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18 対抗


「これは現状打破につながるかもしれませんね。」


 キキーモラさんがいつものように何を考えているのか分からない嘴狼顔で呟いた。


「え? どうやるの? ねぇ? どうやるのモラさん!」


 藁にもすがる思いでキキーモラさんに詰め寄るが、キキーモラさんは名前を略された事すら気にせずに右手の人差し指一本を立てて俺に向け、そしてチラリと目線をくれた。


 キキーモラさんのこのポーズは時々目にした事がある。

 ちょっと時間が欲しい時だったり、小言の前だったりよく見た気がする。


 そう。

 『ちょっと静かにしてください』もしくは『黙れ』のポーズだ。

 俺はきちんとお口チャックした。


 それを見てキキーモラさんは視線をゴブ吉両親へと戻す。


「ゴブ吉さんのお母さん。

 その瞬間移動できる扉なのですが、この場所とゴブ吉さんの居た村を繋ぐ扉を開く事により、お二人に肉体的だったり精神的だったりの疲労が溜まったりはしませんか?」


 ゴブ吉のお母さんは一拍だけ考え、すぐに口を開いた。


「距離的に短く、私達も育った村ですから最も繋げやすい場所ですので、そんなに疲れる事もありません。やろうと思えば一日程度は繋げる事も可能かと。ねぇお父さん。」

「あぁ。問題はないだろう……ただ祠に開いたあの穴を塞ぐ為に力を温存したいという気持ちもあるから、あまり私達の力を使うべきではないようにも思えるが……」


「なるほど。

 ではもう一点質問ですが、その力はきちんと休息を取る事で回復しますか?」


 キキーモラさんの指は俺の方に向いて立ったまま話は続く。


「ええ。回復します。

 ただ……精神的な安息か。きちんと心から休めるかどうかが大きく影響します。」


 お母さんの言葉を補足するようにお父さんも口を開く。


「ただ、回復すると言っても、あの祠にできた穴を塞ぐ為には万全の状態であっても大きく力を使うでしょう……それこそ精神力では足りず生命力を用いる程の力が必要かもしれません。」


 流石本来であれば命を賭けて閉じようとしただけはある意思の固さが見える態度のゴブ吉のお父さん。


「父ちゃん……母ちゃん……」


 ゴブ吉は納得しているような、だがそれでも納得しきれていないような複雑な表情をしている。

 そんなことは気にせず、キキーモラさんは続ける。


「では、確認します。

 現在、ゴブ吉さんの住んでいた村に扉を開く事は可能。

 その扉は、一日程度開く事が出来る。

 きちんと心から休めれば扉を開く力は回復する。

 そして、その力は祠にある敵が出てくる穴を閉じる事ができるかもしれない。

 間違いありませんか?」


 ゴブ吉の両親は一度顔を見合わせてコクリと頷いた後、キキーモラさんに向き直ってしっかりと頷いた。

 それを確認して、今まで俺に向けて立てられていた指がスっと折れた。


「で? どうやるのモラさん!」

「そのモラさんというのは少し頂けませんが?」

「はい。調子に乗ってスミマセンでした。キキーモラさん。」


「では、私の思いついた案をお話しますので御検討頂けますでしょうか――」



--*--*--



 私は蟻人。

 今日もいつもと変わらない一日が始まる。


「よう調子はどうだ?」

「変わらないさ。」


 巣穴を出てすぐに顔を合わせた仲間と一言交わす。

 私達の生活は単純明快。

 獲物を捕まえて女王へ捧げ、残り物を食べ、そして眠る。

 動けなくなって死ぬまで永遠にこれを繰り返す。


 私達はこの為に生きているのだから、なにも不自然な事ではない。

 ただ自分の中に、このしがらみから抜け出し、思うままに生きてみたいという気持ちが無いわけでもなかった。


 だが、その一歩を踏み出す勇気もなく、変わらない毎日を過ごしている。

 今日もまた、なにも変わらない一日が始まる。



 ――そう思っていた。



 目の前にあるのは光の柱。

 神秘的な光に誘われるように足が勝手に動いてしまう。


 あの光の先に、きっとこれまでとは違う未来が輝いている。


 そう感じてしまった心は、意志を、そして身体の自由を奪っていた。

 足は勝手にどんどん光へと向かい、その中心へと踏み込んだ。


 光の柱に足が触れた途端に光は消え去り、そして見える景色は一転する。


 どうやら洞窟のようだ。


「ほんとつくづく『N』ばっかりだよなぁ……」


 声のした方へと目を向けると、なにやら見慣れない生き物が居た。

 私とはちがう弱く頼りなさそうな肌。よく動く表情。


 奇妙な生き物だ。

 それに『N』とはなんのことだろうか?


 奇妙な生き物は、いかんともし難い表情のまま洞窟の壁近くの椅子に座っているのだが、不思議な事に、どうにもこの生き物に従った方が良いように思えてくる。


「はーい。ようこそ~。じゃあそのまま向こう。洞窟の出口の方に行ってね~。で、ついたら指示に従ってね。」


 奇妙な生き物は、もう私に興味がないのか目線を外して洞窟の出口らしき方に親指を向けて2度だけ動かし、また何かしらの作業を始めている。

 私は首を傾げながらもその指示に従って進むことにした。


 足を進めていると、何人かの物を運んでいるゴブリンとすれ違う。


「いらっしゃい。蟻人さんですね。」


 さっきの奇妙な生き物よりも小さく頭から触手を生やしている恰好の、どことなく可愛らしさのある生き物が居た。

 だが私は理解する。この生き物は強いと。

 容姿などまやかしでしかない。この者は強者のオーラを纏っている。


「蟻人さんは『牙』ですよね。はいどうぞ。」

「これは……」


 そう言って私の手に渡されたのは、ギラリと光る『尖った牙』

 これを使えれば、これまでにない力を振るう事が出来るに違いない代物だ。


「運がよかったですね。さっきちょうど『R』が出たんですよ。活躍間違いなしですね。」


 ニコリと微笑む強者。


 これはもしかしなくても私に与えられた物なのだろう。ただコクリと頷き牙を口に装着する。

 尖った牙はすぐに自分の身体の一部だったかのように馴染んでゆく。


「おぉ……これは……」

「ふふっ。装備し終わりましたね。じゃあ、この穴を通って先に進んでください。」


 私はコクリとだけ頷き『穴』と呼ばれている物へと足を踏み入れる。

 するとその先は外に繋がっていた。


 ただの外ではない。喧騒。戦いの音。そこかしこから聞こえてくる力を振るう音。

 どこか夢見心地だった意識がはっきりと覚醒する。


「はっはっはっは! よく来た! さぁ、前へ! そして最前線に居る司令官に指示を仰ぎたまえ!」


 後ろからした声に振り向けば、牛の顔。

 だが、これまた強者のオーラが漂っている。特にその角の禍々しさは異常ですらある。


 私はまたもコクリとだけ、頷き、足を動かす。

 まだここがどこか何なのかすら分かってはいないが一つだけ分かる事がある。


 私は戦いに身を投じる事になるのだと。

 これまでとはまるで違う日々が始まるのだと!


「……ふふっ」


 自然と笑いが零れるような血沸き肉躍る感覚を覚えながらも、先ほどの牛の言葉を思い出す。


 『前に居る司令官に指示を仰げ』


 そう言っていたが誰が司令官かすら分からない。だが、とにかく前に進むしかないのだろう。

 そうして歩みを進めると、すぐに『司令官』という存在が分かった。


 喧騒の間近で全体を見ながら指示を出している強者が居たからだ。

 その者の下へと足を運ぶと、私の他に待機している樹人と猫人の姿があった。彼らもそれぞれ武器を手にしている。


 司令官は私が来たことを確認すると口を開いた。


「貴方たちは今いる3人で一組とします。現在、左右に味方を広げ『鶴翼の陣』を展開し敵に対抗しています。

 敵の進行は既に完全に止まっており、こちらはどんどん増援がきます。

 あなた方はこのまま右翼を進んで、その中で負傷した編隊、交代を希望する編隊を探して敵と戦ってください。

 もし交代希望者がいなければ最端まで進んで敵と戦ってください。何か質問は?」


 樹人と猫人に目を向けると、二人は特に疑問は無いように見えた。

 それは私も一緒だ。自分でも不思議だが戦いがあるのであれば戦いたかった。

 早く腕を試してみたくなっていた。


「ふむ。では良いでしょう。蟻人さん。あなたは全体を見るのが得意そうですので、あなたが編隊のリーダーとなってください。」

「了解した。

 よろしく頼む。」


 樹人と猫人に声をかけると。二人もコクリと頷いた。


「では、行動を始めてください。」


 こうして司令官の言葉と共に、私達は戦いへと身を投じる事になるのだった。



--*--*--



「はぁあぁぁ……」


 俺は盛大に溜息をつく。

 ついた溜息が洞窟に反響して盛大な溜息に変化する。


 光が治まって見えてきた姿は、また人型の蟻の姿。


「ほんとつくづく『N』ばっかりだよなぁ……はーい。ようこそ~。

 じゃあ洞窟の出口に向かってね~。そこに案内がいるから。」


 キキーモラさんの出した案は、至極単純。

 実際このゲームの世界でやって良かったのか、そしてできるのかは分からなかったが、やってしまえたからどうでもいい。


 キキーモラさんの案。

 それは『物量で押してくるのであれば、物量で押し返せ』だ。


 つまり、ゴブ吉の両親がベースに繋がる扉を開けるのであれば敵を倒して手に入るモンスターコインを使って戦える仲間を増やしてしまえばいいという物。

 戦いは数だというアレだろうか。


 その案を聞いて俺が、味方が増えるのはいいけれど腹が減るヤツもいるだろうし兵站としての食糧はどうするの? と聞いたら、キキーモラさんは「ふふふ」と笑うだけだった。多分笑うという事は何かしら解決策があるんだろう。


 なのでモラさんを信じる事にした。


 というわけで俺が与えられた仕事は延々と通常ガチャを回し続ける事。

 敵を倒すことで味方が増え続けるのだから、いつか必ず相手を飲み込む事ができる。

 俺はその転機を迎えるまでひたすら回し続ければいいのだ。


「まぁ、今をどうにかしないと、どうにもならないもんな。」


 村のゴブリンがコインや武器運びを手伝ってくれるのでもってきてくれたコインを受け取り、通常ガチャ10連を回す。


「こーい。こい。Rこい。」

 

 また光の柱が立ちモンスターが現れる。

 もちろん願う声はもう諦めの声でしかない。


「ん~、魚人。 はい、よーこそ。」


 そろそろ薄々なんとなく気が付いていたが……俺はガチャ運は無いようだ。

 そんなことを思いつつ次の召喚で何が出てくるか眺めていると伝令役となっているゴブ吉がやってきた。


「お疲れ。」

「おうお疲れ。なんだ?」

「キキーモラさんが、もう数は十分だって。

 包囲殲滅に移るから出張でばってこいってさ。」


 正直座り続けて召喚し続けるのに飽きていたからグッドタイミングと思わざるを得ない。


「んもー。人使いが荒いんだからなぁ~キキーモラさんは!」


 一つ伸びをしてからダガーを手に取るのだった。


「さっ、片づけるぞぉ! やっちゃうぞぉ俺!」

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