121 ヒロインと対峙しました
お久しぶりです。よろしくお願いします。
「トランドル領主よ!あなたには赤き血が流れてないの!この国を愛していないの?この美しいジュドールという王国をこれだけ傷だらけにして、あなたは何とも思わないの?」
いきなり、西側のフィールドに天から光が差し、そのスポットライトの下でピンクの髪をフサフサさせたマリベルが手を組み、神に祈るような格好で目をキラキラと輝かせていた。
「マリベル、そんな危ないところに立ってはダメだ!」
「マリベル、なんてキミは清らかなんだ……」
傍らの男子生徒二人がマリベルを盛り立てる。
「二人とも、止めないで!争いのない世界を作ることが……私の使命!」
鈴の鳴るような可愛らしい声。
いよいよ……とうとう……マリベル、あなたに正面から会えた。
3歳のあの運命の日以来、私の心に影を落とし続けた人。
関わらないように、関わらないようにと頑張ってきたのに、節目節目で私と、私の大事な人を苦しめてくれた人。
私の生死を握っている、ヒロイン。
まん丸のピンクの瞳をふるふると揺らし、小さくツンと尖った鼻、花びらのようなかわいい唇をギュッと噛みしめる……愛らしい顔立ち。ピンクのフワフワな髪の毛はキラキラ光るカチューシャで押さえられただけで、柔らかそうに、背中に下されている。地味な色彩の私とはことごとく真逆で、改めてヒロインすげえな!と感心した。
両脇に立つ、学院のローブを着た勘違い男達……こいつらが残りの攻略対象者の宰相息子カインと年下ワンコハリーか。マリベルの側仕え、ご苦労様です。
私はつと、観客席の宰相を見上げた。宰相は口を開けて唖然としている。息子がここまで色ボケしてたこと知らなかったのかな?あなたもなかなかご愁傷様です。
マリベル、特注のピンクの制服がマジでイタい。でもそんなことの許されること自体、この世界はやはりマリベルのものだという一面があるのだ思うと、胸が苦しい。
三人まとめて……鑑定!
赤く光る!
マリベル(【野ばらのキミに永遠の愛を】主人公、魔法学院学生)
状態:返呪
スキル:全魔法、転生者、オートパイロット(返呪により効果弱)、神に愛されし者
青く光る!
カイン・デュエル(侯爵令息 魔法学院学生)
状態 : 魅了
スキル:火魔法、風魔法
青く光る!
ハリー・ウエンツ(子爵令息 魔法学院学生)
状態:魅了
スキル:水魔法、調剤
オートパイロット……自動操縦?
意図せずに、マリベルのいいように操ることができるってこと?対象者が【野ばキミ】仲間だけと祈りたい。
赤く光るってことは、これまでの所業、確信犯だということ。ポヤポヤで悪意はなかったのー!って訳ではない。見たままの天然ちゃんと思って侮ったら、死ぬ。
欲しい物は、手に入れる。例え周りが傷つこうとも……小龍様のときそうだった。
邪魔なものは殺す。そこに大義などなくても……おばあさまのときそうだった。
だって彼女はヒロインだから。
で、取り巻き君たち、魅了、出てる……私が散々魅了って言葉使ってたから、鑑定魔法もこの言葉を採用したか?
「ルー?」
私は肩のルーを、深呼吸した後覗き込む。
『セレ、今のところ問題ない。笑ってしまうほど心は凪いでいる。全く、前回はオレとしたことが……』
ルーは思い出して恥ずかしいのか私の首元に頭をグイグイ押し付けて、顔を隠す。
「マリベルのほうもルーに気がついてないよね?」
見えていたら大騒ぎしているはず。
『うん……ただ魔力はデカイ。油断はできん』
観客席でマントに包まれて座る中に、お父様とお兄様を見つける。パパンは私にウインクをした。大丈夫だよと。
「さ、ササラさん、鼻血出た、ティッシュください……」
「お嬢、己のオヤジ相手に何やってんだよ……」
しょうがないじゃん、ダンディーなんだもん。とりあえずホッとしたんだよ!
ルーとお父様が私に向かって笑ってくれる。お兄様もお変わりない。
一番の心配事が消えて、泣きたくなった。
お兄様がにっこり笑って小さく手を振ってくれた。いつかの魔法大会と立場が逆だ。
お父様、お兄様が揃ってここにいてトランドルは、おばあさまは大丈夫かって?
おばあさまはうちの精鋭と、案外女性らしい繊細さを持つココアが甲斐甲斐しく守ってくれているからご安心を!万が一があってもお兄様のスピードならすぐに駆けつけられる。同じ王都の中だ。
トランドル領内には……私の不在の間だけ、こっそりガレからガレアギルドのSクラスを雇い守らせている。 だってみんなこぞってこの場に来たがったんだもの。
ガレアの彼らはお金さえ払えばキチンと役割を果たす。そして、ギルド長の美女オリビエさんを倒した私を心酔してくれてるらしい。めっちゃ従順!
で、彼らのまとめ役としてもアーサーも副官の仕事を放り出し、尻尾をブンブン振りながらやってきた。リグイド止めろよ!
「……あの小娘、何言ってるんだ?街に火をはなったのお前らだろ?」
「何であんな派手な登場?恥ずかしくないのかな?ニック」
「ワフワフ!」
「うーん、セレフィーにケンカ売るとこからして、ちょっと頭、弱いんじゃね?」
「キュイキュイ!」
「あの小娘……エルザを襲っておきながらふざけたことを……」
「ギルド長、あの子、ファンデで上手く隠してるけど、顔半分黒く変色してるわ。きっとエルザ様への呪いを小龍様が返したからですよね!あれはナルシストにはこたえると思うなーあ!」
東軍の観客席のヒソヒソ声が静かな場内に、案外はっきり響き渡る。マルとシューもついてきてるのか。仲良しで何より。
「ちょ、ちょっと!何なのよ!今のいいセリフで一気に私に流れが変わるはずでしょ?みんな、私を尊敬の目で見つめるとこよ?そもそも何?大勢で小汚いフードなんか被って!トランドルってカルトな宗教団体なの?」
「カルト?」
ササラさんがキレイな顔を傾げる。
「宗教団体ってのはまあ言い得て妙だな。俺たちはただただ筋肉を信仰してるからな」
私のティーチャーがウンウンと頷いている。
『セレちゃま……ほんとにあのバカな女、脅威なの?』
「脅威だよ。全魔法使えるんだよ。『全』の中にどれだけ特殊なものが入ってるかわからない。ミユ、お願い、まだ出てこないで?私はミユたんを奪われたくない」
『……わかってる!そうだね……あの女に返した呪い、悪夢のほうは解呪されちゃってる。才能なくはないみたい。でも、返呪のときに怒りを込めて注ぎ込んだ『アンラック』はバリバリ効いてる。沼に来たときの1回目と重ねがけ状態だからか?……本人が呪われてる意識がないから……解いてないのかな?まあ、人には解けないはず。レンザの古代神聖文字で入れたから』
「マリベル、解呪なんて……できるんだ」
さすがチートヒロイン……私には無理だ。創り出そうにもイメージができない。構築できない。
『セレちゃまはできなくてもいいの!私とお父様ができるんだから、頼ればいいのっ!マリベルの肌の変色はね、呪いをかける浅ましさと腹黒さに比例するの。もちろん身体にいいワケがない。全体的にレベルが落ちてるはず。だからルー様もピクリともしないんだよ』
『なるほど、ミユのお陰でそのオートパイロットも威力が弱まったと。でかしたミユ!』
『ほ、褒められたっ!やったあ』
緋色の観客席から、フラリと誰かが立ち上がった。
ガードナー第二王子殿下。一気にやつれ、あの天真爛漫な、少年らしさが跡形もなくなくなっている。セシルがガードナーの後ろに控え、瞳をギラつかせて友を守っている。その後ろには……可憐なイザベラさん?目を大きく見開き手を揉み絞っている。何でこんな危険なところに!
……何でって、愛する王子が心配だからに決まってるか。
正直王族まで守れない。自己責任でお願いよ?セシル。
「ああ、ああ、ガードナー!お願い戦いを止めて!私のために、傷つかないで!シュナイダー殿下とガードナーと仲良くできる道を探しましょう!話しあうのよ!」




