表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/26

3 戦闘チュートリアル

 「違和感っていう物は働かないの? ねぇ、違和感という物は存在しないの?

 苗字が『未登録』なの? 名前が『ユーザ』ーなの? それとも、ミドルネーム形式で、ミトー・ロックユー・ザー なの? オカシイよね?」


 必死な余り大声になる。


「全然?」

「素敵です。」

「おいぃ!」


 二人には俺の怒声など、どこ吹く風だった。

 その時、ゴブ野郎が焦ったように声を出す。


「あっ! 大事な事忘れてた!」


 そうだ。俺の名前は大事な事だ。


「俺の村が危ないんだった! 村のピンチを助けてくれる人を探してたんだった!」

「そっちかよ。」


 ゴブ野郎は一人納得した素振りを見せた後、すぐさま俺をまったくもって信用の無いような目で見はじめる。


「……こんなんでも本当に召喚できたヤツだしなぁ……背に腹は代えられんよな……なぁ、頼む! 未登録ユーザー! 俺の村を救ってくれ!」


 手を合わせ懇願するゴブ野郎。

 俺はしっかりとゴブ野郎の肩を掴む。


「大丈夫! 安心しろ! どうせ俺達が向かうまでは何も起きないから! むしろ行った途端になんか起きるから! 今、問題になってるのは俺の名前! 名前の方! コレを解決しよう! ね!」

「えぇ……」


 ゴブ野郎が俺を信じられない物を見るような目で見た。

 でも、事実なんだもの仕方ないじゃない。


「た、大変じゃないですか! 未登録ユーザー様! すぐに向かいましょう!」


 ゴブ野郎の肩を掴む俺の肩をツムリンが掴む。

 グっと力のこもったツムリンの手の圧力に俺は悟る。



 コレ、抵抗しても無駄なヤツや。



 悟った通りツムリンに担がれ、ゴブ野郎の案内の下、運ばれていくのだった。



--*--*--


 ツムリンに肩車で運ばれながら諦めモード。

 だって、完全に戦闘チュートリアルに移る流れに飲まれてしまっているんだもの。


 それにしてもなんでおんぶじゃなくて肩車なんだろう? あれか? おんぶだとヌルヌルで滑るのか? それとも俺が揉むとでも思ったのか? それとも……後頭部で楽しんでいるのか?


「あぁっ! 村の前に魔物が!」

「大変です! 未登録ユーザー様!」


 村が目前に迫ったところで、立ち止まるツムリンとゴブ野郎。

 股間に後頭部の圧力を感じながらも魔物に目を向ける。


 うん。どう見ても最弱の魔物が5匹です。危機どころか日常的な光景です有難うございました。そしてご苦労様です。

 

 俺には分かる。


 この後、ツムリンが助っ人モンスターと共に最弱ザコ敵と適当に戦って、戦いながら属性関連の説明、そして必殺技の説明。終われば村に入って拠点の機能と装備の機能とか進化覚醒だのの説明攻めがやってくるんだ。


 あまりの面倒くささに、つい鼻くそをほじる。


 右の穴に突っ込んだ小指の爪先にコリコリとした固さを感じ、なんとか取り出そうと動かす。

 ツムリンが止まっているからこそできることであり、もし今ツムリンが動き出せば小指が鼻の奥を突き刺し血を見るだろう。俺が。なんというタイトロープダンス。


「……ん?」


 突っ込んだ小指のせいで逆に固い物体がちょっと奥に入り込んだ時、気が付いた。


 チュートリアルさえ乗り切れば俺の天下じゃねーか!

 確かゲームだと拠点の画面から名前も変えれたハズ!

 チュートリアルさえ終われば全部が全部俺主導に切り替わる流れじゃないか!


「おっし! そりゃあー大変だー。よーし、じゃあツムリン。やっちゃいなさい!」

「はい!」


 ツムリンが俺を捨てた。


「いってぇ!」


 物理的に。


 地面に転がる事になった俺はヤサグレ半分そのまま横になりながら雑魚魔物と正面から対峙するツムリンを眺める。

 今にも一触即発という雰囲気の中、ツムリンの横に、突然どこからともなく二つの角を持つ白い馬のモンスターが現れた。チュートリアルの助っ人モンスター『パイコーン』だ。


「助太刀しよう。」


 ツムリンは人型なのに、パイコーンは完全に『馬』。喋る声もとても男前なイケメンボイス。


 俺はしっかりとしたモンスターのパイコーンを眺めながら、このゲームも最初はきちんとしたモンスターを使う硬派な感じにしようとしていたんだろうなぁ……萌えを入れた途端に課金が増えたから、今の萌えゲーになったんだろうなと、しみじみわびさびを感じた。


 そんな事を感じていると戦闘が始まる。

 完全に俺はオーディエンス。観客の立ち位置にいる。


 ツムリンが『え~い』的な攻撃をするが、黄色の仮面をつけた雑魚パペットを一撃で倒せない。なんせツムリンのレベルが1だ。レアリティSSRと言えど最弱状態では苦戦して当然。

 パイコーンが角で水色の仮面をつけた雑魚パペットを攻撃すると、敵は一撃で消滅した。

 雑魚の攻撃をパイコーンがひらりひらりと躱し、ツムリンがまた別の茶色の仮面をつけた敵を攻撃し、パイコーンが赤色の仮面をつけた敵を攻撃すると、今度は一撃で倒せず踏みとどまった。



「パイコーンは『木』属性だから、水属性の敵には効果が抜群だ! だけれど火属性にはいまいち!

 属性によって弱点があるから、それをうまく狙う事が大事だ! ターゲットを指示する事で有効に狙う事ができるぞ!」

「はい説明台詞オツ。

 どうせ編隊を属性毎にお任せで組むか、好きなキャラクターでのゴリ押しになるんですけどね。」


 ゴブ吉が叫ぶように説明したので俺は労いながら先回りする。


「で、次は戦闘中はターゲットを指示する事で攻撃を集中させることができるんですよね。分かります。

 はい、ツムリンはヌルヌルのくせして土属性だから、火属性の赤い奴攻撃してトドメね。で、なぜかツムリンが雑魚の攻撃まとめて食らうから、パイコーンは手持ちの回復薬でツムリン回復。その後は何故か必殺技ゲージが一瞬で溜まるから、二人一緒に必殺技使って全体攻撃で殲滅ね。」

「えぇ……ちょっとぉ何ソレ……」


 ゴブ吉が変な声を出したが、戦闘はその通りの流れに沿っていく。


「ツムリンスタンプ!」

「二連刺しの刑」


 ツムリンが足を肥大化させスタンピングをし、パイコーンが勢いよく角で突き刺す。

 必殺技だけですでにオーバーキル状態だが、ツムリンとパイコーンは合わせ技を繰り出した。


「「緑の大地」」


 大地からの棘とその棘からの植物の棘による全体攻撃。

 あっと今に雑魚は殲滅し、戦闘が終了すると同時にパイコーンはどこかへと去っていった。


 ツムリンが嬉しそうに俺の下へと駆け寄ってくる。


「素晴らしい指示でした! 未登録ユーザー様!」

「はい。ツムリンおつ。

 ほらゴブ野郎。無事村を救ったから、村長に恩を売って拠点としての設備使用許可を貰いに行くぞ。

 貰ったら拠点の機能説明よろしく。流石に実際に触るのはまた勝手が違いそうだし。」

「えぇ……」


 戸惑うゴブ吉を連れ、ゴブリン村の村長ゴブリンに会いに行く。会話はタップ連打が如くひたすら何度も頷いていたら、やっぱり設備の使用許可が下りた。

 戦闘チュートリアルは終わったし、後は拠点のチュートリアルさえ終われば、もう俺のもんだ。自由だ。


 さっさとチュートリアルを終わらせるんだ俺。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ