116 借金返済は大変でした
とうとう借金生活に転落してしまった私。来たるべき日に向けてルーと切磋琢磨しつつ、素材見つけたら即回収し、新鮮なうちにギルドに提出していますが何か?
だ、だって、早く返済しないと、利子が、利子がかさむのよー!
ジークじいが、利子は免除してやろうか?と可哀想な駄犬を見る目で私に尋ねてくれたけど、私は歯をくいしばって首を振った。領主がルールの特例になっちゃいかんもん……シクシク。
お兄様は、大事な用事がある、とにっこり笑って、飛び去った。借金を残して。ああん!あっちもこっちも怖い!
借金を背負ってわかる、ララさんの恐ろしさ。あの笑顔の取り立ては悪夢になる。ようやくマットくん始めギルドのみんながララさんに逆らわない理由がわかりました。
「セレフィオーネちゃーん!じゃなかった、領主さまー!」
「ひいい!そこはセレフィオーネちゃんで、おね、お願いします!」
「お金になる依頼よ!500,000ゴールド!ジャンクベアーとカクレオオカミが縄張り巡って喧嘩してるんだって。双方のリーダーを狩っちゃって?」
「はいぃ!喜んで!姐さんの言う通りに!ちなみに依頼ランクは?」
「Aね」
Aか……
◇◇◇
「久々にセレフィーとの狩りかあ!」
「セレフィー足手まといの時はすぐに言ってね!」
親友二人を誘ってみた。ニックはシルバー、アルマちゃんはブロンズになっていた。二人の実力をちょっと見てみたかったのだ。そしてジャンクベアーを仕留めたら、またその血でニックの剣を鍛えてあげたい。
ニックは普段着に胸当てという簡単な装備。アルマちゃんは私のプレゼントした体操服もどき。ムム、小さくなってるな。また仕立ててやらないと。
「二人とも止まって」
私は二人の全身に防御魔法をかける。二人にとっては格上の依頼。引率者の責任重大です。
「一瞬何かに包まれたと思ったけど……もうわからない」
アルマちゃんが不思議そうに自分を見つめる。
「セレフィー、これどのくらいの期間持つんだ?」
「そうねえ……だんだん弱くなっていくけど……完全に消えるのは術者の私が死ぬとき?」
「「…………」」
「あ、物騒な言い方したね。ごめん。私の魔力が尽きるまで、というのが正しい」
「……言い直しても物騒だよ」
「……一生私を守ってくれてるってことだね」
ギルドに借りた馬に乗って、出発した。ルーは私の胸の中でグースカ寝てますが何か?
私がトランドルの敷地を出ない時はアスとミユには自由にしてもらっている。二人?とも大層なご身分なのだ。務めがあるはず。うちの惰モフと違って。
小一時間ほど走り、目撃された荒地に到着すると、ウサギやネズミの骨やオオカミの足跡があちこちに残っていた。まだ新しい。そう遠くにいってないみたい。しかし肌を刺すような危険もまだ感じない。
私は改めて、二人に思うところを話してみた。
「二人とも、これからも依頼をこなしていく上で、剣メインは了解なんだけど、魔法のサポートがなければこれ以上の昇格は厳しいと思う」
「……わかってる」
ニックが思い当たるところがあるのかボソッと呟いた。物理攻撃メインだとしても魔法で効率を上げたり補助したりしなければ、ゴールドの昇格審査を受ける条件に満たす依頼をこなすのも厳しいだろう。
我がトランドルギルドの現上位ランカー達は何某かの魔法を使って自分の実力を底上げしているのが現状だ。
「でも……『魔力なし』だもの……」
「『魔力なし」ってゼロじゃないんだよ?あの石版テスト、『普通級』の基準に満たない数値は全部ゼロで出してるみたい」
エリスさんの魔力を引っ張り出したときそう思った。お腹の奥のほうに、微量だけれどキラキラした魔力ちゃんとあったもの。それを日常的に使うことで、エリスさんの魔力、少しずつ増加してるみたい。
「は?」
アルマちゃんの口がポカンと開いた。
「ということで、私が少々イレギュラーな手段で引っ張りだそうと思うんだけどいい?」
ニックとアルマちゃんが目を合わせる。
「セレフィー、それ痛いの?」
「痛くはないけど、しばらく違和感がひどいってエリス姐さんが言ってた。あ、もしやるならアルマちゃんが先ね」
「な、何でだよ!危険なら俺が先にする!」
「バカニック!私がアルマちゃんを危険な目に合わせるわけないじゃん。私のアルマたん愛はニックの100倍深いっつーの!そーじゃなくて、私の魔力を呼び水がわりに身体に流すから、アルマちゃんが試しにやってみて、同じことニックにされるのが嫌なら止めようと思って」
「え?なんで私が嫌がるの?」
「だって魔力流すってかなり親密な行為でしょ?恋人のニックに他の女の魔力なんて入れて欲しくないかなーって!」
「「なっ!!!」」
アルマちゃんとニックがゆでダコのように赤くなった。わかりやす過ぎるぞお前ら!
私と目を合わさないニックが明後日のほうを向きながら、言った。
「あーえー……セレフィーは俺の中で女のカテゴリーじゃないし……セレフィーに関しては色々、今更なんで……別にいいよな、アルマ?」
「セレフィーの魔力がニックに入っても、私、全く、嫉妬とか、モヤモヤとかないから!私の中でもセレフィーは女のカテゴリーじゃないから!」
アルマちゃんが真っ赤な顔のまま、私の目を見て言い切った。
ねえ、私のカテゴリーって何やねん……
私はマジックルームからレジャーシートもどきを出し、アルマちゃんと向かい合って座る。そして片方ずつ手を繋ぐ。
指先から私の魔力を細く流す。静脈を通ってゆっくりゆっくり。心臓に入ったあと、動脈から全身に流れていく。
あった!ちょっとだけど!私の魔力と絡めて表に引き出す!
「な、何?体の中で、ふわふわの空気が動いてる」
「うん、それが魔力。アルマちゃんの内にあることを認識して?どのあたりにたくさんあるか、考えて!そしてそれを手のひらに集めるように意識して」
やがてアルマちゃんの魔力が私の手にやってきた。早い!素直だねアルマちゃん。この魔力はエリス姐さんと同じで強い属性は持ってないな。でも十分だ。アルマちゃんは魔術士ではないのだから。
アルマちゃんの魔力は……草原の香り。
私は魔力をアルマちゃんに戻す。
「ど、どう?セレフィ?」
「うん、バッチリ。そーだね。アルマちゃんは収集系の依頼メインだし、それを安全かつスピーディーにこなし、遭遇した敵を準備万端で倒せるように……マップとマジックルームを覚えてもらいます!」
「まっぷ?」
私は魔力操作を反復させるとマジックルーム、マップと要領を教えて、アルマちゃんに自主練してもらう。
そしてニックと向かいあって座る。手を合わせる。手のひらに汗びっしょりかいている。
「緊張してる?」
「うん……」
「気分悪くなったら言ってね」
私は先程と同じように魔力を流す…………
なんじゃこりゃ⁉︎
案外な量の魔力が私の魔力に突っつかれてゴイゴイ身体中を巡ってる!ニック、魔力持ちじゃん!この量は……うちのエンリケレベル?上級のボリューム!!!後天?
「ニック……魔力検査の時具合悪かったの?」
「あーオレ、魔力検査受けてない」
「なんで?」
「……セレフィ、魔力検査をきちんと受けるのなんて、貴族と羽振りのいい町民くらいだよ。わざわざ王都まで行く金なんて、貧乏人にはない」
私には……まだまだ知らないことがいっぱいある。そういうもんか……無意識に貴族の物差しで測ってた。ダメね。国民全員魔力検査するなんて、所詮建前なんだ。
……そもそも魔力持ちは貴族が多いし、平民は自分に魔力あるなんてそもそも思ってもいないのかも。周りに魔力持ちいなければ伸ばしようもないし。
『オレは気づいてたぞ。これだけ心地よい魔力だからこそ、セレのそばにいることを許した』
ルーが私の耳に囁いた。
そうだね。ニックの魔力は……やっぱり元気いっぱいだ。火魔法と親和性があるみたい。でもこれだけ魔力持ってたら火、水、土、風どれでもOK。あ、でも器用じゃないからな……
魔力がどっちが多いとか少ないとか、言う必要はない。ニックも魔法士ではない。根っからの騎士時々ガラス職人だもの。
『そういうことだ。だからオレも別に教えなかった。魔力以外のことを真剣に鍛錬していたからな』
「ニック、アルマちゃんはね、目的物や敵を素早く見つける魔法を今覚えてるとこなの。二人で行動するなら魔法被らないほうがいいと思う。どういう魔法使いたい?親方助けるために火とか水がいいかな?」
「俺は……一瞬でいいから、スピードを上げたり、パワーを上げたりできる力が欲しい。俺は弱いから、いざという時、大事な人を担いで、サッサと安全な場所に連れていけるようになりたい。本当に強くなるまでは……」
攻撃補助系かあ……ニックは柔軟だわ。下手に四魔法とかいう予備知識がないだけに。もし作ったら……ニックの魔力量なら使いこなすだろう。腕によりをかけていっちょ作るかっ!と思って繋いだ指先から顔を上げると、ニックが私を真剣な表情で見つめていた。
……もしかして、担いで逃げてくれるのはアルマちゃんじゃなくて……私?
そっか、私か……現在狙われてるのは私だったね。ははは……コイツ何回泣かす気?
バカニック!私は強いんだっつーの!
「セレフィー!」
私がジーンとしていると、アルマちゃんが首を傾げながら声をかけてきた。
「なーにー?」
「うん、多分まっぷ、出来たと思うんだけど、なんか周りに赤い点々がいっぱいあるの。これ何?」
はい、囲まれてましたー!!!
勤労感謝の日!ということで投稿。
頑張ってる皆様がニヤッと笑ってくれると、いいなあ (*´꒳`*)




