118 モフモフ仲間が増えました
『セレ……またやらかしたみたいだな………』
いやいやいやいや、やってないし!私は頭をブンブンと横に振る!
『しかし、この三頭、特にチビ二匹からはビンビンにセレの魔力を感じるぞ?』
「小龍様のときみたいに、魔力を私が譲渡したってこと?だからこの子達と喋れるって?」
私は両手で頭を抱える。ニックが私を胡散臭そうに眺めている。やめてっ!私悪くないもん!多分……
『我がわかるか?』
『もちろんでございます。全ての獣の守護者、西の聖獣様』
『うむ。で、我のセレとどこで縁を持った?』
『……恩人姫は西の御方の契約者でありましたか。私はてっきり東海王者の主人かと思っておりました』
東海王者?ミユたんか?
『ミユ……ということはマルシュ大陸で出くわしたか?』
『はい、マルシュ、トウクン近郊の森で、私が子を腹に抱えているというのに、人間に巣を追われ、腹の子共々餓死する寸前に、私の目の前にお越しになりました。気が立っていた私は死にものぐるいで襲いかかり……それを姫と東海王者は寛容にもお許しになり、私が冬眠するに十分な食料をくださり、腹の子供達に、恐れ多くも祝福を授けてくださいました』
「あーーーー!」
デビルイノシシあげたー!ありましたー!そーゆーことーー!
「あの時のベアかあさんかあ!無事お産済んだんだね!よかったよかった!でもちょい待ち、なんでこんなとこにいるの?マルシュとココ、何千キロ離れてると思ってんの?おまけに間に大海あるし!」
『子供達が1歳になり、身体が丈夫になったところで、マルシュの森を離れ、姫の魔力を辿りここまで参りました。海は渡れるものか危惧いたしましたが、思いのほかスイスイ泳げまして……おそらくは東海王者の加護かと』
キャー!東海王者万能過ぎー!
『……で、セレを見つけて如何する?』
『改めて、お会いしてみれば、姫はなんと西の御方の契約者。姫自身はもちろん御方様の力も到底測れない。けれども、どうしても、どうしても、お力になりたかったのです!我々は決して恩を忘れない!』
あ!あの時確かに言ってた!クマの恩返しだ!
「えっと、セレフィ、クマとも話せるんだ。プラチナってスゴイね」
「いや、アルマ違うから!こいつが特殊なだけだから。セレフィーちょっと説明!」
私はアルマちゃんとニックにマルシュでのベアかあさんとの出会いを説明した。そして恩を返すために母が訪ねて三千里してきたことを。
「何それ、規格外過ぎる……」
「……な、アルマ、俺たちだけがこの脱力感を共有できるんだ……」
二人が小さい声でボソボソと話しあっている。恋人同士の会話を盗み聞きするほどヤボじゃないぞ!えっへん!
気がつけば、子熊が私のブーツの先を、遠慮がちに爪でカリカリ引っ掻いている。
私はしゃがんでチビちゃん達と見つめ合う。私の膝までの大きさしかない茶色のふわふわのモフモフ。私と同じ真っ黒のまん丸の瞳。男の子と女の子の双子ちゃんだ。めちゃカワイイ!
『ヒメ』
『ヒメ』
「ふふっ、姫じゃないよ。セレだよ?」
『セレだいすき』
『セレすきすき、助けてくれてありがとう』
甘えてペロペロ舐めてくる2匹の頭を両手でわちゃわちゃしながら……ん???
「え?この子達も喋れるの?」
『私よりも、子供達のほうが優秀です。直接姫と東海王者に祈りを捧げてもらっておりますので』
安産ね!元気に生まれてね!ってベアかあさんのお腹を撫でたやつかあ⁉︎
「鑑定!」
二匹とも青く光る。
◯◯ (子熊<精霊、契約者セレフィオーネとミユの従者)
状態 : 先天的祝福
スキル: 健康、水泳、水魔法
△△(子熊<精霊、契約者セレフィオーネとミユの従者)
状態 : 先天的祝福
スキル: 健康、水泳、水魔法
「『……』」
水魔法に水泳、ミユたんの加護だね。あれ?名前が読めない。
「ベアかあさん、この子達の名前は?」
『姫、是非名付けをお願いしたい』
えー名前つけなかったの?そりゃこの一年不便だったでしょうに……
ルーを見たら、めんどくさそうに頷いた。
「じゃあ、女の子はマル、男の子はシューでどう?マルシュで出会ったから!」
「「『えーーーー!!!』」」
『なんと安易な……』
「もうちょっとひねろよ!」
「まるちゃんとしゅーちゃん……まあ忘れないよね……」
『わたし、まるー』
『ぼく、しゅー』
二匹の身体がピカリと光り、毛皮の色が茶色から漆黒に変わった。もはや慣れつつあるイヤな予感。
「……鑑定」
もちろん青く光る。
マル: (精霊、契約者セレフィオーネの名付け子、セレフィオーネとミユの従者)
状態 : 先天的祝福
スキル:健康、水泳、水魔法
シュー: (精霊、契約者セレフィオーネの名付け子、セレフィオーネとミユの従者)
状態 : 先天的祝福
スキル:健康、水泳、水魔法
『精霊になっちゃったな。これまでの動物から精霊へのまともな進化の理りをぶっ飛ばして……』
「名付けパワーなのー⁉︎ 私のせいなのーーーー!!!」
『姫、是非私めにも名を!』
はあ……子供には名付けして、親断るとかできない。これから起こること、ほぼ100%想像つくんだけど。
「まいっか。そいじゃあそのままベアかあさ……ひいっ!」
ルーとニックが怖ろしい顔で睨んでいる!真面目に考えますって!センスないのにぃ!
「じゃ、じゃあ、そのお強そうな見かけに反してとってもお優しいお母さんなので……ココアはどう?」
『ココア……』
ベアかあさん改めココアもピカリと光り、一回り大きくなり、毛を茶色からチョコレート色に変えた。
マルとシューほどは私の魔力を吸収していないから、真っ黒ではないだろうって予測したんだよね。
喜んだマルとシューがココアにピョンピョンと抱きついた。
◇◇◇
ココア親子はオオカミの縄張りを決して荒らさないと理解してくれたカクレオオカミのリーダーは、荒野に帰っていった。これで彼らも普段どおりの生活に戻るはず。
そして、ギルドに帰った。
私とルーとニックとアルマちゃん。そしてココアとマルとシュー。そしてジークじいとララさん。ギルド長室が狭く感じるのはしょうがない。
「えーと、姫、つまり、このクマ達はもはやクマではなく精霊で、このトランドルの地を守ってくれると?」
ジークじいがコメカミを抑えながら尋ねる。
「はい。三匹とも私のために働きたいって。でね、ココアにはおばあさまを常時お守りしてもらおうと思うの。強くて凶悪な感じがおばあさまにぴったりでしょ?精霊は絶対裏切らないよ?」
「ふ……む……」
「で、マルとシューはアルマちゃんとニックに預けようと思います」
「はあ?」
「セ、セレフィー!」
「マルもシューもちっちゃいから日常生活を教えてあげて?そうは言いつつもこの子ら精霊だから、私達が学ぶこともいっぱいある。育てて育てられてください。これは領主としてのお願いです。あ、学校の時はギルドかおばあさまの屋敷で面倒みてください。ココアも安心するでしょう」
決して押し付けた訳ではないぞ?
ニックもアルマちゃんも若干不安そうだ。
「ニック、アルマちゃん、この子達と意思の疎通ができるようになるために日々魔力操作の鍛錬をしたほうがいい。もちろん私もお世話をするから。あ、この子達のご飯は基本ニックの無駄に垂れ流してる魔力を勝手に食べてもらうから。足りない分は私のも食べていいからね」
「オレの?うわー!」
マルとシューがニックのほっぺたを両脇からペロペロ舐め出した。グングンニックのオレンジ魔力を吸い取っているのが目に見えるようだ。魔力を施した人間を、精霊は決して裏切らない。
「ふふっ、可愛いね」
アルマちゃんが微笑むと、マルはジャンプしてアルマちゃんに抱きついた。うん、相性いいみたい。シューもニック(の魔力?)を気に入ったようだ。
精霊は負の感情の多い人間に己から近づくことはない。
ジークじいが私を通り越して、私の肩のルーを見つめている。ルーがこくんと頷いた。ジークじいが深ーいため息をついた。
「姫……いえ、領主よ、了解しました。精霊様は我々に光と恵みをもたらす。恐れ多きことながら大事に育ててトランドルの戦力になってもらいましょう。精霊様方、よろしくお願い申します」
「ギルド長、ありがとう!」
「ところで、セレフィオーネ領主様?」
ララさんがにっこり笑って会話の落ち着いたところで入ってきた。
「はい」
「今回の依頼はこの親子の熊の精霊様の侵入にオオカミ達が動揺して群れたけれど解決した、でいいのね」
「はい!」
「でも、期待していた双方のリーダーの素材は持ち帰れなかったと」
「そ、そりゃ、だって、話し合いで解決したから、駆除なんて、できないし……」
「では、依頼料は素材込みで500000ゴールドだったから、素材分差し引いて100000ゴールドね。そしてそれからクマちゃんたちのお世話代10000ゴールド差し引いて90000、それを三等分で一人30000ゴールドってことになりまーす」
「えええええっ!利子にもなんないじゃん!」
「あら、私はこのトランドルギルドの健全なる運営を考えて敢えて嫌われ役やってるのに文句あるのお?」
「い、いえ、アリマセン」
「セレフィオーネ領主様、もっともっとお励みくださいね?」
『……ドンマイ、セレ』
「ドンマイじゃ、姫」
「ドンマイ、セレフィー」
「えっと……ドンマイ?」
『セレフィオーネ様、ドンマイです』
『『どんまーい!どんまーい!』』
は、働けばいいんでしょっ!うわーん!!!
◇◇◇
『ルー様とお呼びしても?』
ルーはココアに眉毛をピクリと上げてみせる。
『セレフィオーネ様は、かつて我らを救った折「ルーは……褒めてくれるかなあ」と呟いておられました』
『……そうか』
ルーは眩しそうに自分の愛し子を見つめた。
次回は週末更新予定です。




