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123 先鋒戦 カイン・ハリー vs ニック・アルマ 、次鋒戦……

「まさか、スタジアムで本当に試合形式で戦わせるなんて……シュナイダー殿下の出ない戦いに勝算があると思ってるのかしら?」


ササラさんが未知の生物を見る目でマリベルを眺める。


「騎士学校と、トランドルの実力を全くわかってないんです。昔、捕まったくせに、わかろうともしない。先生、ニックとアルマちゃん出していい?学生は戦力外っていうギルドの規定に反してしまうけれど」


「お嬢、乗るのかよ?」

「しょうがないじゃん。王の救出は、義のトランドルとして逃げられない」

とりあえず先を読んで、マリベルの手下二人の金縛りを解く。


「やむを得んか。幹部会議で事後承諾を取ろう。ふーん……セシルはあの場を離れられないだろうし、エベレストやシルク、ぺネッツは腕はいいが実践不足。ニックとアルマが妥当だな。ニック!アルマ!喜べ!まさかの出番だ!」


観客席の東軍の皆は私たちの会話を一言も聞き漏らすまいという意識でスタンバイしている。

最前列で隣あって座っていた二人が足元のもふもふ達をひと撫でし、サッとジャンプして、私の目の前に跪く。


私はちょっと恥ずかしいけれど、領主として語りかける。

「ニック、アルマ、これは負けることは許されない戦い。嬉しいことに我がトランドルは層が厚い。無理強いするつもりはありません。トランドルのために戦ってくれますか?」


「親友であるセレフィオーネのために、オレは行くぜ!」

ニックはニヤリと笑い、右腕で力こぶを作ってみせた。


「大好きな、私に居場所を作ってくれた、トランドルとセレフィオーネのために、勝つよ!私!」

アルマちゃんのこぶしの中から、カリッと音がする。私達のガラス玉を握りしめている。


私のためって……ったく、もう!


「先鋒は二人でいく…………相手は魔法士、動きづらいと思うけど、マントは脱がないで。あの人達常識通じないから、試合形式とかいいながらも致命傷与えてくるかも」


「まあ、悪いやつは殺しても構わないとか言ってる、とんでもないガキだからな。あのガキにとって俺たちは悪なんだろうし?二人とも、油断するな!はあ、お嬢がマリベルは危険危険って言ってたが、そっちの危険だったのかよ」


「了解!」

「了解です!」


先生が私達三人プラスササラさんと円陣を組ませる。


ニックが大声で、

「エイエイオー!」

「「「「おー!!!」」」」





「では、審判は、魔法学院の先生方にお願いします!先生、学院生がカワイイからって贔屓しちゃダメだぞっ!」

マリベルの紹介で、ビクビクと国定一級魔法師が三人入ってきた。私は瞬時に威圧をかける。

ズン!


「うおっ!」


「公正公明にお願いしますわね?」


三人が私に向かってコクコクコクと頷いたのを確認して、圧を取り除く。


学院学生二人の目に見えた未熟さが怖い。暴走に備えて、私はいつでも二人の前に飛び出せるように準備する。


「セレフィオーネは心配症だねえ」

シュナイダーが困った子だみたいな苦笑いをしてみせる。こいつ、絶対後でしばく!



マリベルがスタジアムのど真ん中に立つ。

「では、ジュドールの平和を願う、マリベルの最初の仲間はー!魔法学院四年の天才、カイン!そして前衛後衛バランス良くこなす、癒しのショタ、ハリー!」


パラパラ、パラパラと戸惑いがちな拍手が起こり、すぐ消える。


「アルマちゃん、私も得意のアルマちゃんを紹介するクダリやっていい?」

「マイスイートハート?絶対やめて!」

「太陽背負ったなんちゃらもやめろよセレフィー!騎士団四姉妹朗読するぞ!」


「はい、それでは悪の帝国トランドルの皆様、お名前は?」


悪の帝国?私はダースベー◯ーか⁉︎


「トランドルAです」

「トランドルBだ」


「ちょっとお、もう!盛り上がりに欠けるなあ。そんなんじゃわかんないでしょ?そもそも本当に騎士学校の学生なのお?」


「魔法学院に入っていないこと自体、騎士学校か、それ以下ってことでいいんじゃないの?」

アルマちゃんが軽口を叩く。


「そ、そっかあ、なんかゴメンね、魔力ないこと晒すみたいなことしちゃって!じゃあ、A、Bさん、頑張ってねえ!カイン!ハリー!ファイトだよっ!」

マリベルが両手でバイバイをしながら場外に出る。そんなマリベルに下僕二人が目尻を下げて返答する。

「マリベル、勝利を君に捧げるよ!」

「マリベルー!勝ったらデートの約束忘れないでねー!」

「お前らー!アルマと戦えるなんて、光栄に思えー!」

……最後はセシルか?


『セレちゃま大変、カワイイウチの子二人の戦意が一気に萎えてるよ!』

『これは……作戦なのか?だとしたら侮れんな』

「いや、ルー、多分違うから」


審判が配置につく。

「ル、ルールは時間無制限。戦闘不能状態で終了。もちろん死亡させてはならない。戦闘不能とは治癒魔法で完治できるレベルですよ!で、では始め!」


ピーッ!主審が笛を吹いた。



魔法士二人が片手を仲良く並んで突き出し、声高らかに詠唱する。


しかし笛と同時にアルマちゃんはニックの背中と肩を踏み台にして空高く舞い上がる。そしてカインとハリーの上空後方から細身の片手剣を両手で振りかぶり、首筋にバシッ、バシッとリズム良く峰打ちする。

「水よ、うな……グハッ!」

「ケリブ高原にそよぐか……ゲホッ!」


アルマちゃんは二人の肩を蹴り、再び上空へ。切られ蹴られて二人が前につんのめって倒れるその目の前に、ニックは走り込み、右ストレートを顔面に順番に叩き込む。バキッ!バキッ!


倒れこむ反動を使ったカウンター状態で、威力は倍増し、二人とも10mほど吹っ飛んで……落ちた。

確認するまでもない。


アルマちゃんは空中で一回転してスタート地点に華麗に舞い降りる。ニックは首をコキッと鳴らしてアルマちゃんの元にスタスタ戻った。


『ニック、初動のスピードが上がったな』

「地味な鍛錬、続けてるからねえ」

『アルマちゃん、戦うときも可愛いねっ!』

「うちのアルマたん、何をやらせても品があるんざます」


「「しょ、勝者!トランドル!」



ブーブーブーブー!


たった数秒というあまりに呆気ない幕切れに場内ブーイングの嵐。



『クソ長い詠唱してるからだ』

「10年経つのに詠唱問題、改善されてなかったねえ」


ニックとアルマちゃんは息切れもせず、東軍に戻り、私と先生とササラさんにハイタッチした。ニックは先日来、特訓している体力向上系の魔法とか、披露する暇もなかったけれど、まあ騎士だからいいか。


「ひょっとして、魔法の発動待つのがルールだったのかな?」

アルマちゃんが可愛く首を傾げる。


「待っても一緒だ。おまえらは強い。自慢のオレの生徒だ」

コダック先生が二人の頭をガシガシと撫で回す。二人は恥ずかしそうに笑って、助走をつけてジャンプし、客席に戻った。皆にやんややんや、言われて……あ、胴上げ始まった。わっしょい!



「きゃあああ!」

倒れた二人に、マリベルがいそいそと駆け寄る。


「なんで……なんでこんな残忍なことができるの!私達はまだ学生でしょう?」

マリベルの大げさなピンクの瞳から大げさな涙が溢れる。


「……お言葉を返すようだけど、さっきの詠唱、『水よ、唸り天界から濠流となりて流れ落ちよ!』だったのなら、水魔法の最上級。スタジアムの人間全て流されたのでは?うちのBさんが詠唱途中でアゴ砕いたことを褒めてほしいくらいです」


「ああん、もうっ!ああ言えばこう言う!使えない!じゃあ、次よ!次は学校の先生対決ー!」


「「「『『はあ⁉︎』』」」」


私とササラさんとルーとギャラリーがコダック先生をお気の毒です、という意味を込めて一斉に見つめる。


「スチュアート先生、一級魔法師の得意の火魔法でカインとハリーの仇を打ってください!」

マリベルが今の試合で主審を務めた若い魔法師に駆け寄り、ブンブンと握手する。


顔を覗き込むと…………おや、結構男前。こいつも攻略対象だったのかな?いわゆるイケメン先生枠?


ブワリっと、私の隣から空気圧が来た。オットットとササラさんと二人、よろける。

はい、うちの先生の背中に背負ったどデカイ両手剣の素振りでした!

うん、凶悪!うん、最恐枠!

重量感のある両手剣を右手で肩に担ぎ、のっしのっしと中央に歩み寄った。


「先生ステキ……」


おう、ササラ姉さん、こっち系統なんだ!良きかな良きかな!


「ト、トランドルの赤鬼!」

スチュアート先生?は少しは世間に明るいようだ。


マリベルが線審だった魔法師を引っ張ってきて、コートのど真ん中に立たせる。もう一人審判を外から補充する。案外小回りきくね。


「わかった、わかったから!ピーッ!試合開始!」


コダック先生が両手剣を構え、普段抑えている威圧を一気に吐き出す。


しかし、

「負けだ!棄権だ!トランドルのゴールドだぞ⁉︎ジャンクベアーにラリアットする赤鬼に勝てるわけないだろう⁉︎」


スチュアート先生?は逆ギレし、スタジアム全体を睨みつけたあと、スタコラサッサと走り去った。


「しょ、勝者、トランドルゴールド、コダック!」


「「えーっ!」」


初めて私とマリベルの声が重なった。







明日はクリスマス番外編です。

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