12 6歳になりました
私、セレフィオーネ.グランゼウス伯爵令嬢、6歳になりましてよ!おほほほ!
急に高笑いして気が触れたのかって?いや、最近お近づきになったお方の真似っこです。
ルーは柴犬サイズから、ちょっと大きめの柴犬サイズになった?錯覚?ひょっとしたらこの大きさで固定?私の頭から落ちないように?
あの運命の魔力検査から約一年、親子三人ハラハラソワソワして過ごしたけど、今のところ特筆すべき問題は起きてない。これが嵐の前の静けさでなければいいんだけど。
魔力検査はそのまま「魔力なし」判定で決着した。検査の場にお父様がいてビンビンに威圧したことも、ポルターガイストによって石版がぶっ飛んだことも、お咎め等の連絡は何もなかった。所詮我が家は公爵家でも侯爵家でない中級貴族。そして私はその中級貴族の地味娘。マークするほどもなかったと思われる。
そして「魔力なし」の地味娘に粉をかける貴族もなく、私は貴族社会から放置された。それは当然王族からも同じこと。
小説では、私は初っ端から第二王子の婚約者だった。格上の同世代の御令嬢が何人かいるにもかかわらず、伯爵令嬢の私が婚約者に収まっていたのは、魔力検査で振り切り上級判定が出たためだろう。噂では第二王子は革新派の侯爵家御令嬢と初夏に婚約するらしい。
ようやく、ほんのすこしだけ小説から逸脱できた。
①魔法学院入学を回避
②第二王子との婚約回避
私にとってとてもとても大きい成果だ。記憶が浮かんで三年。ようやくだ。
ただ、気になるのはあの時の貴族の少年。ルーを見ることができただけでなく、ルーからの圧力も感じ取ることができた、お兄様と匹敵する魔力持ち。彼の容姿や会話の内容を父に伝えると、
「グランゼウスの血か、王家の血筋だろうね…………」
うちの血族にはお兄様以外対象年齢がいない。残るは王族だが、ジュドールの王家の歴史は古く、細い枝葉を含めるとなかなかの人数がいる。あれだけの魔力持ちだからかなり血は濃いと思うんだけど。
でも現王家からは何の問い合わせもなかった。賢そうな顔だったから、馬車を割り出すくらい簡単だったろうに。
前世の記憶を細かく精査したけど、あの少年は小説には出てこなかった。出てたら一発でわかると思う。当然第二王子ではない。第二王子は私の一つ上でまだ幼児だ。
あの彼は小説登場人物以外の、王家の血が流れる、10代半ばの高位貴族。雲をつかむような手がかりだわ…………。
とりあえず、ルーとの掟を守るため、我が家は出来るだけ高位貴族に接触しないことになった。そんなことしてこの世界生きていけるのか?と不安になったが、はっきりした指針ができて、お父様はいっそ清々しいらしい。
「いつでも大臣職返上して領地に戻りたいくらいだよ」
お兄ちゃんも基本身内さえ安泰ならどーでもいいタイプらしく、
「ん?派閥とかわけわからんね。出世?自分に力さえあれば肩書きなんて面倒なだけだよ?まあセレフィオーネとルー様を贅沢させるくらいどう転がってもできるから甘えてていいよ」
お、男前!!!どこまでもついて行きやすぜ!アニキ!
そう思ったものの、アニキ、いよいよ魔法学院に入学してしまった!学院は全寮制のため、外泊が認められる月1回しか伯爵邸に戻ってこない。
戻ってきたらきたで、私の修行の成果を厳しくチェックし、学院で学んだ魔法を私とルーに開示して三人でほじくりまわし、弱点をあぶり出す。きっと実技授業で同級生をボッコボコにしてんだろうなあ……アニキ容赦ないから。
で、夕食が終わると、私を膝に乗せ、お土産の新作の本を優しく読み聞かせ……ルーに新作のお菓子を献上して……休暇は終わる。なもんで学院の様子はさっぱりわからん。友人の名前も一個も出てこん。アニキはボッチだ!それも自分で気づいてもいないボッチだ…………
てなわけで、私が騎士学校に入学するまで、稽古をつけてくれる人がいなくなった。弱った。
騎士学校は基本実力主義。11歳で入学試験があり、ペーパーテストと実技がある。私もそこそこの腕になったと思ってるけど…………何故か攻撃が偏っている。何故に暗殺!何故に暗器?マズイっしょ?ノーマルな試合も出来ないと!
お父様は短槍を使うけど、6歳で槍は柄が地面につかえて、上手く回せない。たまに戻っては闇討ちばっか教えるアニキ…………
と、言うわけで………
「セレフィーちゃーーーーん!」
私の閉鎖的な人生に新たな登場人物。おばあさま!参戦!
フツーにいたんだ、血縁…………




