117 ニックは魔力持ちでした
「おうぅ、さすがスイートハートアルマたん!魔法デビューするや否やマップを成功させるとは!ウンウン間違いなく敵のカクレオオカミが赤点滅してるねっ!」
私はパシパシとアルマちゃんの背中を叩いた。
「成功?よかったあ!」
「よくねえよ!」
「何匹いる?」
「ちょっと待って?えっと、だるまさんが転んだ、ゲンゴロウが潜った………はい100以上!!!」
「なんだ!その、場の空気読んでない数え歌はっ!」
「え?セレフィーに教えてもらったけど?」
「セレフィー!」
「ニックぅ!敵が迫ってるのにカリカリしちゃダメじゃん!ほら深呼吸して!」
「……………………はあ」
黒い点々が荒野の向こうに無数に現れた。一匹ずつやっててはキリがないな。
「ニック、依頼はリーダーのみの駆除。他のオオカミを殺す必要はないからさ、落とし穴作戦するよ!私が雷発動するから、ニックは風担当ね!」
昔トモエ姫護衛の時に使った殺さない戦法でいこう。
「また初心者にムチャぶり!!!」
「だいじょぶだいじょぶ、そだな、ガラスを吹くイメージで、ニックのお腹でぐるぐる回ってる魔力を一気に吐きだす。オオカミの前10メートルで横300メートルイメージ!アルマちゃんは落とし漏らしたのを峰打ちね!」
「だから魔法とかやったことねえし!」
「了解!ニックー!がんばー!」
オオカミの群れは結構なスピードでこちらに向かってくる。もう500メートル切った!
「ニック!急げ!」
「クソッ!やるしかねえのかよ……」
ニックはお腹に両手を当てて、魔力の流れを認識した後、口から息を吹いた。
ヒュルーリィ〜
…………清涼な一陣のそよ風が私達の前を横切った。
「お、俺……今……風魔法……」
ニックは自分の口とお腹を呆然と抑えた。ヨシヨシ!初めての風魔法大成功!しかし!
「だあっ!弱い!なんて繊細な息遣いなのよっ!ああ、もう!次は親方とトムさん全身包んじゃうような金魚鉢作るイメージで吹いて!!!ああ、来たーあ!行くよ!せーの!」
「うわぁー!次々ジャンプしてきてやがるー!チクショー!セレフィーのバカヤロー!!!」
ニックが勢いよく空気を吸い込んだ!呼気に良い感じに大量の魔力が乗った!私も右手を振り上げ雷を合わせる!
ニックから台風並みの大風が吹き出され、私の雷を纏い、地面を切り裂いた。
ゴゴッ!!!バリバリバリバリーー!
幅5mほどの亀裂が走り、勢いをつけて走って来たオオカミ達が、止まることも出来ず、次々裂け目に吸い込まれていった。
「あ……ありえねー…………」
ニックはヘナヘナとその場で膝をついた。
『相変わらず土壇場にめっぽう強い男だな』
ルーがアクビをしながら首を回す。まあ本来なら私一人でどうにでもなるターゲットだからね。
一際大きい、シンガリを務めていたカクレオオカミが私達を威嚇しながら仲間が落ちた裂け目をトンっとジャンプしてやってきた。
ニックもアルマちゃんも剣の柄を握りこむ。
私はサッと二人の前に出た。
唸ってギラついた目をしていたオオカミは私の肩のルーを見て、瞬時に地面にひれ伏せた。
ではこれからはルーのターンだね!
『……なぜ暴れておる?』
「ワンワンーウーウーウーワワン!」
『ふむ……最近はぐれのジャンクベアーの親子がこの辺りに現れて、あちこちを嗅ぎ回っているから追い出そうと珍しくも群れをなしているんだと』
「ふーん。じゃあそのジャンクベアー探して意図を聞かなきゃわかんないね」
「凄い!セレフィー、カクレオオカミと話せるの?さすがプラチナ!!!」
「いや、ゼッテー違う!そういや俺、シルバーになったけど、やっぱりヘビと喋れねーぞ!」
二人は剣をホルダーに納めた。
残念ながら二人にはルーは見えていない。ニックは鍛錬次第じゃ見えるようになるかもだけど、必要以上に魔力操作に時間を割くことはないだろうな、なんか目的がないと。ふーむ……
私は二人にオオカミの事情を説明し、オオカミのリーダーに手下の解散を命じてもらった。
『オレが間に入る。いいな?ではお前の鼻でそのジャンクベアーの元に連れていけ』
「くうーん」
私達はオオカミの後をついて走った。
◇◇◇
荒野から森に入り、馬を置いて走ること半刻、目的のジャンクベアーを見つけた。
「グルル!!!」
『おい、唸るな!オレに問題を預けると誓っただろう!』
「やっぱでけえな……」
「えっと、ちっこいのも二匹いる。子供?」
まだ1歳にもなっていなさそうな子熊がジャンボジャンクベアーの足にまとわりついている。
私達が一歩足を踏み入れると、三頭の頭が一斉にこちらに振り向いた、え?クマにしては気づくの早すぎない?
三頭が四本脚で一気にこちらに走ってくる。
私は慌ててアルマちゃん、ニックの前に立ち、リーダーオオカミがクマを刺激しないように威圧をかける。
そしてルーも私の肩からぴょんと地面に降り立ち、一気に覇気を撒き散らす!
「空気が……変わった……」
「セレフィーすげえ……」
私の覇気じゃないんだけどまあいっか。
クマ三頭は気圧されたのか殺気を消し去り、私達の方にゆっくりと歩み進んだ。ヨシヨシ、ルーが何者かわかったのね……って、んん?ルーを素通りして、私の足元で座り込んだ!!!
『ああ……我ら母子の恩人の姫、ようやく見つけた!』
ママベアーがとーーっても凶悪な顔のまま……涙をこぼした!!!
なんて綺麗な涙……っておい!!!
私、どうしてクマ語を理解してるんだろか……はあ……
着々とムツゴロウさんへの道を歩むセレ……




