表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/173

107 王城に赴きました

トランドルの漆黒の馬が引く、紫檀で作られた漆黒の馬車で登城した。御者兼従者は何故かギルドでトーナメント大会が行われ、引きのいいコダック先生が優勝しゲットした。まあまあ戦争中だよね?私達?


顔パスならぬ馬車パスで城門を抜け、城の車停めに停まる。

コダック先生がうやうやしくドアを開け、まず、ササラさん、そして私が先生に手を添えられて、降りたつ。私の肩にはアス、脇にルー、胸元にプレートとともにポケットミユがそろい踏み。ガッチガチに幻術をかけている。もし見えたら大したものだ。


目の前に、今世で一番カッコよくて、一番ハンサムで、一番優しい人が、家族にだけ向ける温かい微笑みを浮かべて待っていた。2年ぶりだ。


「お父様!」

「セレフィオーネ……よく戻った……」


私達は場所が場所だけに、控えめに抱擁した。互いの両頬にキスをする。

「私のセレフィー……やっと会えた……」

「お父様……お父様……」

お互いしか聞こえない声で囁きあう。涙目のお父様が、

「嫌なことはサッサと済ませようか?」


今日はお父様、グランゼウス伯爵は後見、そして同盟を結ぶ領主として付き添ってくれる。お父様とササラ姉さんとコダック先生。そしてルーとアスとミユ。何も怖くない。てか無敵?


お父様がスッと人差し指で防音魔法をかける。


「ルー様、アス様、重ね重ねセレフィオーネをお守りいただきありがとうございます。そしてミユ様、はじめまして。父のアイザックと申します。セレフィオーネを今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

ルーとアスがウンウンと頷く。ミユはちょっと頰を赤らめるとピョンっと私の胸元からジャンプして、お父様の頰にキスをして、再び私の懐に着地!10点!


「なんと……」

ミユめ!イケメン好きとは聖獣になってなお乙女か⁉︎レンザくんにチクっちゃうぞ⁉︎

「お父様……まあミユからの祝福です」

「恐れ多きこと。ありがとうございます!では、セレフィオーネ、行こうか?」

お父様の肘にそっと手を添えた。お父様、大好き!


「おばあさまは?」

「皆のお陰で順調に回復しています。とにかく睡眠を取らねばならぬと小龍様が仰りました」

「そうか、何か手伝えることがあれば遠慮なく言っておくれ。おばあさまは私にとってももはやかけがえのない唯一の親なのだ」


入城した。



◇◇◇




「グランゼウス伯爵、並びにトランドル領主、セレフィオーネ・グランゼウス、ご入場!」

私とお父様の前でうやうやしく大きな扉が開く。

「ほお」

パパンが行く先に待ち構える両脇の人々の顔触れをみて、目を細めた。

「公爵、侯爵、大臣、数は多くないものの国の主たるメンバーが揃っている。ひと所に……危ういな」


私はジークじいとお兄様、ギレンに伝令を飛ばす。用心しすぎて困ることはない。おばあさまの教え。


私はお父様にエスコートされ、背筋を伸ばし、ジュドール城のメインと言える大広間に入る。後ろにササラさん、その後ろにコダック先生が続く。


我々を見て皆息を飲む。

私はマーカス商会で準備した、グレーのパンツスーツドレスである〈忍び装束グレー〈改〉〉背中には生地より少し明るい色目の糸でトランドルの小龍様の紋章をデカデカと刺繍した。派手さはない。しかし誰の目にもはっきりと目に入る。そして左腕にはガレの紋章とガレでギレンに授かった私が皇妃となるあかつきの御印、夏みかんの花が白く咲いている。そこにジュドールはない。私はおばあさまに教わった通りの完璧な化粧をし、髪はおばあさまの髪留めで甘さなく、留めた。


ササラさんは私と色違いの〈忍び装束ブラック〈改〉〉黒の衣装に金髪がまばゆい。

コダック先生はお仕着せっぽい仕込み満載の黒服。どちらも背中にトランドルの紋章を背負っている。

全員が黒の長靴(ちょうか)でカツカツと大股で歩く。


パパンも隙のない黒のスーツ。鼻に付くくらい明るい色調の人々がたむろす空間に、黒とグレーの私達はなかなか不吉だ。




数段高い床の間?の玉座に、王と王妃が座っていた。

今世初めて見た王は……ガードナーによく似ているものの、小説の前世と違い、ぼんやりと視線を彷徨わせていた。あんなに血気盛んに兵士を激励していたのに、あの覇気はどこに行ったの?


そして、王妃、相変わらず美しい。贅の限りを尽くした金色の衣装を身にまとっている。この人も年齢を感じさせない。前世では敵でもなかったけれど、味方でもなかった。この人にとってはガードナーが王になりさえすれば、結果オーライなのだから。


段の一番下にたどり着くと、そこにはジュドール王国宰相マイケルが立っていた。60半ばで白髪まじりのこげ茶の髪の王妃と共に国の実権を握る男。私の邪魔さえしなければ別に興味ない。


お父様、ササラさん、コダック先生が静かに跪く。私?もちろん立ったままだけど?


宰相が片眉をあげる。

「セレフィオーネ嬢、いささか頭が高い。田舎暮らしで礼儀を忘れたか?」

「私はトランドル。なぜ自分よりも弱い相手に膝をつかねばならない?」


ざわっ!!!


トランドルは忠誠を誓った相手にしか跪かない。ガインツおじいさまとおばあさまが強さを認め仕えたのは先代の王。おばあさまも今代王に膝をついたことなどない。と言うか会う気もなかったようだ。

私が膝をつくのは……愛する聖獣三柱と生涯敬愛するキラマ様と……ギレンのみ。


この場にいる、ジュドールの歴史を知る心づもりのあるものは知識としてはそれを知っている。ただ実際それを見るのは別問題。皆息を飲む。


「……さはさりながら、長幼の序というものがあろう。不敬であると思わぬか?」

「お互い尊重しあう間柄ならばそのような思いもありましょう。ですが、私は王族の皆様方のとばっちりで死にかけた身、もはや礼儀を尽くそうという気も失せましたわ。今日参内したのは召喚に従ったわけではありません。煩わしいお披露目を一度で済ませる機会だっただけ」



場を取りなすような上品な笑い声がこだました。


「おほほほほ、面白い姫君だこと。そのくらいの気概がなくてはねえ?セレフィオーネ嬢?先日はうちの息子がお世話になりました。とっても有意義なひとときだったと、私に教えてくれたの。ギレン陛下とあなたと十分な親睦をはかれたと」


「…………」


「この謁見の後、ささやかななものだけれど歓迎の宴を用意しているのよ。あなたのこと、よく知りたいわ」


『おばさん、うるさいね』

ミユたんもうちっと我慢してね?はい鑑定!


赤く!光る。

クラリッサ・ジュドール(ジュドール王国王妃)

状態 : 良好

スキル : 火魔法、土魔法、狡猾


鑑定を作って初めて赤の光りを見た。赤は悪意。でも見えたからって、どうしようもないものだな、とここに来て気がついた。そもそも警戒してるから鑑定するわけだしね。スキルで狡猾って、これまでどんな黒い策略に手を染めてきたんだろう。


私が黙りこくっていると、


「セレフィオーネ嬢、王妃殿下が恐れ多くもお尋ねになられているのだぞ?答えたまえ!」

私はまっすぐに陛下を見つめる。


「陛下、今日私は陛下の名であったゆえに一応の敬意を見せようと戦闘中という非常識なタイミングであるにもかかわらず、興味が湧いて立ち寄ったのです。早々にご用件をおっしゃられませ」


「…………」


直接立ったまま話しかける私に不敬だと口々に怒声が発せられた。

そして……なんの反応も示さず虚ろなままの陛下に……その場の高位貴族達が騒然とし、皆王に向かって身を乗り出す。


鑑定!


青く光る。


トーマス・ジュドール ( ジュドール王国国王、E級冒険者)

状態 : ヤム草による中毒、心神耗弱

スキル :四魔法、光魔法


『……中毒だな。王はもはや何もわかっていない』

『ここまで過ぎると……回復は不可能、光の使い手だというに……』


ヤム草の毒では死なない。徐々に心身を蝕み生ける屍となる。日本の前世でいうなれば麻薬。

一体いつから……誰が?王妃?それともシュナイダー?


「お父様……」

パパンも険しい顔をして、静かに立ち上がった。

「いや……知らなかった。三年前、最後にお会いした時には、小さく頷くくらいはおできになった……」


この姿はさすがに……胸が痛む。一瞬で天国に行けるマレ蜂の毒が優しく感じる。



しかし、陛下が私を呼び出した訳ではないとわかった。

私はジュドールで育ったものとして、小さく頭を下げ祈り、この場を去ろうと回れ右をした。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ