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6 無駄なところがリアルで辛い

「もういい。回そう。

 3000魔宝石確保していれば10連は回せるんだからレアガチャ1回くらい回そう。そうしよう。」


 初志貫徹。

 そんな言葉は知らん。


 というか、ムリなんだもの。ムリなんだもの。

 今の状況は辛すぎるんだもの!


「ぉお……最初からやってればよかったのにな。」

「あまりお役に立てなくてスミマセン……」


 呆れ気味のゴブ野郎とションボリツムリンを背景に、俺は革袋から一掴み魔法石を取り出し、ジャラジャラと『レア確定モンスターガチャ』へと投入していく。

 『98』と数字が空中に青白く浮かび上がり投入する毎に増えてゆく。

 300ピッタリまで魔法石を入れ、ありったけの力で大きく柏手を二度鳴らす。


「ドォーーーカァーー! ドォオオーーーカァーーーー!!

 強いモンスターを私にぃぃいーーーーー!!」


 叫びながらガチャガチャを回す。


 ガチンという音とともに、排出口からポンと召喚のオーブが出てきたので、慌てて手を伸ばす。

 持った瞬間にピイシっとヒビが入る。


「できれば女体をお願いしますぅううううぅっ!!」


 絶叫と共に魔法陣の方へと投げると洞窟はまばゆい光に染まった。



--*--*--



 ゴブ野郎の案内で、ツムリンと曜日限定クエストをやってみた。

 なにやら曜日限定クエストは、村の外の神殿にクエストの場所へと飛ぶことができる扉があるらしく、俺たちは神殿に足を伸ばす必要があった。


 はい。

 徒歩一時間でした。


 タップだとワンタップなのに、徒歩だと一時間なのな。

 正直「なぁまだ?」って何回ゴブ野郎に聞いたか覚えてない。


 そりゃ考えればそれくらい離れててもおかしくない。だって敵の魔物がいる場所につながる扉があるんだもん。向こうから開けて襲いに来る可能性だってあると考えれば村の中にそんなリスクのあるものは置けないわな。


 とはいえあまりのダルさにツムリンに肩車してもらってさっさと移動するってのも頭を過ったけど、流石にフル充電ショック療法直後だけあって遠慮した。


 なんやかんやで、ちゃんと自分の足で辿り着くと、まんまギリシアのパルテノン神殿ですねと言わんばかりの神殿。

 誰もいない神殿の中に入ると、中央にただの扉が4つ並んでおり、それぞれ観察してみると予想通り曜日限定クエストの超級者向け、上級者向け、中級者向け、初心者向けの扉。

 ただ、大規模レイドバトルの扉や、イベントの扉は見当たらない。

 無いのはストーリーを一切進めていないから、その影響かもしれない。


 だが気にせず予定通りに初心者向けの扉を開く。すると扉を境に霧が立ち込めていて先が見えない。


「よし。ツムリン。この先に木属性の最弱モンスターがいる。

 ツムリンの弱点属性は『金』だから問題ないと思うし、やってくれるか?」

「はい! お任せください! 未登録ユーザー様!」


「……そういえば名前変え忘れてたな。あとでちゃんと変えよ。じゃあ行こっか。」


 扉に貼りつくような霧をくぐると、予想通りチュートリアルで出てきた緑の仮面を纏ったパペットモンスターが3体待ち構えていた。すぐさまツムリンが襲い掛かる。


 予想外がいくつかあった。


 まず一番頼りにしていた『他プレーヤーの助っ人モンスター』がやってこなかった。

 これでだいぶ予定が狂った。


 このゲームでは他プレーヤーの主要キャラクターが助っ人として登録され、沢山の助っ人の中から最適なモンスターを選んでにバトルに参加させることができたのだが、今はそれができなかった。


 という事は、最強助っ人の力を頼りにゴリ押し作戦ができない。

 助っ人の高レベルを武器に敵の強さを無視した無双っぷりを発揮してもらうことができなかった。


 助っ人を選べるようならすぐに中級を開けてツムリンが倒れても助っ人の力でごり押し勝利で素材とコインウマー作戦をしようと思っていたのに、総崩れだ。さらに逆に空白になった助っ人枠を自力で埋める必要まである。完全に予想外だった。


 ツムリンのレベルはチュートリアルしか超えてないのだから当然1のまま。

 他に仲間もなく頼りにできる助っ人もない。ツムリン単独でのバトルはなかなかハードルが高い。


「え~い!」


 ツムリンの攻撃の声が響く。

 このゲームでは、はじめに現れた1~5体の敵を倒すと場面が進行し、新たに1~5体の敵が出てくる。そして倒すと、また次が出てきて、それを倒すとクリアとなることが多い。


 俺のゲームの記憶を頼りにするならば、ツムリンは単独で3体の魔物を3回撃破しなくてはならないのだ。

 助っ人もなく、レベルが1の状態だと無謀な戦いと言ってもいい。


「うぅ!」


 ツムリンが2体倒し、累積したダメージのせいか随分と辛そうな顔をしている。

 動くモーションも大きく変わっている。


 その様子を見てハっと気づく。


「あ。あれ瀕死のヤツや。アカン。」 


 ツムリンがなんとか攻撃し3体目を撃破する。

 もくもくと、それまで敵がいた所に霧が立ち込め始めたのを見て、行動を決めた。すぐに腹から声を出す。


「ゴブ吉! 倒した敵の落としたコインと素材を回収しろ! ツムリン! 新しい敵が出てくる前に逃げるぞ!」


「お、おう!」

「は、はい! すみません!」


 俺の指示に迅速に動く二人。

 ぶっちゃけ敵にやられたら仲間モンスターがどうなるか興味があった。ベースに瞬時に転送されるとかだと便利だからな。

 だが、安全である確証がない以上、戦力の低下は避けるべきだ。


 俺たちは無事に扉の霧をくぐり扉を閉め、完全に脱出できた。

 安全を確保したことで、ツムリンがその場でへたり込むように女の子座りをする。


「うぅう……スミマセン。ちょっと危なかったです……お役に立てずゴメンなさい。」


 涙目で謝罪を口にするツムリン。

 ぶっちゃけただ見ていただけの俺に対して文句も言わずに謝罪なんて、本当にできた子だ。男の娘だけど。


「いや。俺の方こそ無理をさせて悪かった。本当はもっと楽だったはずなんだけど予想外だった……」

「いえ、そんな! ボクの力量が足りなかったのが悪いんです。」


 ぶっちゃけ、もっと楽なメインストーリーを無視して、いきなりこんな所に来ている俺が悪いことに自分自身気づいているので、ツムリンの無垢な反省に良心が痛む。男の娘なのに。


「まぁまぁ。そうは言ってもコインは手に入ったぜ! ほら30枚だ!」


 チャラっとコインをツムリンに渡すゴブ吉。

 ツムリンは受け取ったコインをすぐに俺に渡してきた。健気だ。男の娘だけど。


 左手にコインを持ちながら、右手で拳をつくり口元に当て考える。


 受け取ったコインの枚数では何もできない。

 せめて後4~5回は戦いを続けたいところだ。だが、ツムリンの被害を考えると今日はもう戦わない方がいいように思える。

 戦いに負けたらどうなるかの検証は、レアリティ『N』のモンスターを仲間にしたら検証してみればいい。それまでは万が一を考えて安全マージンを取るべきだろう。


 となれば今日とるべき選択肢は……


「よし。今日はこれで十分だ! 帰ろう!」


「はい!」

「まぁ仕方ないよな。」


 ベースへ引き上げる事にした。


 一時間歩き家に辿り着き、其々に椅子や地面で一段落つくと、ツムリンの体力が一気に回復しているように見えた。きっとHPが全快したんだろう。


「ツムリン。体調はもう万全な感じ?」

「あ、はい。なんだか大丈夫そうです。」

「そっか。」


 原理はわからないけれど流石モンスターだ。わけわからん。

 そんなことを考えていると俺の腹が鳴った。


「おーい。ゴブ吉~。俺、腹減ったんだけど。」

「はぁ? 知るかよ。」


「……え?」

「『え?』ってなんだよ。」


「え? ベースって……メシとかないの?」

「そこまで面倒みるわけねーだろ……あぁでも、村にモンスターコイン集めてるゴブリンがいるから、そのゴブリンならコインを対価にメシくれると思うぞ?」


「まさかの有料!? ち、ちなみに一食何枚くらいかかりそうな感じ!?」

「15枚くらいじゃないか?」

「世知辛ぇ!」


 そこで気が付いた。


「まさか……ツムリン。」

「え?」


 俺の様子に戸惑うツムリン。

 だがその時ツムリンのお腹がきゅううとなった。


「お前もかーー!!」

「ひ、ひゃい!」



 大事な戦力が腹減りで動けなくなる事態を避けるため、手にした30枚で2食分の食事を手に入れ、ツムリンと食べた。ゴブ野郎に恵はない。

 食費という観念が生まれてしまった為、もう一度戦いに行くべきか考えていると結論が出ないまま夜になっていた。夜移動するのはゴブ野郎に止められた為、諦め、結局晩メシ抜き。


 夜が明け、朝飯もなく。

 俺はガチャを回して戦力を増強することを決めた。



--*--*--



「できれば女体をお願いしますぅううううぅっ!!」


 絶叫と共に魔法陣の方へと投げると洞窟はまばゆい光に染まった。


 光の色は白。残念だが高レアリティは期待できそうにない。

 だがSRの可能性はまだある!


「お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い!」


 両手を組んで必死に祈る。

 光の柱が立ち両目を強く閉じて光に耐える。

 だがなによりも早く、一体なんのモンスターが出現したのかを見たい。


 頼むから女体。

 いや、もうこの際女体じゃなくてもいいから、なんか役に立つヤツ!

 いや、やっぱり女体!


 光が収まり始めると同時にモンスターが姿を現す。

 そのシルエット見た瞬間に俺の膝は折れた。


「四つ足かー……」


 女体じゃないことがショックだった。

 期待できる確率ではないことはわかっていたが、それでもやっぱり期待してしまうのだ。

 『俺が引けば……出る気がする』という根拠のない自信があったのだ。


 だが、やはり根拠がないだけのことはあった。


 ただそれでも、崩れ落ちずに堪えられたのは、シルエットを見る限り立派なたてがみをなびかせるような獣の姿が見えたからだ。


 鬣と言えば王者の風格。

 もしかしなくても強いモンスターかもしれない。

 完全に光が収まり、その姿を見て俺は――



 とうとう四つん這いに崩れ落ちた。


「我は『ボナコン』力を貸そう。」

「牛やないかっ!」

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