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17 皺寄せ


 しわ寄せ:行動の結果、生じた無理や矛盾を他に押し付けること――


 未登録ユーザーとして、この世界に降り立った彼は、降り立ったその時からこの世界に『歪み』を生じさせていた。

 それは名前であったり戦い方であったり、彼を中心にこの世界に小さな『歪み』を常に生みだし続けていた。

 幸いなことに彼は、世界の大きな流れには関わろうとせず、切り離して考えることが可能な世界でのみ活動し、歪みは比較的小さいもので、世界に大きく影響することは無かった。


 だが彼は、とうとう世界の流れに関わる点においても歪みを生み始めた。


 世界の進行は言葉を置き換えれば『運命』とも言える。


 だが、彼の歪みはその運命をゆがめた。

 燃え果てていたはずの命。消えるはずの火が灯った。


 あるはずのものがない。

 ないはずのものがある。


 それはやがて歪みから、うねりへ進化し、波へと姿を変える。


 進むべきはずだった未来は、一定方向ではなく多方面へ未来への扉を開き、無限とも思える可能性にあふれてしまった。




 だが、運命はそれを許さない。




 運命とは進めべき定め。

 決められた未来。

 絶対の価値観。


 それを覆す者などあってはならない。


 そんなことができるのは、それこそ世界を作った神に他ならないからだ。


 この世界に生きる者が超えてはならない領分がある。

 だからこそ運命は、彼が生み出した歪み。そしてうねりを消しさるべく動かざるを得なかった――


「何がどうなったぁーー!!」


 つい、そう叫ぶほどの光景。


 地球における最高峰の山々であるアンナプルナ連邦を思わせるような山を遠くに眺めながら近くの山にある祠に向かっていたはずだが、目の前に広がるのは山のふもとの緑ではなく、キキーモラさんの走ってくる姿と、その後ろに大軍をなす初級モンスターの姿という目を疑うような光景。

 初級モンスターの数は、余りに多すぎて地鳴りが聞こえてくるような錯覚を覚える程の数だ。


 突然の事に戸惑うが戸惑っていても現状は変わらない。

 この場から走って逃げたいが、キキーモラさんのような走る速度を俺が出すことはできない。すぐに敵に追いつかれるのは目に見えている。

 ボナコンに跨って逃げ出すことは可能だ。だが逃げるとしても一体どこへ逃げればいいのか。助けた村に逃げこんでも村ごと敵に飲み込まれる未来が容易に想像できる。


「おいおいおい、ただ事じゃねぇぞコレは!」

「ど、どうしましょう!? 未登録ユーザー様!」

「はっはっは! 突っ込むか?」


 考える事において仲間は頼りにならないから俺が考えなければいけない。

 大量の敵を前に、逃げることは不可となれば……


「立ち向かうしか選択肢がないっ!

 ツムリン! ボナコン! 編隊を前に! 俺は回り込まれることを前提に後方を守る。

 編隊で三角形を作るようにして敵が侵入できないように隙間を埋めろ!

 まずはキキーモラさんを保護できるように防御陣形を敷くぞ!」


「はいっ!」

「はっはっは!」


 ボナコンは駆け出した。


「だーっ! ボナコン違うっ! なんでお前は前に動くんだよ!」

「攻めるのは最大の防御と聞くが?」


「いい! もうそれ正解でいい! でも今回だけはお前は動かなくていいから、そこで止まってて! 敵が来たら迎撃な!」

「はっはっは! わかった!」


 こうして、ボナコンの編隊を前線として、ツムリンの編隊と俺のハリネズミ編隊で正三角形の形を作るように陣が組めた頃、キキーモラさんの姿はその表情を確認できるほどに近づいていた。だがくちばし狼の顔なので、何を考えているのは読めそうにない。

 キキーモラさんは両脇にゴブリンを抱えたまま前線となっているボナコンの編隊をジャンプして飛び越える。両脇にゴブリンを抱えたまま前転宙返りし、そのまま正三角形の陣の中心にざざっと音を立てながら着地した。


「……ただいま戻りました。」


 両脇に抱えていたゴブリンを地面へおろし、パンパンとスカートについたホコリを払うキキーモラさん。

 あれだけ走っていたというのに息ひとつ切れていない。

 そして着衣の乱れを淡々と直し始めている。


「はい冷静! なぜに冷静この状況で!? まだなにも終わってないし、いっそのことこれから始まるよね!?」


 思わずツッコミを入れてしまう。


「合流できれば一応はお仕事ができたかと思いましたので少しほっとしておりました。」

「はいそうですね有難うございます大変お疲れ様でした! じゃあ早速お願いなのですが、これから危機的状況の打開策を一緒に考えてもらえませんかぁ! 後もしこうなった原因か何かが分かるようであればご説明願いたいんですがぁ!」


「忙しいですね。

 現状を見れば仕方ありませんか。まずは報告から行いますか?」

「宜しくお願いします! って言ってももう接敵しそうなので確認しながらぁあああ!」

「少し落ち着いてください。慌てたからといってどうとなることもありませんよ?」

「豪胆か!」


「父ちゃん! 母ちゃん!」

「おぉゴブ吉っ!」

「一体なにがどうなっているの?」


 ゴブリンの声に我に返った。

 普通のゴブリンたちは『布の服』を着ているのだが、ゴブ吉の両親は揃ってまるで祈祷師のような衣服をまとっていた。明らかに彼らが特別であるという事が見た目からしてよくわかる。


 それもそのはず。彼らはこの世界でいうところの異世界につながる穴を開ける力を持っているから安全な祠で生活していたのだ。

 だが逆にその力が呼び水になって敵が近くに穴を開けてしまった。本来は俺たちが近づくころに二人は穴を閉じる為に一か八かの賭けに出て、そして賭けに負けてしまい瀕死の状態になる。今はその勝負に出る前にキキーモラさんに誘拐されたというわけだ。混乱していても当然だろう。


「はっはっは! 未登録ユーザー殿! 接敵するぞ!」

「ああもう説明しているヒマは無いな!」


 前線になっているボナコンの編隊に目を向けると、すぐに接敵した。

 そして接敵と同時に敵の波にのまれてすぐに囲い込まれてしまい、ツムリンの編隊と俺のハリネズミ部隊も戦闘に入った。


 戦闘はこれまで通り人数制が守られているのか、これだけの敵の数にも関わらず編隊当たり3~5匹の敵しか対峙してこない。

 だから正三角形に組んだ編隊の中にいる俺たちは無事だった。そして敵の軍団の進行もそこでピタリと止まっている。

 数に押されてしまうと流石にどうにもならないと思っていたから助かったと心底思う。


 そして戦い自体はレベル差が随分あるようで、こちらの攻撃が全て先行し運が悪いと少しダメージをもらう程度の力の差がある。その様子から、なんとか持ちこたえることはできそうだと思えて、焦っていた心を息を深く吐いて落ち着かせる。


「よし。とりあえず編隊に囲まれた中でなら話をする余裕はありそうだな。

 キキーモラさん。キキーモラさんの編隊はどうした?」

「はい。置いてきました。」


「置いてきたの!?」

「ええ。祠にあった『穴』から出てくる敵から隠れていたゴブ吉さんの両親を確保したところ、敵の矛先が一気に私に向きました。編隊でも対応できるかと思っていたのですが、それ以外に私達を無視して村へと向かっていた敵まで急遽全部反転して向かってきた為、挟撃される形になってしまい私が単独で戦うことになりそうと判断。そして、そのまま戦えばゴブ吉さんの両親はケガをすると思い部隊には後退しながら戦うように指示を残して私はお二人の安全確保の為に離脱しました。」


「はい有難うございます。それ以外の選択肢はなかったですね完璧ですね流石です。

 ……なぜにその状況でそこまで冷静に判断できるのよキキーモラさん……」


「仕事というのは焦ってするものではありませんよ?」

「はいそうですねうんまぁいいか!

 問題はこれからどうするかだよな……目的としては祠まで移動して穴を塞ぐんだけど……」 


 そこまで言って周りの光景を見まわす。


 敵。敵。敵。


 敵の姿で祠に続く山道は埋め尽くされてしまっている。


「これ……動けると思う?」


 キキーモラさんとツムリンが目をかつて道があった方へと向け、ボナコンはただ笑う。

 キキーモラさんとツムリンが向かい合って一度頷きあう。


「「 無理ですね。 」」

「はっはっはっは!」


「詰んだ!」


 俺は崩れ落ち地を拳で打つ。


「あ、あの……」

「んだよ!」


 ビクっと後ずさるゴブリン。


「のヤロっ!」

「ボディっ!?」


 脇腹に走る痛み。

 思わず押さえる程の痛みだ。


「カーチャン脅すなボケ野郎!」

「……メェ……の…ゴブ野郎……マジ痛かったぞ……場の状況読めよ……

 ただ、カーチャンに関しては悪かった。正直スマン。」


 フンと鼻を大きく鳴らしたゴブ吉にそっと手を伸ばして制するゴブリン。


「ゴブ吉……大丈夫だから。乱暴はいけないわ。

 あの、これまでの話を聞かせて頂いたのですが、どうやら助けて頂いたようで有難うございました。」


 しずしずと頭を下げるゴブリン。多分ゴブ吉のカーチャンだろう。

 俺も四つん這いのまま頭を下げ返す。


「お役に立てるかは分かりませんが私とお父さんで協力すれば村へ続く穴を開くことができます。」

「え? それってファストトラベルみたいなヤツって事?」

「ファストトラベル? というのが何かわかりかねますが瞬間移動の扉といえば伝わりやすいでしょうか?」


 俺は嬉しくなりつい立ち上がる。


「すっげぇ! じゃあそれで逃げれるじゃん! やったぁ!」

「えぇ……ただ、私とお父さんは動けませんので、この場に残る事になりますが……」

「意味ないじゃん!」


 再度ガックリとうなだれる。


「お役に立てなくてスミマセン……」


 内心『ホントそうですよ』と思っているとキキーモラさんの声が聞こえた。


「これは現状打破につながるかもしれませんね。」

「えっ?」

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