126 中堅戦 おっさんvsじーさん
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします m(_ _)m
「ジーク、ギックリ腰もう治ったのかよ?あんたはただ勝つんじゃダメなんだぜ?圧勝しなけりゃうちのギルドの名折れになる」
コダック先生が眉間にシワを寄せて尋ねる。
「やかましいわっ!えーい、邪魔じゃ!」
ジークじいが私の特製マントを脱ぎ捨て、ズンズン中央に歩いていく。おいおいと思ったけど、閣下相手なら強力な魔法をあてられるわけでもないし、大丈夫かな?
「風神……」
閣下が小さく呟く。姿が晒されてようやく自分の対戦相手がわかったようだ。
「ギルド長ー!閣下は魔法使えるからねー」
「ふん、剣と魔法両刀使いなど、冒険者じゃザラじゃ」
まあそうだわな。ジークじいも竜巻背負ってるしねー既に。ってわわわ!
フィールドの中央に向かうジークじいの腰にぶら下がっているのは……クサリ鎌?あれで戦うの?ギルドで丸腰の姿しか見たことなかったから……強烈!
「先生、あのクサリ、どのくらい伸びるの?」
「知らん。オレだって『風神』の戦い見るのなんて初めてだ」
「えー!そんなおじいちゃんで大丈夫なの?将軍相手だから勝負捨てたってこと?ふーん作戦なわけね?まあそれもアリだよね。OK認めまーす」
その上からの口ぶり、納得いかない。
閣下も静かに中央に歩み寄る。
「ガインツ将軍のバディのジーク殿でしたか……このような機会に恵まれ光栄です」
「そのガインツの嫁との約束を破り、孫を殺そうとしておきながら、その口はそんなこと抜かすのか?大したもんだ」
「……」
ビクビクと怯えながら審判が双方の間に立った。
「準備は……万全のようですねっ。で、では始めます!ピーッ」
ジークじいの覇気がドンッ音を立てて上がる。肌がビリっと痺れる。同時にジークじいの背中に直径三メートルは超える竜巻が発生し、轟音を立てる。
「若い頃あの竜巻にガインツ様が雷を流して、300人もの人殺し盗賊どもを瞬殺したらしいぜ」
先生解説ありがとう。
『風魔法をあのように渦で回すのは理屈ではできん。偶然の産物だろうな』
『ギレンは理屈でやってのけたぞ?』
『あれは天才だろう?比較対象にはならん』
ついギレンのプレートを握りしめる。ギレンの風が励ますようにその手を包む。
ジークじいは腰からクサリ鎌を抜き、右手でブンブンとクサリを回し始めた。相当重そうだが平然と手首だけで回す。クサリの端はジークじいの服の中で見えない。
閣下は片手剣を抜き、目の前で水平に掲げると左手で魔力を纏わせた。
キイィーン!
刀身が水色に輝く。水の魔法剣。
あの時よりも、数段魔力が上がってる……誰かさんに引き上げられたってとこ?
ザンッ!とジークがクサリ鎌を放つ!クルクルと回りながら一直線に閣下の元に届くが当然一撃で閣下の剣に跳ね返される。
ジークは左手でクサリをグイッと引き、弾かれた反動を利用して鎌を上空に飛ばすと、鎌の周りに小さな竜巻を飛ばし、鎌を渦の中に引き入れた。鎌が渦の中、恐ろしいスピードで回転する。あの中は……ミキサーだ。切り刻まれる!
上空で旋回する鎌は読めないタイミングで閣下に襲いかかる。剣で弾き、低い跳躍を繰り返しかわすも遠距離で戦えるジークに分があるのは明らか。ジークは息切れすることもなく鎌と竜巻を自分の手足のように操る。
こんなテク見たことないけれど、これも魔法剣士だよね?閣下。とっくに冒険者を引退したじーちゃんのほうが……発想が柔軟で自由。
荒くれ者オンリーのトランドルギルドをまとめ上げてんだもんね。強くないはずがない。ジークじいマジカッコいい!今更ながらうちのギルドでよかった。
とうとう壁際に閣下は追い込まれた。ジークじいは距離を取ったまま右手で鎖を操り、左手の鎖の端を緩めた。
一気に鎌が頭上から閣下に襲いかかる!
すると閣下はなんと竜巻の中心、鎌に向かって突っ込んだ。そして皮一枚切られつつも鎌をかわし、鎌に続く鎖を左手にグルグルと巻きつけグイと引く。そうして鎌を無効にすると、右手に持った水の魔法剣をブンっと素振りした!
水の飛沫がジークじい目掛けて真っ直ぐ飛ぶ。大量のその水飛沫は徐々に凍り、氷の散弾となった。
足りない魔力を長らく培ってきた武力……力一杯振り抜いたパワーをエネルギーに変えて魔力に乗せたのか?そして氷魔法……シュナイダーかタール様の指導に違いない。
猛スピードで無数の氷弾がジークを襲う!
ジークが片眉をグイッと上げた!背中の竜巻がブワリと前に出て、ジークの身体を包み込み、全ての氷を弾き飛ばし、ジークはクワッと両目を見開きカラの右手を振り下ろした。ああ、手加減止めたんだ。
ジークの身体を覆っていた大竜巻がフィールドの砂やチリを巻き上げながらどんどん威力を増して閣下に突進した。ジークは左手をグイッと引き、鎖を巻きつけてしまった閣下を逃がさない。
当たる!と思ったとき……ジークじいの竜巻とほぼ同じ威力の大風が横から発生し、竜巻に衝突した。
バアーーン!と空気を震わせ、竜巻は軌道を逸らし、無人の壁にぶつかる!
ドゴーン!!!…………
壁がえぐれ、バラバラと残骸が地面に落ちる。
間一髪で救われた閣下が片膝をついた。
「ごめんね?邪魔しちゃって」
シュナイダーが肩をすくめる。
「そちらの御老人の勝ちでいいから、さ」
シュナイダーも閣下に……情が湧いたってこと?
これまでの経緯や人脈を無視して、自分についてくれている、唯一の大人に。
でも、
「……閣下は降参すべきだったのでは?あなたはその上で割って入るべきだった。今回の対戦もルールもそっち主導で決めたくせに試合中に横槍を入れるって……どうなのかしら?あなたが小狡くなったことはよくわかったけれど、私相手にもそういう態度なの?ガッカリだわ」
「言われちゃったね。この世で一番信頼していると言いつつ、君との約束すら守らないのかって言いたいんだ。セレフィオーネ、どうすれば許してくれる?」
「……まず、正当な権利として、これで五戦中、三勝したわ。私達の勝ちよ。陛下を返して」
「……そして?」
「私達が勝ち、二度とトランドルに手出ししないと誓った上で、あなたと、そこのお嬢さんと戦わせてもらうわ」
「なるほど……運命に立ち向かうことにしたんだ。かわいいセレフィオーネは」
「あなたは運命に立ち向かうんじゃなくて、捻じ曲げたみたいね」
「どうかな?結果を見なければわからないよね」
「ちょっとおー!おじいちゃんあんな強いって聞いてないんだけどー!」
マリベルがプンプンとほっぺたを膨らませた。
「そうだね。マリベル。でも君の主催のこの大会は3敗しちゃったから僕らの負け。潔く認めて陛下を返そう。そのほうが君のファン?の好感度?が上がると思うよ?」
「え、負けを認めたほうが好感度上がるの?まあ確かにここで文句言っても往生際悪く見えるだけかあ。王様別にどうでもいいし……でも、正義が負けるっておかしいでしょ?」
「だからマリベルと私と改めて正義の戦いしたいって!」
「えー!私のためにみんなが戦うのが嬉しいのに」
「でもそろそろ君の強さを見せて平伏させる頃合だよ。民も兵も疲弊している。このタイミングが君の出番だ」
「そ、そっかあ!」
シュナイダーがマリベルの自尊心をくすぐりつつ丸め込む。シュナイダーの手法が美味いのかマリベルが何にも考えてないのか?
……どっちでもいいけど。




