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108 イライラが募りました

「お待ちなさい!」

王妃が低く唸るような声をあげる。宰相が手を上げると十数名の近衛がワラワラと抜刀して取り囲む。


「セレフィオーネ嬢?少しくらい話を聞いてもバチは当たらないと思うわ。ふふふ」


「うちの領主に剣を抜くことがどういうことか、わかってるんだよなあ?」

コダック先生が呆れたようにそう言ってひと睨みすると近衛の半数がブルブルと震えだす。

「バカが」


先生とササラさんはトンっと頭の高さまで跳躍し、ぐるっと半円を描くように顔狙いの回し蹴りを確実に一人ずつ流れるように決めた。お互いの位置を入れ替えて地面に足をついたとき、近衛の皆さんはひまわりの花びらのように外に向かって倒れていた。気絶しただけ。二人とも優しいねえ。


「お二人どーして息ピッタリ?」

「トランドルの身内であれば、誰とでもタイミング合わせられるわよ?」

「うそ!私できない!」

「お嬢は完全に個人戦だよなあ……まあ無理だ」


私達は大股に倒れた兵を跨ぎながら歩き出す。

「お父様、今日のご予定は?」

「まだ予算が組めていないので仕事に戻らねば。それもこれも市街地でドンパチするバカがいるからだ。いい加減放り出してしまいたいところだが、民のことを思うと致し方ない。セレフィーとゆっくりしたいのだが、はあ」

「私もまだ戦闘中の身。全て片付けてからグランゼウス領でゆっくりいたしましょう?」


「ちょ、ちょっと!止まりなさい!」

「待たれよ!」

私達は外野の騒ぎを気にもとめず、出口に向かって歩く。


「実はね……買い出しに市場に出ていたマツキが戦闘中の火弾で足をやられてね。療養中なんだ。だから大したもてなしもできない。すまない、セレフィー」


『なん・だと?』


一気にルーから殺気が吹き出す!幻術の意味ないじゃん!


「ひっ!ひえええええ!」

「ギャー!」


同席した貴族連中が床にへばりつく。


「が、ガードナー!早く、早く、あなたがセレフィオーネを説得するのです!」

肘掛に縋り付いたまま、王妃が喚いた。


「せ、セレフィオーネ様!」

玉座の袖からガードナー王子とセシルが現れた。走りやってきて、私の足元に跪く。


「ガードナー!そのようなものに跪いて、どうするのですか!」

王妃がとうとうキンキン声になった。うるさい。


「セレフィオーネ様、この度の不始末、誠に申し訳ありません!」

「……お久しぶりですね、殿下。陛下に呼び出されたので来てみたんだけど……陛下はご病気のようね。ご自分のこともお分かりになっていないみたい。一体誰がいつから陛下の名を使い成り代わって政を行なっているのかしら?」

「私は……申し訳ありません……」


「ここ数年天候が安定し、それぞれの領主も代替わりするタイミングではなく、問題なく平穏に統治していたからバレなかったってとこ?この状態の陛下を引っ張り出してくるなんてなかなかのチャレンジャー。()()にも直接話しかける輩なんているとは思わなかったのねえ」


祖国というのに……いつも裏切られる。今世でも私はジュドール王国を愛せない。でも我がグランゼウス領も我がトランドルも間違いなくジュドールの一部……悔しい。


「領主様、御用もお済みのようですので戻りましょう。我々に無駄な時間などありません」

ササラ姉さんが私の目を覚ましてくれる。私は小さく頷いて、帰ろうとする。

「待って!頼む!5分だけでいい、話を聞いてくれ!デビルイノシシのよしみで!」


ガードナー殿下にとって、あれはよしみができたひとときだったのだろうか?ちょっと面白くて思わず足が止まる。


「トランドルに起きた惨事、お見舞い申し上げます。聞けば敵はシュナイダー。我々と同じ。我々と手を結んではいただけないでしょうか?」

「………殿下……それ本気で言ってますか?」


私が嫌悪感をあらわにしてガードナー殿下を見つめると、殿下はどこか恥じ入るように下を向いた。


「セレフィオーネ嬢、あなたはガレでガードナーに民のためをまず考えよと説いたそうね?トランドルとガードナー殿下が手を組めば、敵は尻尾を巻いて逃げ、民への被害が少なくて済む。あなたの理想になると思わない?うふふ」


王妃がようやく自分の思った展開になったとばかりに楽しそうな笑みを浮かべる。


「セレフィオーネ様」

セシルが深く頭を下げる。これ以上ガードナーをいじめてくれるなってことか。確かに下っ端をいたぶるのはトランドルの主義に反する。


私はクルッと振り向き王妃をみやった。


「トランドルは卑怯な手を最も嫌う。まず、王の名を騙り私を呼び出したことに虫唾が走る。とりあえずこの場にいる全員に陛下の御病状を事細かに説明してもらえて?

次に我々のシュナイダーとの戦争理由は領地の侵害への報復。お家争いとは全くの別次元というのに勝ち馬に乗ろうという根性に吐き気がする。

最後に手を組むとは対等の戦力を持つもの同士の行為。トランドルの10分の1の戦力も蓄えていないくせになぜそうも偉そうに提案できるのか、不思議でならない。民への被害?トランドル単独のほうがよっぽど伝達に間違いが出ず、最小限で済む。よく知らない魔法師と手を組むなど足をひっぱられるだけ。王妃、あなたはまったくもってナンセンスだわ」


「このー無礼者め!」

大勢の高位貴族の前で辱められた王妃様が激昂した。


「母上!」

ガードナー殿下が王妃と私の間に入り、手を広げる。


「セレフィオーネ様は、トランドル領主であるだけでなく、ガレの次期皇妃!ギレン陛下がセレフィオーネ様に自分と同等の権力を渡しているのですよ!立場的には母上と同等かそれ以上。母上の物言いこそ改めた方がいい!セレフィオーネ様はあなたが普段コロコロと振り回すご令嬢の一人ではないのです!宰相、私の言う事は間違っているか?」


「いえ……殿下のおっしゃる通り……」

「ガードナー、わたくしに口答えするの?宰相!」

「王妃様……トランドルは扱いが難しい、放っておくのが最善と申し上げましたのに……放っておけば、我々に口出しすることはないと……」


「こんな小娘に何ができるというの!私が優しく話している間に言うことを聞けばいいものを。最後の手段です。私だってこんなことしたくないのよ?連れて来なさい!」


「王妃様!」


「為政者とは時に非情にならねば国は治められぬ。近衛騎士団長!急げ!」


私がシラけた顔で成り行きを見守っていると、大柄の若草色の髪の毛の男が同じく若草色の髪の毛の女を後ろ手に縛って引きずり出してきた。


私は茫然と目を見張った。キャラメル色の目と目が合った。

「セレフィー!」

「アルマちゃん!」



ようやく登場アルマたん!ようやくだいたい出揃いました。


次の更新は週末です。

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