110 エリス姐さん参上しました
「控えーい!控えおろー!」
お久しぶりカクさん。相変わらず通る声!
エリス姐さんは場をぐるりと睨みつけた後、バチバチと全身放電しながら、スケカクと共に入場した。出口そばの私のもとまで来ると、私の胸元のミユに向かってウインクする。
ミユは目を見開くと、コクリと頷き、エリスさんの元にジャンプして幻術を弱める。
ボンヤリとミユの輪郭がエリスさんの隣で現れ……見えるものはおののく。
そして、スケカクと共に全員で、私の足元に跪き、私の手を取り、うやうやしくキスをした。
じょ、女優なのー!!!
エリスさんとミユ、やがて1年はご無沙汰だよね?なのに何故に息ぴったり?
「なんだあの聖女のパチパチした?神々しさは!」
「聖女の隣の影……噂の聖獣か?」
「なぜ……聖女と聖獣があの娘に跪く?」
「なんと!なんと!西の御方のみならず、南の御方〜あ!!」
スケさんが後ろ向きにバターンと卒倒する。
尊い信仰心という神力を持つエリスさんと行動を共にし、エリスさんを敬愛することで、スケさんにもうっすらとルー達が見えるようになったのかな?
私は女優相手に上手く立ち回れるか不安だったけれど、そっとエリスさんの手を取り立ち上がらせ抱擁した。
「こ、こんな感じであってますか?」
「上出来よ、セレフィー」
耳にささやき合う。そっとミユに幻術をかけ直すと私の胸元に戻ってきた。おつかれ!
「エリス!やっほー!」
「エリスさん!」
ササラさんとアルマちゃんも駆け寄りそれぞれに抱擁を交わす。三人揃った!壮観!デカイ美形揃い踏み!みんなお美しく成長しちゃって……おばちゃん嬉しい!
『あ、聖女ちゃんの魔力が倍増した!』
「ミユ、どっちの?」
『どっちも。二人とも支え合っててカワイイねっ!』
「ミユもカワイイよ!」
『知ってる!』
さいですか……
ゆっくりと玉座の方向を振り向いたエリスさんは、横に相棒ササラさんを残し、私とアルマちゃんを背中に隠した。お姉ちゃん達は、学生時代のままに自然と私達妹分を守ろうとする。ジンとくる。
聖女は低い声で、一言発した。
「王妃を破門に処す」
破門とは、この世界の大地の神と月の女神に見捨てられること。この世界で生きる人間にとって最悪の不名誉。シンと場が静まり返る。
「私は事前に発布しました。ジュドールにおける内戦は当事者同士で解決することを望むと。もし関係なき民や……我らの聖者、セレフィオーネ様に害をなした時は破門であると。セレフィオーネ様を私欲の駒にしようとしたこと、お優しいセレフィオーネ様に付け込み、王家と関係のない民を人質に取り意に反して従わせようとしたこと、許しがたい」
「ホ、オホホホ、破門?痛くも痒くもなくってよ。神殿への信仰などジュドールに必要ない。ほとんどの民はそれこそ王族こそを信仰の対象のように敬ってくれているもの」
エリスさんが動揺も見せず冷めた声で返答する。
「ジュドール王国の王は神殿の信徒であることが条件。そもそも大神殿にて王になる誓いを立てて初めて王となることを忘れたか?」
「私を破門にするとして、一体誰がこの国を統べるというのっ!シュナイダーは陛下へ反逆した。ガードナーは未成年!私以外いない!破門になどできようがない!聖女よ!ジュドールの内政に口出しするなど厚かましいにも程がある!」
『ほう、これで統べていたと?相変わらずジュドールの王族は面白いな。この喜劇、ギレンに忘れず伝えねば』
アスにまた生まれ故郷ディスられたし、クスン。
『……加勢してやろう』
ルーはマツキの怪我を聞き、沸点が下がってまーす。エリスさんの後ろに回り、あたかもエリスさんから放たれたように雷撃を飛ばす!
バンッ!ジュッ!
「ギャー!」
王妃の目の前に稲光が落ちて床を焼く。金縛状態で動けなかった王妃は……あっさりと失神した。
「聖女様の天誅……」
「噂通り……」
「聖女を愚弄するとは……」
「ひっ!か、神がお怒りになった!」
まあ当たってる。私の神様たち怒ってるよ?いや呆れてるのか?
エリスさんは王妃を一瞥したあと、悲しげにこのドタバタにも何の反応もない王を見つめた。
「王に薬を盛るとか……クズ以下の国だったのね。はは、一度は故郷と思った国だったんだけど。王は神に宣誓し許されたもの。その王を害したものは神に刃を向けたのと同じ。関わったもの、順に天罰を下す。覚悟せよ」
聖女となったエリスさんに国籍はない。
顔面蒼白になったものが数人。宰相も唇を噛み締めている。今、目の前で天罰が降るのを皆見たばかり。
エリス姐さん、おばあさま並みにマジ怖え。
「宰相?この国で、どの派閥にも属さず、中立、公平、有能であると誰もが認める高位の人間は誰かしら。正直に言ったほうが身のためよ?」
「……財務相のグランゼウス伯かと」
おーう、パパン出して来たか……
「この国の統治権を一旦神殿預かりとします。王家の血筋の中より成人したふさわしい方を探しましょう。その間暫定的にこの国の舵取りを、グランゼウス伯爵、あなたにお願いしたいのですが?」
「お断りします」
パパン、にべもない。権力が欲しくて欲しくて仕方がないおっさんたちがあんぐり口を開けている。
「そう言わずに……」
聖女が話し掛けて来たその時、大きな魔力が猛スピードで向かってくるのがわかった。
『防御だ!セレ!』
とりあえず、広間全体に物理防御、そして、身内の周りに魔法防御を重ねがけする。
何かを感知した優秀な私の……エリス姐さん、ササラ姉さん、アルマちゃん、コダック先生が瞬時に私を取り囲む。壁だ!なんも見えん。
そして、お父様は上を睨みつけたまましゃがみ、地面に両手を付く。
「はあ、逃げ遅れたね」
『全く、これだけ主要な人間が揃えば狙わないわけがない。来るぞ!火だ!』
『大海よ!我に集え!』
ミユたんが天井に海水を呼び寄せ厚い水の膜を張った。
バキーン!ズズーン!
巨大な何かが王宮にぶち当たり、天井が崩れザラザラとガレキの固まりが落下するのを、ミユの海水の膜が受け止める。
ちっ、マジか?メテオじゃん!
衝突と同時に空間も地面もグラリと揺れる。
するとあらゆる振動をお父様が私たちの周りだけ他に受け流す。タール様は氷だけでなく土地を守る神でもある。お父様、そっち方面の防御力、免震能力を底上げしてきたんだ。流石!
「隕石!かなりの熱!あと10秒もたない!皆、避難しなさい!」
私は大声を張り上げる。
城の残骸の後ろの天空に巨大な真っ赤に燃える隕石が顔を出した。これは水のバリアでは受け止められない。
この場に集まっていた貴族達は蜘蛛の子散らすように退避した、この後どうなろうと知らん!
『崩れるよ!』
ミユの叫びに改めて身内にだけ物理と水膜の防御を張る。
ミシミシミシという音と共に……天井の水の膜が破れ、水は一瞬で蒸発し、
ドゴーン!土煙と共に直径10Mほどの隕石は謁見の間だった場所に落下した。
隕石の上で、何か、動く。
「……皆、下がりなさい」
「「「「はっ!」」」」
アルマちゃん、ササラさんコダックさん、そしてエリスさんとお付きのスケカク、私を心配そうに見つめるも、一瞬で跳躍し、距離を取る。私の、聖獣達の足手まといにならないように。
視線を隕石から離さず問う。
「お父様?」
「セレフィー。私は役に立てるよ?」
「その心配ではありません」
「マリベルだね?セレフィオーネの瑠璃とルー様がいる。案ずるな」
「お父様……」
『ふん、来るぞ!ミユ、今はまだ出てはならんからな!』
ルーがピカリと成獣サイズになり、私とお父様の前に出る。
隕石の上のアイスダストが大気に溶けると、白いローブが出現した。
「あれ?セレフィオーネ?大きくなってる!……随分と美しくなったね」
「あ、そういう社交辞令結構です」
もちろん、金の巻き毛が背中まで伸びたシュナイダーだった。
次回の更新は週末予定です。




