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104 トランドル領主になりました

おばあさまに全力でおまじないを浴びせまくった。

「痛いの痛いの、苦しいの辛いの、ぜーんぶマリベルに飛んでいけー!」


おばあさまの寝息がスヤスヤと安定し、顔に刻まれた深いシワが幾分薄くなったのを確認し、お父様とお兄様とギレンとエリス姉さんに蝶を飛ばす。アスも飛び立った。一旦ギレンのもとに報告に帰ったのだろう。マルシュと違ってジュドールとガレは近い。すぐ戻るはず。


おばあさまを、おばあさまを愛する側近達に託し、朝露に濡れる草の上をルーに跨り走り、私の古巣であるトランドルギルドに向かう。





ギルドには懐かしい主要メンバーがズラリと顔を揃えていた。トランドル冒険者の一番油の乗った実働部隊。そして古参の各所に顔の効く大幹部……私にとっては甘やかしてくれるおじいちゃんおばあちゃんたち。


「セレフィーちゃん……お帰り……ごめんね、エルザ様をお守りできなくて……」

ララさんがポロポロと涙を流す。私は首を横にふる。


「お嬢……って領主様か、言いづらいなあ……でもマジで、お帰り!」

「マットくん、領主様なんて言われたら老ける!今まで通りでいいし」


領主はあくまで一時的。おばあさまが復活したら熨斗つけて返すつもりだ。おばあさまは絶対に元気になる!もちろん戦争が終わってからだけど。士気に関わるからここだけの話。


「そうか……お嬢、頑張ったな。」

「コダック先生……ありがとう……」

私がコダック先生の大きな腰周りに腕を巻きつけると先生は私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。


「お嬢……すまない……」

「どうしてギルさんが謝るの?」




ギルド長が私に上座を譲る。重い。ルーは私の足元、ミユは胸ポケットで待機。ガッツリ幻術済み。このメンツには見える実力者がいそうだけど、今は〈契約者〉云々説明する気分じゃない。


「姫、皆揃いました。早速ですが今回のエルザ様への攻撃、どう考えられる?」



「まず、昨夜の襲撃の実行犯、シュナイダー一派だと吐いたから」

例え姿が見えなくても、ルーに本気で凄まれて、動物の本能として従わないという選択などない。恐怖に凍りついてゲロった。

私がかつて、タール様に睨まれたときと同じだ。



「私、今回の内戦、とっととトップ同士でケリつけてよって思ってた。

おばあさまがやられてわかった。シュナイダーもそう思ってたんだって。でもシュナイダーにとって敵のトップはガードナー殿下なんかじゃなくて、おばあさまだったのよ」


おじいちゃんおばあちゃんたちの瞳がギラリと光る。おばあさまと共に一つの世代を駆け抜けた皆、表情は固く……怒り狂っている。


「今や軍以上の実力を持つトランドルの私兵と忠誠を誓った冒険者達。そして自身も強者であるだけでなく百戦錬磨の軍師。シュナイダーの意に沿わぬものとしてトランドルが最強だった。きっとこの2年でトランドルの怖さと影響力を思いしったのね。もしガードナー殿下を殺し、後継者となったとしても、いずれ必ずトランドルが立ち塞がる。トランドルに比べれば、ガードナーの軍団など恐るるにたらず」



「でも、いかに最強といえど、頭がやられたらガタガタになる。おばあさまがいないトランドルならなんとかなる。たまたまなのか?呪いという手段が手に入った。おばあさまを殺してから安心してガードナーを潰そうってとこだったんじゃないのかな。で、おばあさまが虫の息になったところを狙って攻撃」


目を閉じて話を聞いていてくれたジークじいが頷いてくれた。私の考察、合格点?


「実際、おばあさまがいなくなったら、これまでのように統率が取れていたかわからない。私も正常な判断ができる状態だったかわからない。私達、ある意味敗北寸前だったのよ。そしておばあさまを、トランドルを落としたシュナイダー殿下はその実力を突きつけて、あっさりガードナーに王妃様に降伏を求めることができたでしょうね」


「エルザ様の気力が……私達を救ったのね」

ララさんがポツリと漏らす。それはまぎれもない真実。

「エルザ様……」


「そして、シュナイダーが個人的に葬りたいのは私。おばあさまの私への影響力は計り知れない」


おばあさまが死んだら、私は怒りやら後悔やらで狂ってしまっただろう。多くのトランドルの民が同じ想いをし、混乱のなか、めちゃくちゃな戦いになった。



……ラルーザ、セレフィオーネ、よく覚えておきなさい……


『自分の力を過信しないこと、敵の正確な情報を把握すること。緊張感を持つこと。二人とも、よく覚えておきなさい』


『常に最悪の最悪を想定しておくに越した事ないわ。楽観はダメよ?セレフィーちゃん。知られている前提だと、より慎重になれる』


『……セレフィーが私を守るように、私も……全力で聖獣ルー様と、セレフィーを守りましょう。ルー様と、契約者セレフィオーネ様に我が忠誠、命、全て捧げます』


…………





「緊張感を持って、冷静に、慎重に、そして徹底的に、叩き潰す。シュナイダーは強いからね!決して侮らぬこと。!全ての指揮系統に連絡して。シュナイダーの拠点全てに潜らせて。まず兵站を止めて、我々の開戦前にやる気のない駒をふるいにかけて落としとこう」


ジークじいが後ろに控える若手に指示を出す。



「でもさ、呪いなんて……流石のエルザ様もわかんないだろ?反則だ。そんな技さえなけりゃ、俺たちは今頃も通常営業だったんだ。目に見えず仕掛けられてジワジワやられるんだろ?これからどーすんだ?」

マットくんがモヒカン頭を抱える。首からゴールドのプレートがのぞく。へえ!


「一応呪いは返したから術者は同じ手はもう使えない。でも、別の呪いを考える可能性もあるよね」

楽観は禁物!


「沼の小龍様にお願いしてみる。呪い探知機になってくださいって」


ミユの存在は一応秘匿。まあチビヘビ時代みんなにビビられたのちに可愛がられてるけどね。ここはミユの故郷、自分から出張る分には止めん。

小龍様は沼の主としてトランドルの敬愛の対象。みんな見えるし話に出しても問題なし。


「小龍様って、あの、ゴールド脱け殻の神様!!!」

ララさんがちょっと元気になった。


「随分と……舐められたもんだな」

コダック先生が絶対零度の表情でつぶやく。コダック先生は私と同様、前回シュナイダーにコテンパンにやられている。私達、二度も許さないよね?先生。




「正午、姫のトランドル領主継承を王宮、有力貴族、各地の領主、そして全世界のギルドに宣言する。そして昨夜、トランドルが奇襲を受け、これから正当なる権利としてその首謀者一味に報復することを同時に通告する。時を置かずして、ギルドはシュナイダーと軍の武器庫を全爆破。各自準備にかかるよう、伝達!」


私とギルド長以外全員が立ち上がり、黙礼して去った。




◇◇◇




「皆、私みたいな若輩が領主を名乗って怒ってない?」

「はっはっ!何を今更。姫が領主になるのは必然。若さゆえに足りない部分は我らがビシバシ寄ってたかって鍛えるのみ!」

そ、そこは、足りない部分は補います、でいいんじゃないのー!


「しかし……マリベルとはあの時の小娘じゃろう?思えば姫はあの小娘を気にしておったな……。二度も我らを狙うとは……殺しておくべきだった」


ジークじいはもはや本気を隠さない。ずっと背中に竜巻が見えてる……


「マリベルは予測不可能な因子なの。今回のように突然呪いなんて術を習得してしまう。シュナイダー同様くれぐれも侮らないでね」


「御意」



「ジークギルド長……昨夜はごめんなさい」

ジークじいがゆっくり首を振る。

「呪いとは……気がつけなかった。それこそガインツに呪い殺されるところだった」

「…………」

「姫……よくぞお戻りになられた……間に合って……良かった」


ジークじいは私の両手をシワシワの、でも固い手のひらで包んでくれた。

あったかい。



「ギルドはジークギルド長とこうやって連絡取るとして、おばあさまの私兵と草の意向を聞いときたい。早急に連絡取りたいわ。オークスとやりとりすればいい?」


ジークギルド長がにっこり笑った。

「通常であれば家令のオークスで問題ないんじゃが、今オークスはエルザの側をいっときも離れたがらんでしょう。うってつけの連絡係がおります。すぐ呼びましょう」



◇◇◇




「セーレフィー!」

「サ、ササラさん!!!」


明るい太陽の瞳のガーベラのようなササラさんに、私は直線ダッシュで飛びついた!






次回更新は週末予定です。

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