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2 なんなんぞ?


「クソォ……クソォ……」


 拳をもって拭いきれぬ悲しみを大地にぶつける。何度も。何度も。

 拳が痛む。だが止めることなどどうしてできようか。


 なんでまともなモンスター娘じゃないんだ!

 正直、サキュバスとかいかないまでもラミアとか期待しました。いけませんか? 男が色気を期待しちゃいけませんか? 夢をもっちゃいけませんでしたか? 罪ですか? これは贖罪なんですか?


 拳を打ちつける度にガッ、ガッと地面が鳴る。


「だ、大丈夫ですか?」


 そんな俺に対して恐る恐るといった雰囲気で近づき声をかけてくるツムリン。


「よーし、そこで止まれ。」

「ひ、ひゃい!」


 涙をこらえた俺の指示通りに立ち止まったツムリンを見据え、右手で自分の視界の半分を隠すとツムリンの上半身だけが見える。


「うん……うん。うん。」


 隠しながら目を細めて眺め、二度、そして三度と頷く。


「おい、お前、初対面の貴重なモンスターに対して失礼だぞ。」

「うっさいゴブ野郎黙れ。」

「チッ!」


 隠した視界から聞こえたゴミ声に対して声だけを返すと舌打ちが聞こえたが静かになった。まったくもって失礼なヤツだ。


「あ、あの。ボクは別に大丈夫ですよ? ゴブ吉さん」


 斜め下を見て、ゴミ野郎にフォローの言葉をかけるツムリン。

 言葉ではなく拳を持ってでしかコミュニケーションを取れないような低俗な存在に対して、お優しいことだ。


 だが膝に手をついて屈んだだろうせいか、胸の微かなふくらみが強調され素晴らしい。なんせビキニだ。素晴らしい。

 オッパイハンター的にはBカップ……Bプラスくらいと見て間違いない。


「うん……うん。悪くない。」


 いや、実際は悪くないどころか非常に好ましい。


 オカッパだけれどボブのように少し長い髪型、いかにも弱弱しそうに下がる眉尻とたれた目。控えめな鼻となぜか三角形のように見える口。全てのパーツは線対称で整っており、顔の作りは綺麗で可愛い。カタツムリの目をイメージしたであろう2本の触手付きカチューシャに加え、殻の形をしたリュックサックを担いだ未発達を感じさせる体躯。そしてその見かけに相応しい、俺の視線に対してオドオドと戸惑うような性格。さらにさらにそれらに加えヌルヌルテラテラのナチュラルローションでネットリプレイ真っ最中のような全身の潤い。何ならBマイナス、もしくはAプラスであっても、そのネットリ感だけで十分イケる。


 NOタッチ系列の武人達なら涎垂らしてギャバアアアと叫ぶことだろう。

 

「うん……うん。可愛い。うん。」

「え? ……えへへ。」


 頬を軽く桃色に染め恥ずかしがるツムリン。

 うん。悪くない。間違いなくご馳走だ。



 だが。



 俺の視界を隠していた右手を軽く上に移動させ、今度はツムリンの上半身を隠す。


「えぇ……」


 草を踏みしめる足は二本あり、その足でツムリンはその場に立っている。

 各足の先端に指や足首は無く足先に向かうほど末広がりに広がっているのはどう見てもナメクジのソレ。辛うじて人間らしい腰回りに身に付けている服は、ビキニを履いた上にショートパンツを履いているっぽい。

 ショートパンツとか、その足でどうやって履いたのか疑問しか浮かばないが履いているのだから仕方ない。


 だが、ここまでは正直問題にはならない。可愛いもんだ。


 肝心なのは、ショートパンツの特定部分がもっこり膨らんでいる事。

 というか恥じらいながらも、現在進行形でむくむくと肥大化しようとしている事だ。

 思わず視界からツムリンの上半身を隠していた俺の右手がだらんと下がり。溜め息交じりの声が漏れる。


「ちょっと待ってー……なに、どうして今膨らんじゃうかな?

 なんか興奮しちゃった? ねぇ、今のやりとりの間で膨らむ要素あった?」

「ご、ごめんなさい。可愛いって言われて、見つめられたら…ちょっと……」


「『ちょっと』何? 『ちょっと』なんなの!? アレか? ソレを俺に使うとかそんなつもりなのか? もう必死で抵抗すんぞオイ。」

「と、とんでもない、嬉しかっただけなんですぅ。」


 両手を胸に寄せてチワワのような可愛い目で俺に媚を売るツムリン。

 だが俺の視点は一点に注がれる。前かがみになって隠れかけた変化を俺は見過ごさなかった。

 その変化を見つけたせいで眉間にシワがより数歩後ずさる。


「もう完全にバッキバキマグナム化してるし!絶対ヤル気じゃん! 一回スッキリしないとダメなタイプじゃんその膨らみ方ぁ!」

「ちちち、違います****様!」


 聞き慣れない音が聞こえた気がして秒間6回(まばた)きをする。


「え? え? え? ちょ、今なんてった?」

「え? ……『ちちち、違います****様!』」


「いや、復唱しなくていいよ。 名前? 名前……かな? 最後の方のヤツ。」


 手振りを交えながらツムリンに理解を促す。


「……****様?」

「そうそれ!」


 思わず指をし褒める。

 嬉しかったのかツムリンが笑顔に変わる。


「****様!」

「うん! それっ! 正解!」


 笑顔で言葉を放つツムリンに俺も笑顔で答える。


「えへへへへへ。」

「んふふふふ。 ………で~…その……何? %=&-.\/?…的な謎の響きは」


「えっ? お名前ですよね? ****様の。」


「ん? ん? えっ?」

「えっ?」


 お互い訳が分からずお見合いする。

 お見合いしていると、しばらくの後ツムリンの頬がポっと染まった。

 つられて俺の目は下に注がれる。


「……だ~か~ら~! 中学生か!? 中学生並みの即断即ケツと膨張力か? もう怖いわ~!」

「ご、ごご、ごめんなさい!」


 ツムリンはその場で女の子座りに崩れ落ち恥ずかしそうに股間を押さえる。

 俺はどうしても『寄せてます寄せてます』状態のツムリンの胸の谷間に意識が移る。

 男の娘だろうが、可愛い女の子の顔をした子がオッパイを強調すれば、じっくりオッパイを見てしまうのは男の本能だ。コレは仕方ない事なんだ。



「って、スネーーっ!」


 少しどこがとは言わないけれど、ふっくらしそうになった瞬間、またもすねに痛みを覚えた。膝を折り急いで脛を撫でる。この痛みは間違いなくクソ暴力ゴミ野郎だ。


「無視すんなバカ野郎。」

「このゴブ野郎、いちいちパンチしねぇと喋れねぇのかよ! もっと『言葉』っていう知的な道具を使えボケェ!」


「『うん……うん。可愛い。うん。』とか言ってた時から、ツッコミがてら何回も喋っとったわ!」

「えっ…………嘘でしょう?」


「コレ真剣に聞こえてなかったパターンのヤツやー!」


 暴力ゴミ野郎が呆れながら四つん這いに崩れ落ちた。


 勃起し崩れ落ちるカタツムリと痛みに崩れ落ちる俺、そして己の無力感に崩れ落ちたゴミ。三者三様の地面の愛し方だった。



「てゆーか、ちょっとまって、えっととりあえず……お前ら。俺の名前言ってみ。」


「****様」

「****」


 右手で軽く拳を作り、親指と人差し指を唇に触れる位置へ動かし考える。

 どう考えても発音にしにくいような擬音にしか聞こえない響き。

 だが二人はソレを俺の名前という。なぜだ。


 あ。チュートリアルは一番はじめに名前を登録して、その後に強制ガチャを引く流れだったはず。そう言えば暴力クソゴミ野郎に名前を聞かれていたけど、ソレを無視してガチャまで飛んでいる。

 その弊害だろうか?


「うん……うん。なるほど。」


 非常事態にも関わらず冷静に分析し原因を突き止める自分の才能が怖くて、つい感心する。


「よし聞け、ツムリンとゴブ野郎。」

「はい!」

「ゴーブー吉!」


 ゴミ野郎は無視して教職員のように立ち上がり教鞭をとる。


「エフ、エフン! 俺の名前は……」


 キラキラした目で見上げるツムリンと、面倒臭そうながらもジト目を向けてくるゴミ。


「……」


 動かす教鞭に合わせて自分の名前を教えようとするが、口がパクパクとしか動かない。


「……あれ?」

「なんだよ?」


 ゴミ野郎がどうでも良さそうに声をかけてくる。

 だが、俺はゴミ野郎の不敬さなど気にならない程に焦っていた。


 自分の名前が思い出せないのだ。


 ただ口をパクパクさせているとツムリンが口を開いた。


「どうしたんですか****様」

「いや、ちょっと待って、違う、違うんだ。」


「違うって……何がですか?」

「いや、なんだか思い出せないけど、名前! 俺の名前。」


「****様?」

「うん。そうそれ、いや違う! それ違うんだ。俺はもっとちゃんとした名前があったはずなんだ! あれ?」


 俺の弁明に、ツムリンは心配そうにし、暴力ゴミ野郎は大袈裟に首を明後日の方向に半回転させながら口を開く。


「あ~あ。ちくしょう。頭おかしいヤツと出会っちゃったなぁ俺。」

「うっさいゴミ野郎が!」


 名前を思い出せないという焦りからつい本音が漏れた。

 俺の言葉にゴミ野郎が勢いよく立ち上がる。


「てッメ、のヤロ! ゴブどころかゴミとか言いやがったな! もう許さねぇ!」

「はっ! こっちだって何回もパンチしやがって、もうマジブッ飛ばすかんな!」


「ちょ、ちょっと、や、やめてくださいよ二人とも!」


「ダラァ!」

「ボケェ!」


 暴力ゴミ野郎よ。

 俺のパンチで散るが良い。


 慈悲はない。


 ――あらやだ、このゴミ野郎意外と強い。


 パンチ、キック、オーイザマインでブッ飛ばしても逆に足とか腕にしがみついてたりして全然効いてない。めっちゃ平気そう。そして地味に繰り出されるゴブリンパンチ痛い。なにこれ。やだ。やーだー。助けてタマ○ギ先生。


 あーもうスタンピングだスタンピング、踏もう。体格差活かして踏んで攻撃したろ。

 何倍もの質量に襲われたら流石にひとたまりもねーべ。


 そう思い動き出した瞬間。俺はうつ伏せに倒れていた。


「あれ?」

「あれ?」


 目の前にはゴミ野郎の顔。そして身体全体にかかってくる荷重。どうやっても動けない重さだ。

 ゴミ野郎も俺同様にうつ伏せに倒れ動けなくなっている。


 少しだけお見合いして気づいた。

 ゴミ野郎と俺の身体に、ねっとりずっしりと覆いかぶさっているのはツムリンの大きくなった足なんだと。


「もう止めてくださいよ。」


 あ。

 これアカン。


 静かに怒ってるタイプや。



--*--*--



「ゴブ吉さん。色々とすみませんでした。反省してます。」

「こちらこそすみませんでした。反省してます。」


 お互い正座で謝り合う。

 ゴブ野郎も危機管理能力には優れているようで、冷静に謝罪を返してくれている。どうやら真面目気弱なツムリンが静かにキレているのを察したようだ。

 実はこの場で一番強いであろうモンスターがキレている以上、今は恨みは水に流し協力する事が大事だと俺同様にゴブ野郎もすぐ見ぬいていた。そういうきちんと空気を読む点は評価に値する。


「まったくもう。ケンカはやめてください! 二人ともちゃんとしてください!」

「「はい。すみません。」」


 ツムリンが悲しげな顔でため息をつく。

 その様子を見て、俺とゴブ野郎は正座したまま小さく頷きあう。


『嵐は未然に防げたな』

『あぁ、冷や汗もんだった。』


 そう無言の会話を交わしたのだ。

 そんな俺達にツムリンが問いかけてきた。


「結局****様は何を言おうとしてたのですか?」

「あ、はい。」


 正座したままゴブ吉に向き直る。


「えーっと、あのですね。ゴブ吉さん。俺の名前がどうにも違うようなんです。なんかシステムエラー的な臭いがするんですが、なんとかならないもんでしょうか?」

「えぇ……なにそれ。しすてむえらーってなによ。」


 また面倒な事言いやがって的な顔をあからさまに表現するゴブ吉。正直スマンかったと思っている。


「名前が****だと問題ある?」

「ありますわ。超ありますわ。だって自分で発音できないだもん。言おうとしたら%=&-.\/?…ってなっちゃう。いい? ちょっと自己紹介するから聞いててね。

 どうも! 俺の名前は『%=&-.\/?…』です! よろしくな!」


 言葉の後、自然と生まれる無言の時。眉毛を動かしゴブ吉に問い掛ける。


「あぁ……うん。これ…は……問題あるね。」

「多分なんだけど、もっかいゴブ吉さんが名前聞いてくれると、きっと変わったりしないかなぁ? なんて思ってるんですけど……どうでしょうかね?」

「へぇ……」


 下手したてに出た瞬間に醜悪な笑みを浮かべるゴブ吉。ちくしょう。これだから低俗なヤツは厄介なんだ。

 だが、ふと焦ったようにゴミ野郎はツムリンの方に目を向け、そして俺に愛想笑いを返してきた。


「えぇ。えぇ。喜んで聞きますよ。あのお名前は?」


 うん。やはり空気を読める点は評価しようと思う。いいぞゴブ野郎。

 さて名前…………名前……


 声を出そうと思うが出ない、目が泳ぐ。

 ここにきても、やはり思い出せない。どうなっているんだ。

 ゴブ吉が俺を見て呆れたように口を半開きにし、頭を掻く。


「はい。じゃあ。もうお前『未登録ユーザー』で良いよな。」

「わぁ、未登録ユーザー様! 素敵なお名前です。」


「ちょっと待てぇ!」



ちょいと進行遅い気がする……なんかゴメンなさい。

次からテンポアップしていく予定やで!

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