます!
次の更新は週末です。




