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128 聖女のターンでした

ルーはトンっと、私の肩からジャンプすると、ギルさんの肩に降り、一瞬幻術を解く。ギルさんの額に右前脚をあてた。

『我が愛し子への……これまでの厚情への礼だ。励め』


聖獣の恩寵を受け、目を瞬かせるギルさん。深く深く頭を垂れた。

王家の血筋でS級、見えないはずがない。コダック先生と同じく気づかないふりをしてくれていたのだ。

私は本当に、スゴイ大人達にそっと守られていたのだ。

ルーがピョンと私の頭に戻る。


ギルさん……もといギルバート王はアルマパパから前王を引き取り、再び抱いて大股で歩き去った。

ガードナーとセシルもその後を駆けていく。

宰相を含む役人もパラパラと立ち上がってスタジアムを後にする。

賢明な判断だ。もう王はギルさんなのだ。ここでシュナイダーと私の戦いを見ててもしょうがない。


一介の王子と隣国となったトランドルの主の戦いを見るより先にすべきことなどいくらでもあるだろう。存在を暗に隠していた王兄の即位。ジュドールの混乱は避けられないのだから。


「ちょ、ちょっとちょっと、あんなおじさんが王ってどゆこと?シュナイダーかガードナーが王になるんじゃないの?私、どっちを選んでも王妃様になれないってこと?」


マリベルの言い方はカンに触るけど、ポイントはあってる。

私はシュナイダーに向かって振り向いた。


「あなたの掲げた王位をかけた戦いじゃなくなったけど、どうしますか?」

さっき言ったように、私の運命をへし折るにはシュナイダーとマリベルをここで叩きのめすのがベストだ。


でも……

結局のところ、王を誘拐したのは、治療したかっただけなのかもしれない。

前世、彼はずっとままならない身体でベッドにいたわけで……


「……優しいね、セレフィオーネは。そんなセレのためにトランドルに戦いを挑んだことへの報復を受けてあげるよ?」

「それは私にとっては十分な戦闘理由です。トランドルに攻撃したことへの報いは受けてもらう。でも……引こうとか交渉しようとか思わないの?」

「君は引けるの?君と前領主を殺そうとした私を」

「……それが領民のためならば」


「また私は君の大事な人を襲うかもしれないよ?」

「…………」

「君は、私の味方ではない」




正直なところ頭を下げてくれたら、何か他の戦闘以外の懲らしめる手段を考えられないか?とも思った。甘い私に諭すように殿下が言う。

そして私の仲間も今更シュナイダーをコテンパンにする以外、納得する方法などないのだ。


「さあ、続けようよ、試合」

「…………」

「……改めて教えて?何を賭ける?セレフィオーネ?」


「……先程も言いましたが私が勝てば一切の武力の放棄とトランドルと私と私の仲間への一切の不可侵を。私には嘘をつかないという殿下の言葉、今一度信じさせてくださいませ」


シュナイダーがニコリと笑い、口を開きかけた、その時、


「違うわ!賭けるのは正義よ!」

マリベルが大声で横はいりした。


「正義!私は争いのない国を作るためにここにいるの!」


……そういやさっきからシュナイダーと正義正義言ってたっけ。



私とシュナイダーのトップ会談を邪魔したマリベルをササラ姉さんが頭を振って睨みつける。

「何度も我が領主が言いましたが、争いをふっかけているのはあなた方です。本当にそう思われるのであれば、あなた方が過ちを認め、繰り返さぬと誓約すればいいのでは?そうすれば私どもも、少し考えてみましょう……少しですが」


「違う!悪役令嬢が!そうトランドルが悪なの!あなたたちをやっつけることが正義!そうしないとこの世界に平和は来ない!」


「トランドルの何が悪なのですか?どこに非があったのですか?わかりやすく、具体的に教えてください」

ササラさんが無表情で追い詰める。


「だ、だって、……戦いさえ始まればトランドルがいかに悪いやつか、私がいかに正義か証明されるはずだったもの!」

「あなたも、あなたのおっしゃってることが支離滅裂だとわかっているのでは?この場にいるもの全て、あなたが起こした内戦で、大事なものを亡くしたり、傷つけられたりしています。適当なことをおっしゃると、暴動が起きますよ?」

「わ、私はヒロインなのよ!」





「ねえ?ヒロインって何?物知らぬ私に教えてくださる?」


凛とした声がスッと場内に通る。おばあさまにも通じる人を従わせる声。エリスさんがハラリとフードを落とす。漆黒の髪をポニーテールにした姿は相変わらず凛々しい。観客席に戻ってなかったんだ。


聖女の信者たちが目を輝かせる。


「あなた、誰?」

「小娘、聖女様がわからんのか?一体学院はどのような教育をしているのだ?」

エリス姐さんから常に離れないスケサンがいかにも不届き者を見たとばかりに眉をひそめる。


「聖女?何それ?『野ばキミ』にそんなのいなかったわ」

「……聖女とは、神の代弁者。一生を神に捧げしものですわ。して、ヒロインとは?」


「ヒロインは……この世界の主人公。いいことして、みんなに褒められて、ハッピーエンドになる主役よ!」


「皆に褒められるいいこと、とは?」

「戦争をやめさせて、この国に平和をもたらすことよ?」

「その手段は?」

「え?もちろん話し合いよ?」

「話し合いは既に決裂しているのです。たくさんの血が流れているのです。家族が殺され怒りの収まらない人々をあなたはどう話し合いでまとめようと考えてらっしゃるの?」

「えっと?お金?」

「最善の一つですね。ではあなたはお金持ちなのですか?」

「わ、私は学生よ。お金なんてあるワケない!」

「では誰が出すと?」

「もちろんシュナイダー殿下よ!」

「失礼ですが、シュナイダー殿下は個人の資産をそうお持ちではないと思いますわ」

「そんなワケないじゃん!王子様なんだよ!」

「王族がお金を持っているわけではない。お金は国のもの。そしてそのお金は民からの血税。シュナイダー殿下やましてあなたが自由にできるものではない」


「いいことするためにはしょうがないじゃない!」

「人は自分の認めたものの話しか聞かない。何もなし得ていないあなたの話など、誰が聞く耳をもつでしょう」


「だーかーらーヒロインだって言ってるでしょ!」

「ヒロインはわかりかねますが、主人公ならば私、わかります。学生の時分いろいろと武勇伝は読みましたもの。物語の主人公達は、それはそれは自分を必死に鍛え、自分の力で勝利を掴み、富を得ました。あなたのように人のものをアテにする主人公なんて、いなかったけれど……」


エリスさんは頰に手をやり首を傾げる。


「やはり主人公とヒロインは違うのかしら。では次のハッピーエンドを教えてくださる?」


「王子とか……他の攻略対象と結婚して、幸せになるの!」

「どうやったら幸せになるのですか?」

「花、花いっぱいの教会で、サイコーのドレスを着て、キラキラのティアラをして、世界中の人々に祝福されて結婚するの!」


「そして?」

「そしてって……」

「結婚式などほんの一時(いっとき)の場面。そのあとはどうやって幸せになるのです?」

「それは……」

「仮に結婚が幸せだとするならば、その状態を維持するためには双方の努力が不可欠。であるのに、相手は誰でも良いのですか?真に愛する人との結婚を神殿としてはお薦めしますが。しかしその言いようでは……」


ここは嘘でもシュナイダーだと言うべきだったんじゃない?マリベル……


「人任せの幸せほど、足元のぐらついたものはないと思うけれど?」


「うるさーい!」

マリベルの周りの空気がミシリと音をたてる。

エリス姐さんのコメカミがピクリと動いた。


「うるさいのはあなたです。あなたは学業もまだ修めていない、働いたこともない立場で国政に口を挟み、シュナイダー殿下と共謀して軍を動かした。平和の調停者たる神殿として見過ごすことはできない。責任の一部はあなたにのしかかる。これまでの賠償とあなたの今後のシナリオを完遂する覚悟があってこそ戦争をやめさせる、平和にすると発言したのでしょうね?」


「うるさいってば!!!」


ブワリと攻撃的な風がマリベルの身体から放たれた。


「エリスさん!」

「「エリス!!!」」

「「聖女様!!!」」


私とコダック先生とササラさんがエリスさんの前に出る。エリスさんの守備を二人に任せ、私はこちらも同質の風を繰り出して相殺する。


……まずまずの威力だ。


「みんなみんなみんな、私の言う通りにやってればいいのよー!」

マリベルから刃のような風がザンザン飛んでくる。私の横に先生も来て、先生も大剣でバッサバッサと風を殺す。


風の最上級魔法。マリベルは結構な魔力を使ったはずだけど、全く疲れた様子はない。


「セレフィーありがとう」

エリスさんがにっこり笑ってササラさんの後ろから出てきた。


「前も言いましたが()()セレフィオーネに刃を向けた罪、神殿は許しません」

エリスさんが口だけ笑った。怖……。


「直々に、お仕置きして差し上げましょう」



エリスさんが……腰元から長剣を抜いた。細身のそれは白銀に細かな彫りが浮かびあがり神々しい。神殿の聖剣?魔力を発してる。


姐さんの卒業以来、久々にサムライを見た。


「聖女が……戦う……」

「神が……お怒りだ……」

「長女キター!」



ドッと歓声が沸き起こった!!!











次の更新は月曜です。


この連休明け感想欄を一旦閉じます。現状のシリアスモードを迷わず書きぬくためです。ほのぼの路線に戻りましたらまた公開いたします。

よろしくお願いします m(_ _)m

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