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7 負の連鎖


「ふむ。我は牛なのか。はっはっはっは!」

「見まごう事なき牛っぷりですとも!」


「はっはっはっは! そうかそうか。それはいい。ところで『牛』とはなんぞや?」

「鏡見ろや!」


「はっはっはっはっは」


 一笑い毎に顎を大きく動かすような面倒くさい笑い方、尚且つ腹に響くほどに大きな笑い声をあげるたてがみ牛。

 賢い俺はコイツと話してすぐに理解した。俺の怒鳴り声に対して笑って返す余裕。まるでアナウンサーのように一文字一文字を間違える事なく完璧にゆっくりと話すような話しっぷり。筋肉モリモリマッチョメンを思わせる裏の無さそうな明るさ。


 この鬣牛は根明の『脳筋』であると。


「はっはっはっは。ふむ。鏡を見よう。ところで『鏡』とはなんぞや?」 


 そしてさらにアホだ。


 ゲームの中でも何度となく見ている。

 レアリティ『R』のボナコン。

 攻撃や体力が優れていて最初の頃はよく使ったような気がする。だけれど、所詮は『R』中盤以降の出番はなかった。


 俺は仰向けに倒れ、天を仰ぎ顔を覆う。

 ハズレだ。


 通常ガチャで出てくれば、まぁRの中でも使えるボナコンは当たりだっただろう。だが俺が回したのはレアガチャだ。レアガチャにおいて通常ガチャでも出てきそうなモンスターを手に入れるなんていうのは明らかにハズレと言っていい。


 当座の戦力としては良いかもしれないが、レアガチャで手に入るのは長期に渡って戦える戦力。

 そしてできれば俺の欲望を満たしてくれるモンスターが良かった。


 倒れたまま顔だけ起こしてボナコンを見てみると、なにやらゴブ吉やツムリン達とキャッキャしては「はっはっは」と笑っている。


 その様子に頭を持ち上げていた首の力も消える。

 俺はカタツムリと牛を主戦力に戦うのかぁ……


 このゲームではバトルメンバーは4人。3人の主力メンバーと助っ人が1人。そして仲間がやられた時に交代で出てくるサブメンバーが2人で、プレーヤーは5人セットで編隊を組む。


 ストーリーを進めていけば、コインが手に入り通常ガチャを回して、ノーマルやレアのレアリティで編隊を組むこともできるだろうが、ストーリーは途中からノーマルやレアだと進めるのが困難になる。

 その理由はもちろんプレーヤーに課金してもらう為だ。


 モンスターの覚醒進化や強化なんかにもコインは必要になるし、今は食費なんかにも必要になる。となると最初からガチャを回して出てきたやつを強化する方が効率はいい。

 だが、俺は効率よりも男のロマンを求めている。


 男のロマン。

 それを今言うのであれば『エロコス』だ。


 エロコスはいい。

 そこにはすべての男のロマンが詰まっている。


 だが一口にエロコスと言っても、その奥は深い。

 そもそも男は『見えるパンツ』よりも『見えたパンツ』を神聖視する。

 ものすごい美人とブスが居たとして、ブスがひらひらスカートを履いて風が吹けば、男の視線は自然とブスに注がれる。『見えるパンツ』などという物には『別に見えてもいいか』『恥ずかしくないし』などという傲慢が透けて見え価値がない。対する『見えたパンツ』には『恥ずかしさ』であったり見せてはいけないという思想に基づく行動が見て取れる。男はそこにこそ価値を見出す。見えてはいけない物を見たい冒険心をパンツに求めているのだ。それを忘れてはいけない。男とはそういチャレンジングな生き物なのだ。

 だが、もちろん美女のパンツであれば、どちらであっても構わない。それらの冒険心を忘れるだけの価値がある。


 ……男とは常に何かしらの天秤を抱えたたまま綱渡りをする生き物。


 つまり今の流行を加味して考えられたSSRの過激コスチュームを求める一方で、昔から細やかな萌えコスチュームのSRも期待したりするのが男なのだ。


 ゲームでもSRの中には俺が大事にとっておいた『ハルピュイア』がいる。

 ふわりとしたワンピースを纏った腕が羽の女体のイラストだった。

 萌えに走る前の初期の頃からいたキャタクターだから、イラストに萌え要素は少なくモンスター然とした姿。パンツのかけらもない。


 だが女体でありワンピース。


 そして空を飛ぶ。


 その行動には夢とロマンが詰まっている。


 俺は願っていた。


 SSRの萌え女体が無理な場合は、せめてSRのハルピュイアをと。

 だがその願いの結果が


「はっはっはっは! 未登録ユーザー殿よ! いかがされた!」

「近いっ! 顔が近いっ!」


 ぬっと目の前に現れた顔を押しのける。

 だが押しのけようにも壁を押しているような錯覚を覚えるほどに力強く動じない牛。逆に俺が転がる。

 転がった拍子に起き上がり、改めてボナコンを見る。


 脳筋牛。

 臭いも獣臭い。


 この現実は受け入れるにはあまりにハードルが高かった。


 俺は無造作に駆けだす。


「未登録ユーザ様?」

「どうなされた未登録ユーザー殿。」

「おい、何する気だよ未登録ユーザー。」


 大丈夫。これは悪い夢。

 悪い夢なんだ。

 夢だから大丈夫。




 もう一回ガチャを回そう。



 ただし夢であってもエロコス確定10連ガチャの為に3000個を割り込むことは許されない。

 壁に近づき魔法石をジャラジャラと入れる。


「お? もっかい回すのか? なんだよ最初にめっちゃ使うのしぶってたクセによ。」

「わぁ、一気に仲間が増えるんですね。楽しみです。」

「ほう。よくわからんが目出度めでたいな。はっはっは。」


 『レア確定モンスターガチャ』の壁の前に青白く浮かぶ数字が『300』を指し止まる。

 その数字に向かって叫ぶ。


「どーーーーーかーーーー! ドォオーーーーカァーー運営様ぁっ!

 これまでの仕打ちは笑って流して見せますから! どぉーーーかぁーー次こそは女体を!

 女体をおねがいしますぅうううっ!!

 SSRだの限定コスだのなんてわがままは言いませんからぁ! せめて! せめてSRのハルピュイアをおねがいしますぅうぅっ!!」


「はっはっはっは。未登録ユーザー殿は欲望に正直なのだな。はっはっは。」


 後ろからオッサンの笑い声が聞こえるが気にしない。無視だ無視!

 精一杯の願いを唱え、一気にガチャを回す。


 またもゴロンとオーブが転がり出てきて手に取ると同時にヒビが走る。


「うぉおおおおっ! おんなぁあああああっ!」


 全力で魔法陣へと投げた。

 オーブが白い光を放つ。

 そして同時に稲光のような黄色の光が一瞬さした。


 この予告はSSRではないがRでもない。SRの確率が高い。

 もしかしなくても声に出して運営に願ったのが良かったのかもしれない。


「ハルピュイアーーー! あぁああああ! 運営様ぁー! どうかお願いしますぅぅううっ!」


 ボナコンの時よりも力強く両手を組んで祈る。

 SRが確定していれば、SSRほどに種類はいない為ハルピュイアが出てくる確率は高い。

 だが、他のSRのモンスターが出てくる可能性の方が大きいのだ。


「お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いだからハルピュイア!」


 光の柱が立つ。

 あまりの光量に耐えながら必死に出現モンスターを探る。

 やがて俺の目はスカートと思わしきシルエットを捉えた。


 あぁ、運営はいたんだ。ここにいたんだ。

 これまでのカタツムリや牛は、この時の為の前振りだったんだ。


 光が収まるにつれ徐々に明らかになっていくモンスターの姿。


 収まったことで、間違いなくスカートを着用している2足歩行の人型であることは確信できた。

 これだけで少し涙が出そうになる。


 やがてその姿が露わになった。


 新しいモンスターは魔法陣の中心へと舞い降りる。

 スっと中心に2本足で立ち、スカートの裾を持ち上げて挨拶をする。


「本当は裏方に居たかったのですけれどね……こうして呼ばれては仕方ありません。力をお貸ししましょう。

 私の名はキキーモラ。」


 俺はくちばしを持つオオカミの顔をした女メイドの挨拶を見て、とうとう耐えきれずに


 気絶した。


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