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8 強制労働

 芳しい花の香りにつられ、目を開けば一面の花畑。


「んん? なんだ? ここは一体……」


 記憶の全てにもやがかかったように何も思い出せない。

 だが一つだけ思い出せた。


「うふふ。」


 目の前にいるハルピュイアの事だ。

 フクロウのような瞳をしているが、その顔立ちはまるで絵画から飛び出したかのように美しい。

 そんなハルピュイアが寝転がる俺の真横で俺を眺め微笑んでいる。


 そうだ。

 確か俺はモンスターとイチャイチャできる世界に飛ばされてハルピュイアを手に入れたんだった。


 そっとハルピュイアの頬に手をのばし、そのまま髪を撫でる。

 ハルピュイアはむず痒そうに顔を動かし、俺の手から顔を逃がす。


 その仕草に俺はまるで子供のような悪戯心を覚え、もっと撫でたくなり両手を伸ばす。

 するとそれを察したハルピュイアは微笑みながら起き上って逃げ出し、俺も立ちあがって追う。


「あはははは。まてよ~。」

「うふふふ。」


 ハルピュイアの走るスピードは遅く、俺はすぐに抱き着くように捕まえた。


「ほうら捕まえた! よしよしよしよし。」

「ふふ。やだぁ~。」


 髪を撫でる俺に、ハルピュイアは気持ちよさそうに嫌がる素振りをみせながらも身を任せる。

 調子に乗ってお姫様抱っこをしてみると、その身体はとても軽かった。


 だが、乳はデカイ。


 お姫様抱っこをしていると手に柔らかさを感じた。

 うん。ハト胸!

 つい。指先を伸ばして動かし、柔らかさを堪能する。


「んもう。えっち。」

「おぉっと。」


 悪戯っぽい笑みを浮かべハルピュイアは俺の腕から飛び降り、再び逃げ始める。


「おぉい、待てよ~。」

「うふふふ。捕まえてごらんなさい。」


 ふわりと羽を羽ばたかせ地上から離れるハルピュイア。

 近づくと背を向けて離れ、少し距離をとっては振り返る。


 俺の視線はハルピュイアに背を向けられると尻を追う。そして振り返りそうになると顔に向く。

 なんてたまらない姿なんだ。


 我慢が限界に達し、俺はジャンプしてハルピュイアに抱き着く。

 もちろん顔を胸に埋めることは忘れてない。


 さぁ、この後はもう分かっている。だって俺は限界だ。

 なんせハルピュイアは履いt――



「――これから何をするつもりですか?」


 自分の両頬にほどよい柔らかさときぬの感触を盛大に感じながら、頭上から聞こえた美しい声に目を向ける。


「ンフー」


 自分の喉から、まるでパソコンのエラー音のような音。そして盛大な鼻息が出た。


「あぁ、ナニをするつもりでしたか。

 どうぞ。私は別にかまいませんから。」


 見上げて目に入るのはくちばし。そして狼の顔。


「ンフ!」


 とりあえず今見た物が誤解である事を願って、再度高いエラー音を出しながら、胸であろう所に顔をうずめる。


 柔らかい。

 この柔らかさはきっとハルピュイアの胸なんだ。オッパイなんだ。今見たのが見間違いなんだ。


「ナニをするのも構いませんが、まだちょっと片付けの途中なのでそれが終わってからお願いしますね。」


 声の主に力ずくで引きはがされると、声の主の顔が目に飛び込んでくる。間違いなくくちばしのある狼だった。


「ンフっ」


 ショックの余り再度エラー音を漏らしながら、今見た物を信じたくない気持ちから両手で顔を覆う。


 何がショックって、色々ありすぎて全てがショックだった。だが、とりあえず一番ショックだったのは、綺麗な声でイイニオイがしてオッパイが柔らかいのにブスってことだ。そして、そのブスのオッパイでマイサンがとても元気になってしまったということ。さらに『ナニしてもいい』と言われて『え、やったぁ!』とちょっとだけ思ってしまったことだ。もう死にたい。


「ンフっ、ンフっ、ンフっ、ンフフフ……」


 やばい。泣けてきた。

 もう涙が止まらない。

 お願いボクの息子を鎮めて。もう立ち上がりたくないの。


「どうしたんですか? 未登録ユーザー様? 大丈夫ですか?」

「グフっ、ンフっ、ングフフフ!」


 声をかけて来たのは可愛いのについてる子だ。

 その一点の事実に一層涙の勢いが増す。


「はっはっはっはっは! 寝起き号泣とは斬新だな未登録ユーザー殿よ。はっはっは!」

「どうせまたくだらねぇ事で泣いてんだろ。」


 牛とゴミの声に俺はようやく自分が夢の世界から引きずり戻された事を理解した。

 あのまま夢の中でハルピュイアと戯れていたかった。戯れていたしたかった。

 悲しい。悲しいなぁ。


「ンンングフフフフ!」


 涙が止まらなかった。



--*--*--



「はー……」


 泣き疲れて冷静になった。

 声をかけてくれた皆は、俺が泣いている間にゴブ野郎の『いーからほっとこうぜ。忙しいし。』の声で作業に当たっている。


 ゴブ野郎はハタキを持ってパタパタ動かし、ツムリンはヌルヌルと雑巾がけ、ボナコンはどうやら外で草むしりをしているようだ。草むしりなのか草食いなのか不明だが、みんな作業をしている。

 そして一際テキパキと指示を出しながら家事に勤しんでいるのがくちばし狼ことキキーモラだった。


「……みんな何してんの?」

「余りにヒドイ状況でしたので見かねて掃除をしてます。」


 代表したのかキキーモラが答える。

 ツムリンに目をやればコクコクと頷き笑顔をみせた。


 いや、この中で一番強いのアンタでしょうが。ツムリン。アンタがリーダーシップとりなさいよ。


「未登録ユーザーさんも目が覚めて落ち着いたなら手伝ってください。

 それとも何かお仕事がありますか?」

「え? なんで俺が?」


「あなたが住む家でしょう? 自分で管理しないでどうします。ゴブリンの背の高さじゃあ届かない所があるんですから暇なら変わってあげてください。ゴブリンはその身長を活かしてハタキ終わった箇所の私達の目の届かない所の掃除をお願いします。」

「うぇい。」


 ゴブ野郎が諦めたような声を出した。

 どう聞いてもやる気はないが諦めて従っている声だ。


「俺? 俺が掃除すんの?」


 キキーモラが呆れたような顔で首を傾げ、腰に両手を当てる。


「今なにかお忙しいんですか? そうには見えませんけれども。」

「いや、確かに忙しいかどうかって言われたら別にアレだけども……」

「じゃあ、ほら、さっさと動いてください。」

「えぇ……俺ってご主人様的な立ち位置じゃないの?

 それにホラ。あれだよ。なんていうか参謀とか頭脳とか、そういう立ち位置に居るわけじゃない? 俺。掃除は俺の仕事じゃないと思うんd――」


 滔々と言い訳を重ねていたら、いつの間にかキキーモラがすぐ目の前にいて声が詰まった。

 キキーモラがぐいっと狼の口角部分を吊り上げる。笑顔を作ったつもりだろうか。

 異様な雰囲気に、なんとなく手を小さく上げ、両手の平をキキーモラへ向ける。


「未登録ユーザーさん。

 私は別に私の身体を弄ぼうが殴ろうが引き裂こうが、そんな事に別に反応はしません。興味ありませんから。

 私が興味を持つのは、家事。炊事洗濯です。機織りが出来れば最高です。これが出来れば夢見心地。もう何も要りません。」


 キキーモラは両手のジェスチャーを使い。

 にこやかに俺に説明をしてゆく。


 俺は両手を小さく上げたまま何度も頷く。

 なぜか物凄くプレッシャーを感じるからだ。


「あぁ……もう一つだけ興味を持つものがありました。

 私。『怠け者』が大嫌いなんです。それこそ見つけ次第……食いちぎってしまうほどにね。」


 そう言って、嘴をひらいて見せた。


 わーお。

 嘴なのに、肉を噛み切れるように牙つきなのね。なにそれすごい。


 俺は笑顔を作り、キキーモラも嘴を閉じてニッコリ微笑む。


「さーて! 一掃除するかな! 俺、お掃除大好き!」

「結構です。」


 顔で笑って、心で叫び続けた。


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