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無(りなく)課金プレーヤーがヌルゲー世界にINしました。  作者: フェフオウフコポォ


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23/26

23 友


 穴から流れ込んでくる巨人の血が、次から次へとその姿を敵へと変えてゆく。

 それはまるで穴から雪崩のように敵が押し寄せてくるように見えた。


「させませんよ!」


 キキーモラさんが爪で生まれたての仮面を抉り消し飛ばす。


「ええーい!」


 ツムリンが蹴り飛ばしてはかじりつく。


「はっはっは!」


 ボナコンが角で突進し吹き飛ばす。


「ピュイ!」


 ハリー達が協力して回転して攻撃し切り裂く。


 前に出て攻撃してくれている皆のおかげで俺のところに敵がやってくる事はない。だが、それでも今はかろうじて防げているという言葉が相応しかった。

 穴の向こうから巨人の血は際限なく流れこみ、次から次へと生まれてくる敵。

 やがてキキーモラさん達を超えてくるのは時間の問題だ。


 穴を塞ぐ意外に流入を防ぐ術は無いように思えた。

 そしてそれは本来のストーリーの敵の流入を防ぐ為に、ゴブ吉の両親が命を賭ける流れそのものだ。


 後ろに目を向ければ、ゴブ吉の両親は神妙な顔つきで現状を判断しようとしているように見えた。

 そしてゴブ吉は自分が何をできるか、そしてどうすべきかを必死に考えている。


「ふんぬぅぅぁあ!」 


 歯を食いしばって立ち上がる。

 今、ここで動かなければ後悔することになる。それだけは分かったからだ。


 俺が攻撃をされたのは、実質(もも)の傷だけ、効いているのか効いていないのか分からない回復薬も飲んであるのだから、へたり込んでいるのは単純にクソ重い祢々切丸を振りまわした疲労。そして精神的な疲れが大きいはず。

 さっき倒れそうになったのも安心したせいで気が抜けただけだ。


「だから、動く! まだ動くんじゃボケェえっ!」


 祢々切丸を持ち上げ前へと進み、脇構えに構える。


「皆どけぇ!」


 俺の声にキキーモラさん達が反応し一斉に間合いから退く。

 祢々切丸の刃圏には巨人の血と敵の姿しかない。


「おらっしゃぁああっ!」


 横薙ぎに一閃すると、刃圏の敵に綺麗な直線が入り、そして消滅する。

 重量に振り回され俺の手から祢々切丸が落ちた。


 腕の筋肉の筋の至る所で電気が走るような痛みに持ち支える事ができなくなっていたのだ。


 またすぐに出現する敵をキキーモラさん達が攻撃し屠る。


 祢々切丸の攻撃は強力だが俺の腕も限界に近い。それに刃圏が広すぎてみんなの邪魔にもなりかねないと判断し俺は腰の後ろに携えていたダガーを手に取り攻撃に加わるのだった。



--*--*--



 敵をダガーで屠っていると思考が少しクリアになってきたように感じ、そして気が付いた。そういえばこのダガーは『吸血のダガー』で相手の体力を吸収するとかしないとかの効果があるんだったことに。


「まだまだやれんぞこの野郎が!」


 プラシーボ効果かもしれないけれど結果として身体が動くのであればそれでいい。

 ただ、頭がクリアになればなるほど今の現状がストーリーをなぞっている事に気づいてしまう。


 俺やキキーモラさん達、そしてハリー達で敵を食い止めているとはいえ、あくまで食い止めているだけ。俺は体力を吸収できても皆が際限なく戦えるわけではない。

 それに今の敵が中級の敵だから耐えられているが、これに上級が混じり始めてしまえば同じようにはいかないだろう。


 時間は限られている。

 ますますストーリーに近い。


「皆さん! もう少しだけ堪えてください! 私達が何とかします!」


 ゴブ吉のお父さんの声が聞こえた。

 いよいよストーリーの終盤が近づいてきている。


「あぁあ! くそっ! キキーモラさん! ちょっとだけ抜けるけど堪えてくれ!」

「分かりました。必殺技を使う許可だけ皆にください。」

「おう! みんな使いたい時に必殺技を使え!」

「はっはっは! 了解した! くらえい!」


 俺の言葉にすぐにボナコンが反応しSSRの角依存の必殺技を放ち、それを横目で見たキキーモラさんが呆れたように口を開く。


「まったく……すぐに使うとは……とりあえずツムリンが重ねて全体攻撃にしますか?」

「ピュイ!」

「あら? あなたが重ねますか? ではどうぞ。」


 ハリーが必殺技を続け、全体攻撃の必殺技へと進化し敵に放たれる。攻撃を見届けた余裕が生まれた俺は踵を返してゴブ吉たちの下へと駆ける。


 ゴブ吉の両親は目を閉じ印を結ぶような恰好で集中していた。

 そしてゴブ吉はどうしたら良いかの未だ分かっていないようで、ただ狼狽えている。


「待て!」


 並んでいたゴブ吉の両親の肩に集中を途切れさせるように乱暴に手をやる。


「何をするんだ! 早くしないと君たちも危ないんだぞ!」


  衝撃を受け中断されたイラ断ちを隠すことなくお父さんが口を開いた。俺はすぐに声を重ねて返す。


「うるせぇ! その代わりあんたらが死んだらなんにもならねぇだろうが!

 いいか! 俺が未来を教えてやる! あんたらが一か八かで賭けた結果は失敗する! 絶対に失敗する! そしてお父さん! まずアンタが死ぬ!」


 お父さんの肩に乗せた右手に力を籠める。


「そしてお母さん! アンタは瀕死になって、ゴブ吉に力を託して死ぬ!」


 お母さんの肩に乗せた左手に力を籠める。


「そんな!」


 二人の後ろに居たゴブ吉が叫んだ。


「そしてゴブ吉! お前があの穴を閉める事になるんだ! 一時的にな!

 そしてそれを完全に封印する力を得る為に、俺達と五行の異世界に旅に出ることになる!」

「俺が!?」

「そうだよお前だよ! それがあのデカイヤツが言ってた運命がコレなんだよ!」 


 ゴブ吉のお父さんが静かに口を開く。


「だとしてもどうしろと? 今、あの穴を塞ぐ力があるのは私達しかいないでしょう。」

「いいや違うね!」


 俺は両親を引きはがすように両手を広げて二人を離す。

 そして二人の間に見えたゴブ吉の下へと足を進める。



「あああああああああああああああああ」



 蹴った。



 ゴブ吉が空を舞う。


 声を上げながら飛ぶ。



 ポカンと口を開けたままソレを眺めるゴブ吉の両親。


 いつも通りに着地し、こっちに向かって怒り顔で走ってくるゴブ吉。



「何すんだコラァっ!」



 怒りのゴブリンパンチだ。

 だが俺はそれを手で受け止めた。



「お前こそ何してんだコラァっ!」


 怒鳴り返し、そしてゴブ吉の両肩を掴み揺さぶる。


「お前このままだと親を失うんだぞ!

 お前お母さんから力を受け継いだだけで一時的にでも止めちまうくらい才能あるんだろうが!

 なんでただ狼狽えてるやがる! お前にできる事があるはずだろうが!」


 目をパチクリさせるゴブ吉。

 後ろに居るゴブ吉両親に向き直る。


「というわけでお父さん! お母さん! アンタ達二人だと失敗するから、アンタら家族三人でやってくれ! ゴブ吉の才能を無理矢理にでも目覚めさせてな! それくらいの時間は俺達が頑張って稼ぐ!」


「そんな……無茶だろ。」


 戸惑うようなゴブ吉の声が聞こえた。



 ので



「あああああああああああああああああ」



 蹴った。


 またも放物線を描き、着地して戻ってくるゴブ吉。

 走って俺に向かってくるゴブ吉に向って叫ぶ。


「お前はモテフラグめっちゃ持ってんだろうが! どこぞの無自覚系エセ主人公みたくよぉ! 俺はモテフラグ一つもねぇんだぞクソが!」

「何言ってるかわかんねぇよ!」


 俺に向かって走りながら答えるゴブ吉。


「俺は工房だって使えねぇし『アレ? 俺ってただの傍観者なんじゃねぇ?』って何回思ったと思うよ!

 折角ゴブ吉より役に立てるようになったかと思えば、とことん敵に無視されて超、虚しいしよぉ!」

「知るかよ!」


「でも巨人が言ったぞ! 俺が運命を捻じれさせた! 変えたってな!」

「――っ!」


「お前はずっと俺の近くに居ただろ! 運命を変える力を持つこの俺と一緒によ!」

「……」


「お前はなんだ!? 俺の親友だろ!? どんだけ一緒に居たと思ってんだよ!」

「……」


「お前も変えて見せろや! 先に待つ道! 運命をよ!」

「ボケェ!」



「スネーーーっ!」


 いつになく力が乗っていて、とても痛い。

 むしろ腿が痛いのをさらに刺激されてヤバイ。


 思わず倒れ転げまわる。

 

 痛みに涙目になりながらもゴブ吉を見ると、俺を見下しながら荒く息をしていた。


「やってやんよっ!」


 力強く発せられるゴブ吉の声。


「俺は運命を変える男の親友だからな!」


 そしてニっと笑った。

 俺もその顔を見て片方の口角があがる。


 それを見て俺は立ち上がり、そしてダガーを手に穴へと向き直る。


「出来るだけ時間は稼いでやるからな。

 だからやってみせろよ……親友。」


 信じて、俺は足を踏み出した。


「一緒に変えるぞ。未来を。

 みんなで生き残るんだ!」

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