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119 ニックの工房を訪問しましたーpart2

「た、ただいま……」


「あれ、ニック、どうした?今日は帰ってくる日だったか?」

作業場からトムさんが出てきた。


「トム兄さん、ただいまです」

「トムさーん!お久しぶりでーす」


「おかえりアルマちゃん!って、え?セレフィオーネちゃん⁉︎ と、クマ⁉︎親方ー!」


奥からますますヒゲがモジャモジャになったダンカン親方が頭を掻き掻きやってきた。


「うるせえなあ!、お、嫁!元気にしてたか?ってナヌッ!ニック浮気か?そして既に子供できてんのか?で子供はクマだと????」


スパーン!!!


ニックが親方の後頭部を容赦なくハリセンで叩いた。


初めて訪ねたルーが、珍しいことにビクついている。


親方、お変わりないようで……




◇◇◇



王都の下町にあるダンカン親方の工房は、戦火を免れていた。職人街はほぼ無傷のようでホッとした。足を踏み入れると相変わらず工具や材料でごちゃごちゃしていた。でもとても温かい。


私達は散らかったテーブルの上を適当に端に寄せて座った。ルーはマルとシューが危ない工具に触らないように目を光らせている。アルマちゃんが慣れた様子でお茶を淹れてくれた。


「で、セレフィオーネちゃんはうちの二人の仲を引き裂きにきたワルイ女ってとこか?久々に顔を出したと思ったらとんでもねえなあ!」


親方の妄想っぷり、レベル上がってる。


「オホホホ、勘違いしないでくださる?私はオタクのニコラスがうちのアルマたんに相応しくないと一言物申しにきたんですのよ?」


「何をー!うちのニックに難癖つけやがるのかー!女だからといって容赦しねえ!表に出ろコラあ!」


「オホホホ、望むところですわ!」


「ちょっとセレフィー!煽るのやめてよね!」

「はあ……もうバカ親とバカ友がしんどい……」

「ニック、止めるな、二人がどこで落としどころつけるのか、もうちょっと見ておこう!いやー久々の娯楽だよ!はははっ!」

トムさんも相変わらず、気のいいお兄さんだ。


とりあえず私が手土産がわりにトランドルの森の栗のケーキを出したら、みんな静かになった。


「はあ〜!セレフィーのケーキ、久しぶりー!やっぱ美味しー!」

「「「…………」」」


男三人は黙って味わう。うそ?親方、泣いてんの?

「このうまいケーキ、あいつにも食べさせてやりたかった……」


私はニックをチラリと見る。

「妄想だ」

親方は未だ独身を貫いている。


「で、可愛いクマっころ二匹も連れて帰ってどうした?」

マルとシューは温かい南の窓辺の床の上で、大好きな栗をケーキからほじり出してワフワフ取り合いながら食べている。もちろんその陰に一心不乱にケーキにかぶりついている駄モフあり。


「あのさ……オレも居候の身分なのに、申し訳ないんだけど……オレ、こいつらの面倒をみることになって……」


ニックがモジモジと言いにくそうにしている。ここは私が話したほうがいいのかな?


「あの、親方、トムさん!実は私、トランドルの領主なんです!」

「そーなの?」

「へーえ!」


「あれ?で、このクマ達、クマに見えるけど、実は精霊なんです」

「そーだな」

「そーみたいだね」


「あれれ??で、ですね。領主の私が、ニックとアルマちゃんの更なる進化のために、お世話をするように命令したんです」

「ほー!」

「いいんじゃない?」


「ありゃりゃ???だから、ニックが学校からここに帰省するときは、この子たちもここに置いてあげて欲しいんですが?」

「ふーん、了解了解」

「危ないから炉に近づかないようにねー」


「「「……」」」

何この抵抗のなさ。私が拍子抜けしていると、ニックが改めて確認を入れる。

「親方、こいつら精霊なんだぞ!」

「そりゃ、見りゃわかる」


わかるんかい!


親方が逆に不思議そうにニックを見返す。

「お前、見たことなかったのか?ふーむ。職人として真っ直ぐ素材に向き合っていると10年もたちゃ見えるようになる」


「そんなもんですか?私、精霊の存在自体、お話のなかのことだと思ってました」

アルマちゃんが驚きながらお茶のおかわりをみんなに勧めてくれる。


「僕は銅の精霊は割とハッキリ見えるねえ」

そう言うとトムさんは立ち上がり、シューを優しく抱っこして、ケーキまみれの口を拭いてくれた。シューは一瞬警戒したが、すぐにオデコをトムさんに擦り付けた。


「鉱物にも精霊いるんだ……」

『……見えるなんて稀も稀だ。この二人がよほど真剣で大事に扱うからこそ姿を晒したのだろう』

だから親方の作る物はいいのかな?良いものを作るから精霊が姿を表すのかな?まあどっちでも同じか。


ここの二人はガラス以外は無関心なのだ。いい意味で。

目の前にあるものだけを、そのまま()()と認める人たち。肩書きも常識も興味がない。ただ目の前の可愛い存在を可愛いから慈しんでくれるのだ。


マルとシューはお腹が膨れたのかコロコロと転がって遊びだした。

『マルもシューもすっかり馴染んでいる。心配することはなさそうだ』

同じくお腹の膨れた聖獣が大きくアクビをする。


「ほれ!ちびっころ、こい!」

マルがトテトテ歩き、親方の足元にたどり着く。親方が抱き上げると、髭を不思議そうに眺め、グイっと引っ張る。手加減なし!子供だから!


「痛ってーなーおい!でもニックに子供が生まれたら、いつもこんな感じか……練習だ!耐えろワシ!」


ブーッ!

ニックがお茶を吹き出した。


「汚いぞ!ニック!」

「ニャイニャイ !」

トムさんとシューにメッと怒られる苦労人ニック17歳。


「ニック……ドンマイ!」

セレフィオーネ・グランゼウス、ようやく、ドンマイって、言われる側から言う側に回りました!よよよ……。






◇◇◇




私とアルマちゃんは当然のように台所に立っている。まあモフモフ双子がこれからお世話になるわけだから、夕食を作るくらいなんてことない。

親方とトムさんが目をキラキラさせて待っている。


「お、アルマちゃん、手際よくなったね!」

「うん……たまにここに訪ねてくると、いつもあんな目で見つめられてさ……作らざるをえなかったわ」

ウマウマ鳥をここまで薄くおろすなんて、大したもんだ。今日はウマウマ鳥とアジヨシ茸と冬野菜のしゃぶしゃぶだ。ガレの夏ミカンとマルシュの醤油で作ったポン酢で召し上がれ!



アルマちゃんはお皿を並べながらシューを抱っこしているトムさんと冗談を言いあっている。男性が苦手だったこと、克服したみたい。ギルドでもマット君たちと自然体だ。

親方と、トムさんと、ニックとアルマちゃんと子供たち?、家族のようだ。私抜きで流れた時間を感じる。少し寂しい……なーんて贅沢な悩みだ。元気に再会出来だだけで、幸せなこと。


「ねえねえアルマちゃん、イケメンパパにはニックを紹介したの?」

「それがね、父が忙しい忙しい言って時間を作ってくれないの」


複雑な親心だねえ。まあ大事な一人娘が彼氏連れてくるって言ったら逃げたくなるか。


テーブルの上に鍋セットが出来た。

「ご飯ですよー!」

「「「うおーい!」」」


全員が鍋を囲んで座る。男三人マイフォークを持ってスタンバイしてる。小さな箱のような卓上コンロもどきに点火した。


ボッ!!!

勢いよく火がついた!

私がお肉を入れようとすると、隅っこでボール遊び中だったマルとシューがピクリと立ち上がり……全身から殺気を出した!


『火!ダメ!』

『おうちのなか、火!危ない!』


「『えっ』」


マルが右手、シューが左手を天井に突き上げた!

小さな肉球お手手から勢いよく、天井に向かって水が飛び出す!


『ミユの!水鉄砲かっ!!!』


水が家中に土砂降りの雨のように降り注ぐ!!!

バシャバシャブワシャーー!!!


…………火が消えた。

部屋中水浸しになり……全員濡れねずみになった。


「わーっ!」

トムさんが慌てて作業場の炉に向かって走った。


へクチッ!

毛皮がペタンコになり小さくなったマルは可愛くくしゃみをしてビショビショのアルマたんにひっついた。

そんなマルを呆然とアルマちゃんが抱き上げる。


同じく縮んだシューはニックの膝を甘噛みしながらキャンキャン吠える。

「ニック……ほめてほめて〜って言ってる」

「そっか……偉いぞシュー……水魔法……流石……精霊様……」

ぼんやりと濡れた手で濡れた頭を撫でるニック。



「……ココアは火が危ないってキチンと教育してたってことだよね……クシュン!」

『……教育とは、難しい』

ルーがブルブルブルッと身震いして、水を弾き飛ばす。


「まあ……火を扱う工房だからな……ちょうど消火器買おうと思ってたとこだ……」


濡れてヒゲが真っ直ぐになった親方が、ウマウマ鳥の残骸を見つめながら……珍しくまともなことを言った。







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